恒
いいなー、それ!
桃子は素直にそう思った。
三人の家来を自由に選べるのなら、自分が鬼退治に行ってもいい。桃なんて入ってもらわなくても結構だから。
「じゃ、おじじはどんなパーティーを組んだの?」
あえてお気楽に、そう訊いてみる。
「一人目の従者の名前は……、“恒河沙”」
「……“ごうがしゃ”?」
「あぁ、そうだ。三者とも性別はよく分からんが、中でも一番の兄貴分が、この恒河沙らしい。ぶっきらぼうだが面倒見がいい、とおじじは言っていた」
「たしかに、名前もアニキっぽい」
我ながら適当なコメントだ。
「おじじの時の恒河沙は……、柴犬」
やっぱり、犬じゃん!
お互い口には出さなかったが、桃彦も同じことを思っただろう。
「この近所の飼い犬だったらしい。子犬の頃からかわいがっていて、向こうもよく懐いていたそうだ。恒河沙が入ってからも、三者の中で、一番絡みが多かったらしい」
ちらりと桃彦の顔を覗いてみる。
分かりやすく両目が輝いている。どこまで信じているのかはともかく、自分に置き換えて空想するだけでも楽しいだろう。
「やっぱり鬼退治でも活躍したの、恒河沙は?」
「……まあ、な」
弾むように訊いた桃彦とは対照的に、銀じいちゃんの声は沈んでいく。
「それでも、お前にはきちんと伝えておくべきだな……。恒河沙もそれなりに奮闘したが……、鬼に踏み殺されてしまった」
な、何ですとッ!!
子犬の頃からかわいがっていた柴犬が、目の前で鬼に踏み殺されるなんて……。うっかり自分に置き換えてみたら、それだけで涙が滲んできた。
「恒河沙にはどうやら、そんな悲運な面があってな……。吾作さんの時も、なじみの野良犬だったらしいが……。道中で沼にはまって、そのまま沈んでしまったそうだ……」
いよいよ最悪じゃん……。
っていうか、やっぱり犬なんだね。
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