れもんのうっかり魔法革命

しぴ

第1話 うっかり?魔法は大成功!


 うわ〜〜〜〜、やっちゃった……。

 さすがにこれはやりすぎだ……。


 小さな頃からずーっと魔法使いにあこがれてて、いつか本当に魔法が使えたらいいなって思っていた。中学生になってからも、自分で作ったお気に入りの帽子とマントを身につけて、毎日魔法の勉強をし続けてきた。

 今日だっていつも通り、本や物語をたくさん読んで身につけた知識に、ほんのちょっとの思いつきを混ぜて、部屋いっぱいに魔法陣を描いて呪文を唱えただけ。心の奥のほうでは、きっとまた上手くいかないんだろうなあ、なんて思っていた。けれど、それが成功してしまったのだ。

 ピカッとなにかが光ったと思うと、やがて巻き起こるものすごい風。それと同時に込み上げてくる信じられない気持ち。うれしい。

 やった、やった!

 わたし、ついに魔法が使えるようになっちゃった!

 風はどんどん強さを増してきて、しまいにはここが自分の部屋なのか分からないくらいになって一瞬焦ったけれど、しばらくすると静かに止んだ。

 六年間、まったく成果が出なかった魔法の研究がついに実ったのだ。

 すごいすごい、すごいよ!

 わたしはとにかくこの感動を誰かに伝えたくて、風で絡まった髪をあわてて手で整えながら、散らかった自分の部屋を飛び出した。

 ところが、リビングのドアを開けた瞬間、わたしは自分の目をめちゃくちゃ疑うことになる。


「パパ!…………なにしてるの?」

「やあ、れもん、これかい?いや、レシピ通りにやってるはずなんだけどね、なかなか上手くいかなくて……」

 パパがミキサーで混ぜていたのは、なんだかものすご〜く怪しそうに光るオレンジ色の液体!

「そのレシピ、ちょっと見せて!」

 パパからレシピの本を奪い取ってのぞき込むと、材料のところに書いてあるのは、聞いたこともない名前のハーブとか、いかにもって感じの草の根っこ。あとは……見なかったことにする。

 なぜだか分からないけど、パパが魔法の料理?をしているのは明らかだ。

 なんで?わたしの趣味がうつっちゃったの?

「パパ、こんな本、どこで手に入れたの……?」

 わたしがおそるおそる尋ねると、パパはさらに信じられないような言葉を口にした。

「え?ずっと前からうちにあるじゃないか。ママもよくこのレシピ本でスープを作っていただろう?」

 さっきからほんの少しずつ頭をもたげ始めていた、わたしの中の嫌な予感が、どんどん大きくなってくる。

「ママは今日、何してるんだっけ……」

「ママ?ママなら今日は、市役所に行ってから魔法雑貨店で買い物するって言っていたよ。れもんは一緒に行かなくてよかったのかい?」

 ハッと我に返ってリビングを見渡してみる。宝石のはめ込まれた砂時計、テーブルの上には水晶玉、なんだか魔法っぽい匂いのするものがあちこちに置いてある……。

 まさか。

 ふらふらと玄関に歩み寄り、ドアを開ける。

「なんだこれ……」


 まず目に入ったのは、空の遠くに浮かぶ、大きな建物。

 そして道を走るたくさんの車……じゃない。あれは、魔法のじゅうたんだ。動物と会話しながら楽しそうに歩く人たちがいっぱいいるし、おばあちゃんもなんだか荷物を浮かせて楽ちんそうに運んでるし、とにかく、街行く人がみんな魔法を使っている。

 街行く人がみんな魔法を使っている!


 勘違いじゃなければ、えーっと、わたしのかけた魔法は、この世を、魔法の存在が当たり前の世界に、うっかり書き換えてしまったらしいのです……。









「れもん、これは一体どういうことなの!?」

 あまりの出来事にぼけっとしたままわたしが部屋に戻ると、ぐっちゃぐちゃになった本の山の真ん中から、うさぎのぬいぐるみのチコリがものすごい勢いで飛び出してきた。

 チコリは、わたしが小さい頃からずっと魔法の勉強のお供にしてきたうさぎだ。お供といっても、魔法を試す時だけでなく出かける時や寝る時もいつも一緒にいる、いわゆるお気に入りのぬいぐるみである。

 本当に、ただのぬいぐるみだったはずのチコリまで、言葉を話してるなんて!

「チコリ……なんで……ああ〜、うわあああ〜〜〜ん!!!」

「ああもう、気持ちはわかるけどいきなり泣き出さないでよ!おばかさんみたいじゃない!」

「だっで、だっで……」

 チコリは、わたしがいくら魔法使いのお供だと思い込もうとしたって、ずっとぬいぐるみのままだった。今でこそ魔法全般に興味を持っているわたしだけれど、魔法の勉強を始めたそもそものきっかけは、チコリとお話がしたかったからなのだ。

 いっぺんに叶ってしまった夢と、それ以上にまずいような気がするこの世界の状況。

 あわわわわわ、絶対、神さまとかに罰せられたりするのでは!?

「れもん、大丈……ほぎゎ!?」

 今さらパニックになりかけたわたしは、そのままチコリをぎゅーーーーーーっと抱きしめた。


 しばらくして。

「ぷはー!どう?落ち着いた?」

「うん、ありがとう……」

 気持ちがだいぶ静まった。めちゃくちゃ苦しそうにしながらも、だまって抱きしめられてくれたチコリには感謝しなくちゃいけない。

「うう、本当にありがとう。わたしね、チコリと話せてうれしいの。それにずっと憧れてた魔法が使えて、他にも不思議なものとか、とにかくいっぱいあって」

 わたしは深呼吸をする。

「だけどね、こんなの本当にあっていいの?わたし、とんでもないことをしちゃったんじゃないかな……」

「まったくよね、困ったことになったわ。これ、本当にあなたの魔法なの?」

「たぶん……」

 あの時のわたしには、魔法が成功したという手ごたえが確かにあった。とは言え、わたしがそんなに強い魔法を使えるとは思わないし、いやそもそも魔法なんて使えなかったはずだ。一体何が起きたんだろう?

 んん〜、分からないことを話しても仕方ない。ぶんぶんと頭を振る。目の前のチコリに、もう一つ気になった事を聞いてみる。

「ねえ、チコリはどうして、わたしの魔法が原因でこうなったって知ってるの?」

「魔法はこの部屋を使ってかけたんでしょ?床に魔法陣を描いて。この部屋にいたのは、れもんと私だけよ。私は全部見ていたもの」

 そっか……わたしは納得しかけて、ううん、と首を横に振った。

「チコリは、世界が書き換わっちゃったってことがどうして分かるの?パパや他の人たちはみんな、魔法があるのは当たり前って感じで過ごしてるのに。それに、チコリは意識のある動物とかじゃなくて、最初からぬいぐるみだったし……」

 そう言うと、チコリは小さくてかわいいため息をついて、まっすぐにわたしを見つめた。

「当たり前じゃない。私はずっと、魔法使いれもん様のお供なのよ。あなたが魔法の勉強をするって言い出した、七歳のときからね」

 それを聞いて、わたしの目には再び涙が浮かんできてしまった。

「うう、チコリぃ……!」

「あ〜っやめて!耳を握りつぶさないで!とにかく、これでも六年間、ちっちゃな魔法使いのお供をしてきたことになってんのよ。記憶がどういう風につじつま合わせてあるのかは、よく分かんないけど」

「心強いよ、ありがとう神さま仏さまチコリさま!」

 つまり、今この世界で何が起きているのかを知っているのは、わたしとチコリだけなのだ。もしわたし一人だったら、きっと心細くてぺしゃんこになってしまっていただろう。チコリがいてくれて本当によかった!


「さて、世界を書き換えちゃったのはあなたなんだから、元に戻せるのもきっとあなただけよ」

 チコリはわたしをビシッ!と指差して、力強く叫んだ。

「れもん。気合いを入れて、また魔法使いの修行をしましょう。そして、元の世界を取り戻す方法を見つけるのよ!」

「うん!そうだね、がんばるよ!!」


 チコリという心強〜い味方を得たことで、なんだかんだでわたしの胸はまた高鳴り始めていた。この世界のことを知るため、そして魔法使い修行のためにも、不思議なものに触れることは今後いっぱいあるだろう。

 なにより、わたしは今日から本物の魔法使いなのだ。せっかくなら、この状況をめいっぱい楽しまなきゃ!


「その意気よ、れもん!でもその前に……」

「なに?」

「部屋の片付けをするのよ」

「うわぁ、忘れてた〜〜!!」











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ありがとう!読んでくれてありがとうございます!いつになるか分かりませんが次回は第2話「うっかり?世界は崩壊寸前!?」です

いきなり崩壊かよ

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