自宅に戻ってみると、もうお母さんが帰ってきていた。

 メイクの本気ぶりからすると、今日は浮気の日だったのだろう。相手は通っているスポーツクラブの、まだ二十代のインストラクターだ。向こうの勤務が終わるのを待って、毎回のようにアフター焼肉をおごっているらしい。

 それでも、ホストクラブに通われるよりは安上がりらしく、お父さんは笑い飛ばしている。だから、公認の浮気といえるだろう。

 桃子としても、そうやって頑張っている母親は嫌いでもない。

 むしろ、浮気の日以外の、ソファでごろごろとスマホゲームをやっている母親の姿が嫌いだ。専業主婦というポジションを手に入れた、勝ち組の匂いが鼻につく。隣の守山家を支えている、潤子おばちゃんとは大違いだ。

 もっとも、その二人が実の姉妹のように仲がいいので、あくまで桃子だけが不本意に思っているのだろう。

「――あれれ、珍しい、ヒコちゃんと一緒だったの?」

 たしかに桃彦と一緒なのも、守山家に上がるのも久しぶりだった。不思議がられてもおかしくない。

「まあ、ね。アイツが教室まで呼びに来たから」

「へ? 何か、あったの?」

「あったよ、もう、色々とね……」

 どうせ今夜もレトルトなのだろう。のんびりと鏡の前でポージングを続けている恋する母親に対して、いきなり核心をついてみる。

「とりあえず……、桃が入ったよ、桃彦に」

 たしかに一瞬、表情が固まった。

 やはり間違いない。全員知っていたのだ、自分以外は。

「って、何……、誰がそんなこと言ってたの……」

「守山家の男、全員。銀じいちゃんも、昌おじちゃんも」

「え? 銀じいちゃん、戻ってきてたの?」

「もう、さっきお迎えが来ちゃったけどね。思ってたより、まあまあ元気だった」

「あら、そう……。知ってたら、もうちょっと早く帰ってきたのに……」

 こうやって話を逸らしていくのは上手い。面倒なので止めた。酔っぱらったお父さんに訊くほうが手っ取り早いだろう。

 

 自分の部屋に戻ると、さっそく鬼退治のサポート業務を再開した。

 とりあえず、やるべきことをリストアップしていく。


・市の動物園の動物リストから、家来候補のピックアップ。

・桃彦の鬼退治ファッション、全身コーディネート。(桃色はマスト。暑さ対策も)

・きびだんご(だっけ?)のレシピ。(候補動物の好みも考えて)

・パーティーの隊列フォーメーション。(昼用と夜用。夜行性も考えて)

・その他、必要なもの。(テントor寝袋? 薬とかドラッグストア系も)

・ざっくりとしたスケジュール。

 まだまだありそうだが、これだけでもけっこう大変だ。

 始まったとたんに、こんなだから。どうやら忙しい夏休みになりそうだ!


 

 

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