乳王〈後編〉

 乳王ちちおうの間には、扉や柱、天井から床板に至るまで、おびただしい数の乳房紋様が刻まれていた。


 乳毯にゅうたんが敷かれた一本道の先には双玉座そうぎょくざが置かれており、胸元を湿らせた乳王が座っている。


 王子の両腕と両乳は、乳縄ちちなわで巻き上げられていた。本来であれば乳縄によって、乳房の形がありありと浮かび上がるはずだったのだが、王子の水平線のような乳房には何の効果も無かった。


 バスティ王子の右には、弾力のありそうな巨乳をぶらさげた一谷ひたに若乳わかちちが、腰を落として控えている。


 乳王は彼乳一谷だけを残し、脇に控えていた他の乳官にゅうかんたちを下がらせた。


「こんな騒ぎを起こして、御先乳ごせんにゅ様に申乳訳もうちわけが立たぬわ。そちは、とんだ乳狂いよ」


 乳衣から突き出んばかりに膨らんだ双つのパイの実が、プルンと揺れた。その乳首と乳輪は、王子を威嚇するかのように固く尖っていた。


「育て方を間違われましたな、乳上」

「これ、そちが申すでない」


 双玉座の下の乳毯は色濃く染まり、乳溜ちちだまりになっていた。歴代の乳王たちが滴らせてきたその床からは、得も言われぬ芳香が漂っている。


「そちはもう立派な成乳じゃ。明日には儀礼を済ませ、乳渡りの旅に出るのじゃぞ? それをわかっておるのか?」


「はて? 乳渡りとは何のことでございましょう?」

「ぺたなことを申すでない。乳渡りは、王家を継ぐ者の定めなのじゃ」


「では、わちは乳王様の乳を呑んだことがございませぬゆえ、そのような定めに従う乳理にゅうりも有りますまい」

「またそれを申すか……」


 乳王は、手元の乳瓶ちちがめに注がれた乳汁を、ゴキュンゴキュンと呑み干した。


「そちには乳心ちちごころがつく前に、たぁんと乳をくれてやったわ」


「それは嘘にございまする。わちは乳上から一滴たりとも乳汁を頂いた覚えがございませぬ。乳臣にゅうしんたちからも、『王子は赤子の頃から、乳君様のおんぱいπと、乳慕の乳しか呑ませてもらえなかった』と聞いておりまするぞ!」


 乳王の超巨大美乳が微かに震えたのを、王子の眼は見逃さなかった。


「ともかく、罰は受けてもらう。フェリン、こやちを乳縛り部屋に」

乳意にゅい


 隣に控えていた若乳が立ち上がり、乳縄で縛られた王子を起こして立たせた。

 王子は怒りの収まらぬ乳首を乳王の方へ向けながら、部屋の外へと連れ出されていった。



  ω ω ω



 天頂まで上ったπぱいようがニプル山の麓に落ちるまで、王子は両手を後ろに回したまま、限りなく水平に近い乳房を乳柱に縛り付けられていた。


「うーん、八十……」


 窓もなく薄暗いお搾り部屋の中で、王子は一睡もせずに乳壁ちちかべを睨み続けていた。その壁の染みから、乳房の形を見つける遊びをしていたのだが、暇で暇で仕方がない。


 ちょうど八十一対目を数え終えたところで、戸を叩く音がした。


「乳王様のお許しが出ましたので、乳縄をお解きに参りました」


 戸の向こう側から聞こえてきたのは、王子の世話係を務めていた乳守ラクト・フェリンの声だ。


「遅い、早よう」


 入ってきたフェリンの手によって、小さな乳房が解放された。

 だが自由になったにもかかわらず、王子の乳は相も変わらずしぼんだままだった。


「なぜ乳上は、わちにだけ乳を呑ませてくれないのじゃ……そちも呑んだことがあるのじゃろう?」

「えぇ、何度か。病に伏せた際に頂きました」


 どんな乳臣の子も、どんな乳官の子も、どんな乳民の子でさえ、両親の乳を呑んで育つもの。

 にもかかわらず、バスティ王子は乳王から授乳をされた記憶が一滴も無かった。乳君から乳を吸ったことは幾度もあれど、乳親ちちおやであるバスティ乳王の乳を吸った覚えが無い。


