第450話 オークですやん

オークやん。オークですやん。3体ともオークですやん。うわぁ…リアルオークだよ…オークですよ…これはちょっと嫌だなぁ…単純にキモい…

井戸子はワクワクのウッキウキになれたけどオークは無理。なんか妙にキモく感じるし。


ーーそれは女体化してるからだよ。生理的に受けつけないんだよ。



『…醜悪な風貌だな。』



ボソッと呟くノートゥングがめっちゃ嫌そうな顔をしている。流石の女王様でもこういうのは無理なんだな。


続いてブルドガングを見てみるがあからさまに嫌そうな顔だ。女の子がそんな顔するのはやめなさい。


最後にクラウソラスを見るがいつも通りの澄ました顔をしている。こうやって見ると美人は美人なんだがやっぱりなんか違うよな。秘密があるって雰囲気を醸し出してる。こんな風に思っちゃダメだって決めたばっかりなんだけどやっぱりなんか引っかかるんだよな。誰かに相談できねーかな。


牡丹は無理だ。牡丹のアルティメットなんだから話が筒抜けになる。


ーーそうだね。


みくもダメだ。赤点娘だから相談しても時間のムダ。


ーーそれひどくない?


アリスは…なんか嫌だ。今はあんまり2人きりになりたくない。他の話題になりそうだから。


ーーうん、蘇我ですな。


楓さんか美波に相談だよな。個別に後で相談してみよう。特に美波は少し構ってあげないと。さっきだってやたらとスネてたし。


ーー別にそんなのどうでもいいんじゃない?



まあ…今はそれを考えるのやめとくか。オークさんがこっちに近づいて来てるし。うわ、なんか涎垂らしてんじゃん。最高にキモいんですけど。アレと戦ったら体液飛び散るんじゃね。絶対臭いって。近づきたくない。近寄られたくもない。



『見るに堪えんな。さっさと終わらせてしまおう。』



ノートゥングがラウムを開き聖剣を手にする。聖剣から焔が弾け飛ぶと、ノートゥングの身体に焔のエフェクトが絡みつく。ノートゥングが本気の時のスタイルだ。なんかカッチョいいよな。俺もそういうエフェクト欲しい。



『ーー消え失せろ、グラナートロート・フェアブレンネン。』


ノートゥングが前方へ剣をかざし、紅き火球を3つ発生させ、オーク目掛けて襲い掛かる。猛烈なまでの火球の速度、この狭い通路でその巨躯では躱せない。見事にオークへ命中すると、辺りはたちまち火の海に包まれ始めた。凄まじい熱気が通路全体へと広がり俺たちの所にもそれが届く。ゼーゲンにより強化された身体でも堪える程の熱気だ。こんなのくらっちゃ肉体なんか残らないだろう。

そう思って火柱が上がる先を見ていると、何か黒い影が動くのが目の先に映る。気のせいかと思い目を凝らす。気のせいなどではない。はっきりとした黒い影3つが火柱を悠然と抜け、何事もなかったかのように薄ら笑いを浮かべながら這い出て来た。



『何ッ!?』


「おいおいおい。なんでアイツら無傷なわけ。ギリ躱してた?」


『いや、当たってたわよ。モロ直撃だった。完全ノーダメージじゃん。』



えっ?地下2階でノートゥングの技が効かないようなこんなヤバいの出て来るの?魔王の城に出て来るようなレベルじゃね?序盤で魔王の城はムリだって。いや、それよりノートゥングのレベルも序盤じゃチートなはず。イキナリ魔王の城でも魔王を葬る力はあるはずだろ。それとも推奨レベルが高すぎるの?でもノートゥングの力はゼーゲン3段階相当でしょ?ヤバくね?ロープレなら感覚的にレベル60ぐらいだろ。それの攻撃がダメージ0ってクソゲーですやん。



『ちょっとマズくない?ノートゥングの奥義が効かないならアタシたちじゃ絶対勝てないよ?アレに捕まったらアタシらどーなんの?』


「…オークに女騎士が捕まったら末路は1つじゃね?」


『どんな?』


「…孕ませられる?」


『絶対イヤなんだけど。』



これでもかってぐらいブルドガングが嫌な顔をする。俺だって嫌だ。俺は今女なんだからオークに捕まったら間違いなく犯される。絶対嫌だ。どないしよう。あ!!バルムンクさんや!!バルムンクさんがおるやんけ!!バルムンクを召喚すればこんなクソオークなんぞ塵芥に過ぎぬ。



