桃子にとって、桃彦は生まれながらのお隣りさんだ。

 家はもちろん、ほんの一日違いで生まれた病院も同じなら、それこそ新生児室でのベッドも隣どうしだった。

 だから、ほとんど双子のように育てられてきた。


 もちろん良い面もある。

 お互いに一人っ子のままだが、少なくとも桃子は、それらしい寂しさを感じたことがない。両親に妹をおねだりした時期もあったが、しつこくして困らせることはなかったはずだ。

 誕生日にしろ学校行事にしろ、人数が多いほうが賑やかで楽しかった。


 銀じいちゃんの存在も、桃子にはありがたかった。

 ちょうど桃子たちの物心がつく頃に、町役場を定年退職したらしい。潤子おばちゃんは働いていたし、ばあちゃんはもういなかった。だから、ほとんど銀じいちゃんが桃彦の世話をするようになった。

 桃子の母――晴子は当時から専業主婦だったが、家でじっとしていられない人だった。だから当たり前のように、桃子も「おじいちゃんっ子」になった。

 ずっと「じいちゃん」と呼んでいたが、九歳のときに「銀」をつけた。

 たまたま遊びに来た岡山のじいちゃんが、すっかり凹んで帰ったと聞かされたからだ。大人たちは笑っていたが、桃子には重く響いた。

 三年前に岡山のじいちゃんが死んだとき、桃子はそのことを思い出して悔しくなった。もう少し早く「銀」をつけていれば、岡山のじいちゃんを傷つけずに済んだのだから。


「――じいちゃん、また、縮んじゃってるかなぁ」


 パピコを片手で食べながら、桃彦が呑気に言い放った。

 コンビニでの水分補給を経て、自宅までのサイクリングも終盤を迎えている。

「思うのは勝手だけどさ……、ソレ、ぜったい言っちゃダメだからね」

 本当は強炭酸系を買うつもりだった桃子も、なぜかパピコをくわえている。桃彦がパピコを買っているのを見て、ついつられてしまったのだ。不本意ながら、桃子には時々こういうことが起こる。

 双子みたいに育てられてきた、これが悪い面の一つかもしれない。

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