 機会があるごとに、何度も吸わせてもうおうと頼んでみたのだが、一向に相乳あいにゅにしてくれぬまま。

 もしかすると乳上は、自分の本当の乳親ではないのではなかろうか。

 そんな想いに苛まれてしまうと、どんなに美味しい乳を呑もうが、途端に味がしなくなるのだった。


「にゅるい! にゅるい! にゅるいぞ! どんな味だった?」

「それはそれは濃厚な乳の塊で、喉がつかえてしまうかと思われるほど。あのような乳は、渡来の者からも呑んだことがございませぬ」


「よいのぅ、よいのぅ」


「明日の儀礼では、さすがの乳王様も御πを呑ませてくれましょう。成乳の儀でお振舞いになるため、今は乳溜ちだめをしておられるのでしょうから」

「生まれて初めてで終いの一口か……乳上は、ひんじゃのぅ」


 王子はフェリンの乳房をまじまじと見つめた。それは乳王や乳君のものと比べると小さかったが、そこらの乳臣のものよりは遙かに大きな美巨乳だった。


 そしてまた、その乳の魅力は大きさばかりではない。弾けんばかりに張った若乳は、垂れることなく前方へと突き出ており、胸元に深い谷間を作っていた。乳豊かなプロティーン王国と言えど、フェリンの抱える両の乳房ほど美しいものは存在しないと、どの乳臣たちも褒め称えていた。


「そち、また乳房が膨らんだのではないか?」


真乳まこちに吸い難き乳合ちあわせ。わたちちも乳渡りのお供で乾かぬよう、乳を呑み溜めていたのでございまする」


「どれ、味見させぃ」

「これより御夕飲ごゆういんでございますので――」

「一口だけ!!」


「……はぁ。それでは一口だけでございますよ」


 王子はフェリンの乳衣を下にずらし、彼乳の左乳を露わにすると、鼻孔をくすぐる濃密な香りに唾を飲み込んだ。


 艶めき、張りのある若乳が、吸われたそうにこちらを見つめている。


 いてもたってもいられなくなった王子は、その乳輪ごとブチュッと口に頬張った。


 すると、吸う間もなく勢いあまった乳汁が迸り、口いっぱいにフェリンの温もりが満ち満ちていくではないか。

 その濃さは朝方に呑んだ乳臣の乳汁の比ではなく、もう少しで貴重な乳汁を吹きこぼしてしまいそうになるほど。


 暖かくも濃厚な乳塊ちちがたまりをゴキュンゴキュンと呑み下すと、愛おしくなるような味の余韻が、喉の奥を撫でて落ちていった。大きさだけでなく、味も天下一汁てんかいちじゅうであるに違いないと、王子は思った。


「うむ。まったりとした優しいとろみの中に、舌を抱きしめるような旨みと、しめやかな、忍ぶような甘みが含まれておる。幼い頃から馴染んだ味じゃ。どれ、もう一口――おっと」


 フェリンは王子の口が乳房から離れたのを見逃さずに、乳衣を捲り上げた。

「なりませぬ。乳渡りの旅に出た暁には、毎日のようにそのお口元へと御πを捧げますゆえ」


 王子は口を尖らせながらも、その場は吸い下がった。

 自分と同じく、フェリンが一度言い出したら聞かない性格だと知っていたからだ。


「ならば危険を承知で乳渡りへと出立せねば。その乳を呑み干し、平らになるまで萎ませてくれようぞ」


 フェリンの美巨乳が、嬉しそうにポヨンと弾んだ。

「そのお言葉、どうかお忘れなきように」

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