第174話 また明日ね
「へっ!? わ、私?」
急に名前を呼ばれてビックリしたという様子の佐保理。
難しい話になったので、全然違うことを考えていたというのがまるわかりだ。
「そうです。穴山先輩、あなたが切り札です。『
「そっか~私の十種実は凄いんだ」
確かに、佐保理が暴走したときは、赤い鎧の弓武者と大狐に苦戦し、冬美は全力を使い果たしていた。
昨日は、スライムで菊理の動きを止めていた。
何でもありの創造力。
十種の所有者中で最強なのは実は佐保理かもしれない。
「それから『
ゾンビ相手には余裕で無双できたし、生駒先輩と事を構えた時以来経験も積んでいるから、操られた人達に襲われても、前よりは上手くやれそうな気がする。
もちろん傍らには、北条先輩にいてもらえるくらいは期待してもいいだろう。
ならば百人力。
「いずれも多人数戦闘となりますので、最終的には
「ちょっと待ってよ。どうして会長達と戦うって前提になってるのさ? アタシ理解できないんだけど」
「マリリンちゃんと部室でお話してた最後の十種のせいかなって思うんですけど、実は私も良くわかってないです」
「実は私、穴山さん以上にわかってないと思います……」
佐保理が悩んでいる。
そうか、考えてみると、乾と佐保理には、昨日ヤチの話をちゃんとしていないような気がする。直はそもそも十種がないからと不参加だから知るよしも無い。
松莉の件でいっぱいいっぱいだったから仕方がないと言えばそうなのだろうけれど。
「細川……お前の気持ちもわからなくないが、これは納得してくれ」
北条先輩が乾を諭すが、内容が内容だけにやはり受け入れられないようだった。
「納得できないよ。アタシは生徒会会計。ノリスケ会長と書記の冬ちゃんはアタシの大事な仲間。敵にできるわけ、ない!」
「
乾の目にはやや傾いた日差しに照らされたせいか、光輝く何かが見えた。
それは、生徒会の矜持。そしてあの二人への想い。
誰が止められたというのだろう。
おそらく止めようとした佐保理が、何も言えなくなったのもわかる気がする。
「アタシ帰ります。会長が気になるんで」
「待ってください、細川先輩。ダメです。どうしてもお帰りになるというのなら……」
「腕づくでもっていうの? 残念だけどアタシは誰にも止められないよ。……じゃあ、また明日ね、さおりん、ナオナオ」
思い出したように佐保理と直に一声かけると、乾の姿は消えた。
彼女の鞄と共に。
「乾ちゃん……」
「行っちゃったね……」
友達、いや親友二人が寂しそうな顔をしている。
「すまない、私の言い方が悪かったかもしれない。ちゃんと説明していれば」
肩を落とし、落ち込む波瑠先輩。
そんな彼女に、どうしても伝えなければと思った。
乾の気持ちがわかる人間として。
「俺はそれでも変わらなかったと思います。波瑠先輩」
「秋山?」
「自分が信じている相手、親しい相手、一緒に過ごす時間を気に入っている相手と戦うの、そんな相手を斬るの、辛いですから……あの時わかってても佐保理を斬るのには躊躇いがありました。多分一緒に斬った乾も同じだと思うんです。もう二度とこんなことしたくないって」
「ダーリン……」
佐保理が背中から抱きついてきた。
腰に回された彼女の手の強さから、その想いを感じる。
「ごめんな佐保理、思い出したくないことだよな」
「ううん、いいの、本当、辛い思いさせてごめんね」
「一番辛かったのはお前だろ……だから俺、今こうしてお前がここにいてくれるの、とっても嬉しいよ」
「あ、ありがと……」
俺にしがみつく、その頭を撫でてやる。
彼女の手にさらに力がこもった。
「まさか秋山に教わる日が来るとはな。状況に対応することばかり考えていた私を許して欲しい、皆」
波瑠先輩は、深々と頭を下げる。
「謝らないでください、波瑠先輩。それはリーダーとしての先輩の役割ですから仕方ないですよ。それがなければ、松莉も菊理も救えなかったですし」
「こちらこそ、いつも北条先輩に頼ってばかりで、ごめんなさい」
「戦いに参加できてない私が言うのも何ですが、戦う決断を下されてる北条先輩自身も平気だとは私思えません」
「ありがとう、三人とも。そう言って貰えると助かる」
皆の心が一つになった瞬間だった。
乾が帰ってしまったのは残念だけれど、寝てる間も透明化している乾だ。簡単にヤチの手には落ちることはないだろう。
そう思っていたのだが――
「しかし、これで『蜂比礼』もおそらく敵に回るでしょう」
「真理奈ッ!」
「先輩方の感動のシーンに水を差すようで申し訳ありません。けれど、それではヤチの思うつぼです。こうしている今も向こうは手を進めているに違いないんです。こちらが戦いたく無くても、あちらは容赦してくれません」
己に向けられた激高をものともせず、彼女は淡々と言ってのけた。
「秋山、小木曽を責めないでやってくれ。松莉の件を彼女が解決したことを思えばわかるだろう。きっとそれが彼女の役割なんだ」
こう波瑠先輩に言われると矛を収めざるを得ない。
真理奈がいなければ、昨日のあの成功は無かった。
「なあ、小木曽。そろそろ君のこと、もう少し皆の前で聞かせては貰えないだろうか?」
「それはできません。穴山先輩が戦いの要であるならば、私の存在は戦いの保険。それは秘するがゆえに働くもの。敵と味方の定まらぬ今はまだお話する時ではないのです」
「私たち四人も容疑者という訳か。ならば仕方ないな」
波瑠先輩のこの一言でわかった。
この場にいる、小木曽以外の四人にも既にヤチの手が及んでいる可能性があるということか。
やりきれない。
ここにいる仲間を誰一人だって敵とは考えたくない。
「だから、確認させてもらいます」
「何ッ!」
次の瞬間、真理奈が目の前に来ていた。
両肩に触れられている。
近い……彼女の吐息を感じるほどに
いつの間に?
先ほどまでは5メートルは離れていたはず。
まさかこれが彼女の十種の力だというのか?
「秋山先輩、驚かせてすみません」
「真理奈。これがお前の十種の力なのか? あれ……」
何だか様子がおかしい。
真理奈がこんなに近くにいるのだから佐保理か直が反応しそうなものなのに、静かすぎる。
傍らの佐保理を見る。
固まっている?
抱きついたままの格好で一点をずっと見つめたまま。動かない。
周りを見てみると、波瑠先輩も、直も同じように固まっている。
「『
「時を止めてって……じゃあ俺何で動けてるんだ?」
「私と、私が許可した魂だけは動けるんです」
説明して貰って、それにはなるほどと思えても、今の自分の状況が信じられないのには変わりが無かった。
十種神宝の力だから、信じるしかないけど。
「ここでは、私と先輩の二人きりですよ。ふふっ」
普段の三つ編みおさげの外見から、何となく真面目で堅いイメージがあるが、こうして近くで見ると、何気ない笑顔が心に沁みこんでくる。
これはマズい。
何か、何か言わなければと脳裏を探る。
「……そうだ、確認するって言ってたけど、俺は合格なのか?」
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