「フッ。とうとう俺の出番って訳だな。みんなは下がってろ。ここはこの俺がやってやんぜ!!」



ーー慎太郎がキリッとカッコいいキメ顔を見せ、ゼーゲンを鞘から引き抜く。ここまではただカッコつけただけ。真打ちはバルムンクの召喚。そう思い慎太郎がスキルを発動させ、バルムンクの召喚を試みる……が、出ない。発動しない。魔法陣が現れない。残念ながらここでは慎太郎のスキルは使えないようだ。



「……あら〜。」


『貴様は何がやりたいのだッッ!!!』



マジかよ。スキル使えないのかよ。ダメやん。俺の力使えないやん。役立たずやん。え、どないしよう。



『どいていろ!!少し甘く見ていたようだ。妾の”現段階”最大の奥義を見せてくれよう。』



ノートゥングが纏う金色のオーラが輝きを強める。同時に紅炎のエフェクトも熱量が増し、より強大なものへと変わっていく。




『全ての剣の先に妾が在るーーグラナートロート・シュヴェーアト!!』



紅炎の衝撃波が周囲一帯の空間を引き裂き、オークたちへと向かっていく。

空間が捻じ曲がり、ブラックホールのように別の次元へと繋がっている為、通路自体には影響は無い。だが、螺旋状に形成された紅炎の衝撃波はオークたちの身体を引き裂くように激しい音を立てながら向かっていく。直撃は避けられない。間違いなく五体はバラバラにされ、焼き払われ、この世からその存在が完全にかき消されるだろう。


そう思っていたはずだった。


だが、紅炎の衝撃波が去った後に平然とオークたちが立っている。凄まじい衝撃波によって体は後ろへ大きく動かされたがダメージは皆無といっていいぐらいだ。

ノートゥングの最大奥義はオークの前に何の意味もなさなかった。



『馬鹿な…この程度の魔力しか無いモノが妾のグラナートロート・シュヴェーアトをまともに受けて無傷だと…』



ノートゥングが驚愕の表情を見せる。いつも気の強いノートゥングがそんな表情を見せるという事はどれぐらい危機的な状況なのか容易に想像できる。隣にいるブルドガングも同様の表情だ。これは明らかにマズイ。



『ノートゥング、無駄です。貴女の攻撃はあのウンゲテュームには通りません。』



クラウソラスが口を開いた為俺たちは後ろにいるクラウソラスへと目をやる。この状況でもいつも通りの澄まし顔だ。だが隣のノートゥングは全然澄ましていない。クラウソラスの物言いに綺麗な顔を歪めるようにして怒りの言葉を発する。



『あ?貴様、妾を馬鹿にしておるのか?』


『そうではありません。属性の問題だと言っているのです。あのウンゲテュームは炎属性。貴女がいくら技を繰り出そうともダメージを与える事は出来ません。』


「あー、なるほど。属性技を出しても吸収とか無効ってあるあるだもんな。」



このクソゲーって肝心なトコ適当なくせにこういうトコはちゃんとしてやがんのが腹立つわ。



『んじゃノートゥングじゃ勝てないって事じゃん。どーすんのよ?水属性なんていないわよ?』


「牡丹がいれば水系の攻撃してもらえたんだけどな。」


『何が属性だ。妾があんな醜悪なモノに負けるはずが無い。』



ノートゥングが聖剣に絡みつく紅炎を解除する。なるほど、炎属性効果を消すのか。そしてそのまま不機嫌極まりない顔でオークへと襲い掛かる。だがオークは特に抵抗する気配は無い。薄気味悪い笑みを浮かべながらノートゥングの攻撃を無防備に受ける。

