第12章 Family Report 第2話

 とりあえず、泊りがけでりんだの仕事をしている間に、受験生の祐介の世話をしてくれる人間が確保できたのは、良いのか悪いのか。

 今回は、りんだの「サヨナラの翼」という作品の8回目である。毬子が手伝うのは3回目。

 今回は前回とあべこべに、ネームが遅く、主線は3枚しか入っていない。おかげでチーフアシのみわちゃんには緊張感が漲っていた。そして、カラー表紙でないので、表紙込みで32ページ。その分も食い込んでいる。

 

 アシスタントが入った翌日、担当編集者の崎谷が現れた。

 毬子は、アシスタント7人とりんだ、崎谷に紅茶やコーヒーを淹れてきて、さてのど飴でも舐めようかと思い、机の抽斗を探ると、紙片が入っていた。

「この仕事が終わったら、うちの息子と七瀬さんの息子さんと4人で、遊園地にでも行きませんか?」

 と書いてある。

 まめだなあ、と感心した。


 今回毬子に課せられた仕事は、主人公の王女の服のスクリーントーン貼り。

 光線の入り方に気を遣いながら削り作業を進めるが、意外とすぐ主人公は服を着替えた。普段着から、修道院へ潜入捜査に入ったので、そのまま王女の服のベタを塗る。

 黒い服の女子ばかりになった。筆ペンを動かす。白いエプロンが、この時代流行り始めていたメイド服だと勘違いさせる衣装である。レースが付いているあたり間違っているかもしれない。


 仕事が終わって、帰宅して睡眠をとってから、崎谷に電話をかけた。

『ハイ、崎谷です』

「あのー、今お時間少しいいですか?」

『はい』

「お茶を淹れた時に入ってたメモの件なんですけど……」

『あ、ごめんなさい。仕事中反応がなかったんで、嫌われちゃったかなとか思って……電話ありがとうございます』

「それで、少し息子と話してもらえますか? 今呼びますから」

 息子の判断も仰ごうということにした。男性絡みで息子の意見を仰ごうとしたことはこれまでにない。律子にもいてもらって、祐介の様子を見て彼女の意見も聞こうと思っていた。

 携帯電話をダイニングテーブルに置いて。

「ゆうすけー、りつこー。ちょっと来てくれるー?」

「なに?」

「何?」

 2人はすぐに出てきた。祐介の方が律子より5センチほど背が高い。

「あんたに、りんだの担当の崎谷さんてひととちょっと電話で話して欲しいんだ。律子もそばで祐介を見てて?」

「なんで俺がりんださんの担当さんと話さなきゃならないんだよ」

「そーだそーだ」

 律子は拳を振り上げていた。

「いや、それがね、そのりんだの担当さんに、告白……されたのね。後もひとつある理由は後で話すから、お願い」

「わかった。

 はいお電話代わりました、はじめまして。七瀬毬子の息子の祐介です」

 ちゃんとした挨拶がパッとできる甥を、頼もしげに見ている律子である。

『あ、祐介くんて言うんだ。はじめまして、ドーリアン・マガジンズまりあ編集部の崎谷健太郎と申します』

「……おふくろに告白したってホントですか?」

 祐介は難しい顔をして言った。

『えっ……まいったなあ……それで、ウチの息子と祐介くんと4人でどこか遊園地に遊びに行きたいんだけど、来てくれるかい?』

「……花やしき行きます?」

『行ってくれるかい? 場所のアイデアまでありがとう。お母さんに代わってくれるかな?』

「代わってだって」

 と言って、祐介は毬子に、携帯電話をパスした。

『じゃあ、再来週の日曜日花やしきでいかがですか? 子供に会える日なもので……』

「あたしはいいですけど、祐介に聞いてみます」

 と言って振り返る。

「漫画家の担当さんって忙しいんだろ。その日香苗ねえの誕生祝いの次の日で疲れてるけど、行くよ」

 毬子は小声で、「アリガト」と言ってから、

「行けるそうです」

『やった。楽しみにしてます。お電話ありがとうございました』

 電話が切れた。

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