第一章 プロティーン王国

乳王〈前編〉

 目の前に、おっぱいがあった。


 弾けんばかりに実った薄橙色の双球は、こちらを挑発するかのごとく、ツンと聳え立っていた。


 その紅に染まる乳首からは、白の雫が滴り落ちている。

 間違いない。それは呑まれたがっているのだ。

 バスティ王子は、その豊満な乳房に吸い付いた。


「王子! 何をなさるのです!?」


 突然の行動に驚いた乳臣にゅうしんが王子の肩を掴み、乳房から離そうとした。


 しかし、バスティ王子の吸引力は並大抵のものではない。その唇は乳首を決して離そうとはせず、無理やりにでも引っ張れば、乳首ごと取れてしまうに違いなかった。


 乳臣は完全に乳断にゅだんしていた。乳宮にゅうぐうの最奥にある部屋、乳所ちちどころにて乳王への捧げちちを搾っていたところ、背後から現れたバスティ王子に捕まってしまったのだ。


 まだ王子は小さな子供とはいえ、明日には成乳せいにゅうの儀を控えている年頃。それに乳親ちちおや譲りの、乳への旺盛な吸着心もある。乳衣を脱いでいたところに現れた時点で、王子のことを警戒すべきだったのだ。


「よいではないか、よいではないか」


 王子は右乳を吸いながらも、左乳の一点を指で摘んだ。するとそこから白い間欠泉が吹き出し、王子の横顔に浴びせかけられた。


「ああっ……そこはぁ……」


 王子は乳臣が乳瓶ちちがめに乳汁を注ぐ姿を覗き見ており、乳を出やすくするツボを心得ていた。

 すかさず王子は、左乳首から止めどなく滴る命の汁を頬張った。


 乳臣は身をよじらせながらも、必死に考えを巡らせた。


「……なりませぬ。乳法にゅうほうの禁を破られては、上様からお叱りを受けてしまいますゆえ」


「そなたの両果は、こんなにも乳汁を溢れさせておるではないか。わちに呑まれたがっておる証じゃ」


「あぁ……このようなところを誰かに見られでもしたら……」


「構わぬ。ここには、わちに逆らえる者などおらぬわ」


 乳所は聖なる場とされており、一部の者しかその前を通ることを許されていない。王子もそのことを知りながら、安乳あんにゅうして乳房を頬張っていたのだ。


 ところがそこへ、何乳かの足が床を擦るような音が近付いてきた。


 戸が横に開かれると――


「そこで何をしている」


 と、優しくも威厳に満ちた声音が王子の頭上に降りかかってきた。


 王子が振り返ると、いくつもの乳石にゅうせきを散りばめた乳衣ちちごろもを羽織った者が、その巨大なる乳房をブルルンと揺らして、乳王立にゅおうだちしているではないか。


乳君ちちぎみ様!」


 乳臣はそう叫ぶと、王子の口元が乳首から離れた一瞬の隙をつき、胸元を乳衣で覆い隠した。

 そして両手を床につけ、前屈みになって乳を下に垂らし、この国で第二の乳力者にゅうりょくしゃである乳君に向けて、服乳ふくにゅうの意を示した。


 一方で王子は、まだ発達途上のなだらかな胸を、乳一杯ちちいっぱいに反らせていた。


「見てわかりませぬか? この者の乳を吸っておったのでございまする」


 王子は口から滴る乳の雫を袖で拭きながら、自分を育ててくれた乳君の胸元を流し見た。


 その乳は若かりし頃――王子が生まれて間もない頃の大きさ――には遠く及ばぬものの、乳臣たちからは絶景と評されている左右均等の双子山を、今でも綺麗に保っていた。


 その乳汁の味は、到底一言で表すことなど出来まい。鋭い甘味、麗らかな酸味、迫り来る旨味、優しい苦味などの入り交じった、複雑怪味な代物であった。最後に呑んだのは、もう一年も前のことになる。


 乳君の乳首は乳衣の中から王子を睨み、なおも突っ張っていた。


御乳上おちちうえ側乳そくちちに舌を出すなど、決して許されぬ振る舞い。王子とはゆえ、王家の乳法には従ってもらわねばなりませぬ。この件は、御乳上にお叱り頂かねばなりますまい」


勝乳かっちにせい!」


 バスティ王子はそう吐き捨てると、その場から乳目散ちちもくさんに駆けだした。


 王子が乳宮の廊下を走り回ると、各部屋を仕切る乳布ちちぬのが捲れ上がり、至る所から淡い悲鳴が上がった。


「揉まれたい乳はどこじゃあ! 吸われたい乳はどこじゃあ!」


 大きい乳、柔らかい乳、揉みごたえのある乳、甘い乳、酸っぱい乳、濃い乳、熱い乳。

 国中で最も質の高い乳を出す者たちの乳房を、王子は触って、握って、揉んで、吸って回っていった。


「わちには、恐れるものなど何もないのじゃあ! 揉ませろぉ! 吸わせろぉ!」


 逃げる乳臣、追う王子。躓く乳臣、捕まえる王子。


 王子は後ろから乳臣の乳房を揉みしだくと、その者の持っていた乳瓶を掴み取り、頭の先から足の先まで、乳汁の滝を浴びた。


 その身に付けていた乳衣を乳汁でひたひたに湿らせながら、王子は目を細めた。


「良い味、良い香りじゃ……」


 口の周りに滴った乳を、舌でもって舐めとる。コクがあるも、後味はサッパリ。ほのかな草原の香りが鼻腔を抜けて、そよいでゆく。

 その風味は、乳臣たちが健康で若々しいことを示していた。


 プロティーン王国の乳汁こそが天下一だと、王子は信じて疑わなかった。

 この世に、これ以上の乳汁が存在するなど、想像もつかない。

 なにも遠くまで旅せずとも、この国には極上の乳がある。


 全身を貫く快楽に打たれて胸を震わせていると、首根っこを掴まれ、王子の体が宙に浮いた。


「ぽろりが過ぎるな、王子よ」


 自らの倍ほどの背丈があろうかという乳物にゅうぶつに持ち上げられながら、バスティ王子は国一番の超巨大美乳を凝視した。


 幾百の乳民たちから幾十の乳官たちへ、またその乳官たちから幾谷の乳臣たちへと注いでいった乳の川。

 その豊かな流れが向かう先こそ、この超巨大美乳であった。


 超巨大美乳は首から乳紐で吊り下げていた乳袋ちちぶくろに収まりきらず、上半分が零れんばかりに盛り上がっている。どれほど大きな手を持つ怪乳かいちちであろうと、この超巨大美乳を丸々と収めることは叶わぬであろう。


 バスティ・プロティーン八十盛。


 乳王ちちおうが歩けば大いなる乳房が揺れ、見送る者たちの乳首が下がる。


 バスティ乳王の乳房が素晴らしいと評される理由は大きさだけではない。乳の出も歴代随一と噂されていた。

 その乳首から出でる清らかなる白滝は、新たな乳民ちちたみの誕生を祝福し、幾多の重病乳じゅうびょうにゅうたちを癒してきた。


 丸々と膨らんだ乳首が乳袋を突き上げ、己の存在を知らしめている。

 乳首の辺りからは、今にも吹き出しそうなほどの乳汁が滲んでおり、下乳を伝って床を濡らしていた。


 その手に持ち上がられ、宙にぶら下がった王子は、思わずしてゴクリと喉を鳴らした。


「これはこれは、お久しぶりでございます、御乳上殿」

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