カースドテンシード ~予言と呪いと十人の異能乙女

英知ケイ

第1章 八握剣 ~物語る少女

第1話 この上無く残酷で無慈悲な瞬間

「ようやくこの時が来た。私はこの時を待っていたのだぞ」


 戸惑う彼の目の前で、彼女はそう言って満足気に笑った。


 その顔は、どこかで見たような顔。

 いや……どう見てもいつも見ているあの顔に違いない。

 違いないのだが、どことなく違う。


 彼の戸惑いは深まってゆく。


 何が違うのか上手くは言えないが、そう、普段の彼女とは違う薄気味悪さをたたえているように彼には思えたのだ。

 彼女ではない何かが彼女を支配しているかのように。


 彼女は白い和服姿、これは白装束というものか。

 ホラー映画のワンシーンに登場しそうな代物ではあるが、今の彼女がまとっているオーラのようなものにより、その姿自体は気味悪さというよりもむしろ神々しさを感じさせる。


「絶望しておるのか? まあ、仕方あるまいな」


 彼女は、彼の方を見やると、すっと手をあげる。


 その手に引き寄せられるかのように、傍らに転がっていた細長いものが宙に浮かぶ、そして、瞬く間にその一方の端が彼女の手の中に収まった。


 その切っ先は彼女のオーラを反射し、怪しく輝いている。

 あれは、まごうことなき……剣だ。


「せめて、苦しまぬよう、楽にしてやろう」


 その言葉が発せられるやいなや、彼女の手は振り下ろされた。

 彼は、この間、全く動くことができなかった。


 ふっと、意識が途切れ、気がつくと、床に伏していた。

 目の前の一面に血だまりが出来ている。

 これは……自分のものか?! 彼は驚愕した。


 力を振り絞り、首を下に向ける。

 そこには、先ほどの剣のつかがあった。


 少し動くと、背中の方にも何か固いモノが刺さっているような感覚がある。前後は繋がっているようだ。間違いない、貫かれている。


 不思議なことに痛みは全く感じなかった。周囲で何人かの声が聞こえるが、遠すぎて何を言っているのかわからない。


 ああ、自分は死ぬのだな。


 状況については何ひとつ理解できなかった彼が、唯一知覚できたのはそのことだった。

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