ノートゥングが凄まじい速度で斬撃をオークへ浴びせる。だがオークの体から血が出る事は無い。それどころかかすり傷さえつかない。



『そんな…妾は紅炎を纏わせていないのだぞ…』



ノートゥングの顔に絶望の色が見える。それを見ながらクラウソラスが冷ややかな言葉をノートゥングに浴びせる。



『紅炎を纏わせなくても貴女自身に炎の属性があるのです。無属性攻撃は出せない。それは炎か火かの違いにしか過ぎません。』


「判定シビアだなおい。ただの棒で殴ってもダメってか?」


『駄目でしょうね。更に問題なのはノートゥングと聖剣です。聖剣にも炎属性が付いています。どうにもなりません。』


「そっか。ならしゃーないな。よし、ノートゥング、戻って来い。」



ノートゥングがこっちを見るが最高に不愉快そうな顔をしている。俺を睨んでいる。睨みながら一歩で俺の目の前まで移動をする。



『貴様…妾は今非常に機嫌が悪い。それなのにその態度。どうなるかわかっているんだろうな?』


「フッ、まあ待てって。ここは俺に任せとけよ。」



ーー慎太郎がやたらドヤっているのでノートゥングの勢いが少し和らぐ。なんでコイツはこんな余裕なんだろう。



『なんか閃いたの?』



ブルドガングが不思議そうな顔で俺に尋ねる。フッ、そうだな。閃いたよブルドガング。俺の活躍の場さ。



「フッ、まあ見てな。見せてやんぜ、俺のカッコいい所をなッ!!!」



ーー慎太郎が鞘からゼーゲンを引き抜きオークたちへと向かっていく。慎太郎がオーク一体に対してラッシュを仕掛ける。その動き、圧倒的に遅い。剣の経験者より多少速いぐらいでここにいる剣の達人たちからすれば眠ってしまいそうなぐらいの遅さだ。更に付け加えれば慎太郎の斬撃は全くといっていいほどオークにダメージを与えられない。ダメージにならない。もはや蚊にすら及ばない。

ちょっと剣を振っただけでハアハア言う慎太郎。肺が破裂しそうなので手と足を完全に止める。その無様な姿をノートゥングとブルドガングは死んだ様な目で見ていた。



「ハアハア……何これ…ちょーしんどいんですけど…てかなんか遅くね…?一般人並みな気がすんだけど。それに斬れないし。錆ついてんの?研がなきゃダメなのか?」



ーー慎太郎がハアハア言いながらブツブツ言ってると、ゲームのアイコンのようなモノが上空に現れ、文字が表示される。



【 田辺慎太郎はヘスリヒに攻撃をした 】



【 だが実力差がありすぎてダメージを与えられない 】



【 ヘスリヒが田辺慎太郎を見ている。どうやら興奮しているようだ 】




「え、なにこれ。」



テレビゲームじゃん。こんなの表示されてるじゃん。いやいや、それより実力差がありすぎてダメージを与えられないって何?俺って2段階解放ゼーゲン持ちだよ?なんかおかしくない?動きも遅いし。なんか嫌な予感するな。そういえば井戸子にレベルってあったよな。オークにもレベルがあんのか?それにもしかして俺にもレベルがあんじゃねーの。


俺はふとそれに気付いた時、スマホに強制的に入れられたアプリを思い出す。親愛度と敵の情報を知るカメラアプリだ。それで自分を撮ればステータスがわかるのではないか?俺はそう思った。



「ハアハア…ブルドガング!!ちょっとこれで俺の事撮って見て。」



まだスタミナが回復しない俺は息を切らせながらブルドガングにスマホを手渡す。ブルドガングは俺の意図を理解したのか無言でスマホを受け取って撮影を始める。何故か死んだ様な目をしているがどうしたんだろう。



ーーカシャ



撮り終えたブルドガングが俺にスマホを渡す。ん?口元を片手で抑えて身体が震えてるぞ?なんだ?怖いのか?いやいや、ブルドガングに限ってオークに恐れをなすなんて無い。具合悪いのか?


俺はブルドガングから受け取ったスマホを確認する。



「えっ!?何これ!?」



ーーそこに表示されていたのは、




・名前 田辺慎太郎


・レベル 1


・状態 呪いにより性別変化で弱体化中


・能力値


攻撃力 5


防御力 3


敏捷性 8


知力 12


運 1


・能力


底力


格闘系技術 ◎


剣術系技術 ○


コントロール ◎


重い球


レーザービーム


奪三振


球速安定


怪童


ハイスピンジャイロ


驚異の切れ味


パワーヒッター


アベレージヒッター


豆腐メンタル




ーーこのような内容であった。



「能力値低ッ!?それに能力おかしくね!?途中から野球ゲームになってんじゃん!?こっちのゲームじゃ使い道なくね!?」



ーーそんな憤る慎太郎をブルドガングは大笑いで見つめ、ノートゥングは死んだ様な目で見つめ、オークたちは息を荒くして見つめていた。












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