第444話 慎太郎とみく
「……うーん、頭がボケーっとする。」
頭がボケーっとはするけどいつもみたいに誰かに呼ばれてる感じはしない。珍しい感じだ。熟睡出来たって感じ。
薄暗い室内を見渡すとみんなが寝ている。美波、楓さん、アリス、牡丹、みく、ノートゥングがスースー寝息を立てている。ちび助はとまり木で寝ている。昨夜は遅くまでみんなで祝勝会してたからみんな疲れてるんだな。それに美波とアリス、牡丹にみくはいつも朝早くから家事をしてるから疲れが溜まってるんだろ。ゆっくり寝かせてあげよう。みくを除いて。
「…おい、みく。起きろ。」
俺は他の子たちに気づかれないように優しくみくの身体を揺すりながら小声で起こす。
「…うーん…なに…?なんなん…?ねむい…」
みくが唸りながら片目だけ開けて俺を見る。
「走りに行くぞ。ついてくるんだろ?」
「…んー…あー…そやった…」
俺とみくはいつも俺が仕事から帰って食事をして少し経ってからトレーニングをしている。いつもは夜にやっているけど今は旅行中なのでそんな事をしてるとみんなに悪い。だから朝にやる事にした。その初日からみくは眠くてドロップアウトしそうになってるがな。
「辛いならやめとく?昨夜は遅かったからキツイだろ。俺1人で行ってくるよ。」
「…だめ。うちもいく。いっぷんまって。」
「わかった。ポカリでも持って来るから待ってて。」
「…あんがと。」
********************
なんとか目が覚めたみくを連れて俺たちはジャージに着替えてホテル駐車場でストレッチを開始する。時刻は朝の6時ちょい過ぎ。俺らが寝たのが2時過ぎ。そら眠いわな。俺はトレーニング好きだから別に構わないけど普通の人は辛いよな。この後に温泉で汗流すのが楽しみだなