第170話 永遠を手に入れよう2(穴山佐保理)

 マリリンちゃんは屋上で私たちに語った。

 十種神宝とくさのかんだからを集め、ダーリンを生き返らせるための最大の障害を取り除くべく、北条先輩が私といぬちゃんの十種の力を必要としていると。


 ダーリン達が今相手にしているのは、武田松莉まつりちゃん。


 十種神宝『死返玉まかるかへしのたま』で死人を生き返らせる力があるらしい。

 ダーリンもそれで生き返らせてもらえばいいのにと言ったら、それはできないそうだ。


 よくわからないけれど、一時的に生き返るけど、ずっとじゃないみたい。それは困るから納得した。


 松莉ちゃんは、あの八重ちゃんを生き返らせて、菊理ちゃんを味方につけているのだという。


 菊理ちゃんの凄さは、私も黒かった時に見ているから知っている。

 格闘技の世界チャンピオンでもあの子の身体能力に敵わない気がする。そんな彼女がボディガードしてたら……どこの国の大統領だって安心だ。


 松莉ちゃん自身も死人を操り戦わせることができるのだそうだ。

 ゾンビ映画みたいな感じなのかな?


 ダーリンが一度一人で二人を相手に戦ったけど、あえなく負けてしまったとか。

 怪我をしていないかが心配だったけど、それは大丈夫だって。良かった。


 そんなわけで、正面から戦っても同じことになってしまうから、私の『辺津鏡へつかがみ』といぬちゃんの『蜂比礼はちのひれ』に白羽の矢が立ったそうだ。


 黒い私の守護者達は、いぬちゃんのステルスに半分以上やられたようなもの、力で勝てない相手には、確かに有効だと思う。


 私の力はイメージしたもの何でも作れるから、その辺りかな?


 ともかく私たち二人に断る理由は無かったから、二つ返事で頷いた。


 作戦は夜に決行するということだったので、小腹を満たそうということで、それからいぬちゃんと二人でマウンテンバーガーに行って時間を潰した。


 市花ちゃんと直ちゃんも誘おうかと思ったけど、二人は十種が無くて危ないから今日は参加しないとのことで、付き合わせるの悪いかなって、やめておいた。


 そして、時間。

 校門の前で待っていたマリリンちゃんと合流してキョウケンの部室に向かう。


 そのまま入るのかなと思っていたら、マリリンちゃんは「しーっ」とジェスチャーして、聞き耳を立てる仕草。


 中で北条先輩と、ダーリンが話してた。

 市花ちゃんと直ちゃんが来ないって言ってる。


 そっか、ダーリンには秘密だったのかと私が考えていたら、いきなりマリリンちゃんが扉を開けて入っていった。 

 そして私達も招かれた。



 ひさしぶりのキョウケン部室は私に優しかった。



 その後、北条先輩から作戦についての説明があり、全員がその内容に納得したところで、いよいよ開始となった。


 全員で彼女の家に向かう。

 暗い夜道、でもひさびさにダーリンが一緒だったから私の心は明るかった。


 到着、まずはいぬちゃんが忍び込んで中の様子を窺う。

 しばらくして出てきて言うには、ご両親は不在とのこと。


 マリリンちゃんが「今日は松莉のお父様とお母様、共通のご友人の結婚式で夜遅くまで不在なのです」と誰にともなく言っていた。

 何で知ってるんだろう、実は仲良しさんなのかな?


 そんな事情は関係なく、私たちにとっては都合が良いわけで、離れにいるという松莉ちゃんの元へ向かう。

 念のため、いぬちゃんの力で姿を隠したまま。


「お、お前達はッ!」


「秋山先輩……」


 二人の不意を突くことはできたらしい。

 彼女達の他に、八重らしき女の子と、もうひとり男の子がいた。



「ジョー、また会えたわね」


「ハル……」



 北条先輩の様子を見ると、あれが話に聞いていた松莉ちゃんのお兄さんだろう。


 狭い場所ということもあり、あっという間に窓際に追い詰めたけれど、私たちは油断していた。


 菊理ちゃんが私達を牽制する間に、松莉ちゃんがサッシを開けたかと思うと、次の瞬間には、四人の姿が消えていた。


「上杉が運んでいったか、あいつは小さいのに良くやるな」


 取り逃がしたにも関わらず、北条先輩が感心している。


「行き先はわかっています。行きましょう」


 マリリンちゃんの声に一同頷く。


 そう、彼女の予想を私たちは聞いていた。


 おそらく、家で片をつけるのは無理。

 作戦の真の舞台は、別の場所になるだろう、と。


 ……


 そして私達は、彼女に導かれるまま墓地へとやってきた。

 なるほど、松莉ちゃんの力を最大限に発揮できる場所というわけだ

 隣接する道路の街灯の光が微妙に届いてはいるけれど、薄暗い。


 場所柄、懐中電灯を持つ手が震える。

 でも、もう怖がってばかりじゃいられない。

 こんな私でも、今日は皆の役にたつんだ!


 案の定、私たちを待っていたかのように、ゾンビの群が襲いかかってきた。


「秋山先輩はゾンビの群を。他の先輩方は手はずどおりにお願いします」


 マリリンちゃんの指示が飛ぶ。


 八握剣を片手にゾンビの群に果敢に飛び込む彼の姿に、神様ダーリンをお守りください、と私は祈りを捧げる。


 ダーリンの役目は、ゾンビの掃討。

 囮役と言っても良い。

 とにかく敵をひきつける役目。


 八握剣は、ゾンビには相当有効らしいから、うってつけの役目。

 見ていると、確かに振り回すだけでダーリンの周りのゾンビが消えて行く。

 不謹慎かもしれないけど、何だかとっても気持ちが良さそう。



「では、いぬい先輩、お願いします」


「あいよ!」


 いぬちゃんの能力で私達女子四人は姿を消す。

 触れるといけないので、彷徨うゾンビを避けて避けて、そして私達は辿り着いた。

 ボスである松莉ちゃんの元に。


 松莉ちゃんと、菊理ちゃん、そしてあの二人がそこにいた。



「ふん、来ると思ってたわよ」


 急に懐中電灯の灯りに照らされたのも、ものともしない。

 姿を現した私達に対し、今度は彼女は驚きもしていなかった。


「でも、バカじゃないの? ここは私にとっての天国。いくらでもしもべは召喚できるのよ、それっ!」


 彼女の声とともに、地面が揺れる、そしてボゴッ、ボゴッという

音がそこらここらでして、次々と影が湧いてきた。


「頼みの綱のあのバカは、こっちには来れない。終わりね」


 勝ち誇った声が墓地に響く。

 松莉ちゃんは勝利を確信しているのだろう。しかし――



「穴山先輩、使わせていただきますね」


 マリリンちゃんが手に持つ柄に念を込めると、光の剣が現れた。


 彼女はそのまま近くにいたゾンビを一体袈裟切りにする。

 ゾンビは消えた……よかった上手くいったみたいだ。


 これは私が沖津鏡おきつかがみで作ったもの。

 ゾンビを倒せる剣を作るように言われたので作ってみたのだ。

 結果は上々。

 スプラッターな動画を見せられた成果はあったね。


 いぬちゃんも光の剣を抜き、ゾンビを次々と片してる。

 黒い時も思ってたけど、実は軍人さんとかじゃないよね?

 そんなことを考えてしまうほど、鮮やかに敵を減らしていく。



いぬい先輩、この場はお任せしますね。北条先輩は、松莉をお願いします」


 そう言うと、マリリンちゃんは、前進した。

 私も手筈通りに彼女の後に続く。


 彼女の狙いは……



「八重はやらせないよ」


 そう八重ちゃんだったのだが、当然この子が立ち塞がる。

 菊理ちゃん。


 至近距離な上、私も剣を持っているからだろう。

 私自身と、何よりもマリリンちゃんを警戒しているのもありそうだ。

 八重ちゃんを庇った位置のまま動かない。


「菊理、八重のことを思うなら、諦められない?」


「あなたは誰? 先輩達から私のことを聞いてるの?」


「それでいいわよ。全部知ってる」


「なら、私がひけないっていうのをわかってるんじゃないの?」


「やっぱりダメか……仕方ない」


 彼女が剣を構え直す。

 これが合図だった。



「くっ……何!?」


 足下から何かが、菊理ちゃんを襲う。

 何かっていうのは変か。

 もちろん私の創った生き物。


 ぬるぬると足から這い上がり、彼女の体を覆っていく。


「な、う、動けない……」


 全身をつつみこむことに成功した。

 マリリンちゃんの言ったとおりだった。

 ジタバタかなり抵抗しているけど、彼女のあの無敵の力でもこれには対抗できないみたい。


 私が今日社会科準備室でもうひとつ見せられたのは、ライトノベルが原作の異世界アニメだった。


 主人公はスライム。


 スライムというのは不定形の魔法生物。

 だから打撃や斬撃等の物理攻撃でダメージを与えられない設定だった。


 菊理ちゃんは身体能力は凄い。パンチやキックの打撃の力も凄い。

 ジャンプ力だってある。

 でもそのどれもが、スライムに捉えられては無効となる。

 彼女の強みである力が全て柔らかさに吸収されてしまうから。


「ごめんね、菊理。そう言うと思ってたんだ」


 マリリンちゃんは、剣を片手に八重の方へ向かって行く。

 その背中に向けて、スライムから頭だけ出した菊理ちゃんが悲痛な叫びをあげる。


「待って、八重は、八重だけはッ!」


 怯えているのだろう。

 あの子、八重ちゃん、動けないみたいだ。


 でも、私は何もできない。

 ここからは見守って欲しいと言われているから。

 信じる。マリリンちゃんのあの目を。


「八重。もう松莉を怯えることはないから、菊理に本当のこと、言ってあげて」


「えっ」


 八重ちゃんの驚いた声。


「あなたは、松莉の機嫌を損ねないために、菊理と全く話していないはず。今こそ、本当のあなたの気持ちを、菊理に。大丈夫、松莉は今こっちを見ていないから」


 暗闇の中だったけど、彼女が頷いたのがよくわかった。

 彼女は、スライムに包まれて動けない菊理ちゃんの元へ、近づいていく。


「や、八重?」


「くーちゃん、やっとお話できるね。私、くーちゃんと一緒が良かった。あの時一緒に身を投げたのも、ずっと一緒がいいなって思ってたから」


「八重……」


「けど、でもこんな変なの嫌だよ。私のせいで、くーちゃんがダメになっちゃうのは絶対嫌。こんなのくーちゃんじゃない!」


「……」


「私がいなくなっても前にすすんで! 私の分まで生きてほしいの」


「……うん、わかった」


 抱擁しあう二人の影。


 私は耐えきれなくて、途中で勝手にスライムを解除してしまった。

 けれど怒られることは無いと思う。


 もうひとりの肩も震えてるみたいだから。

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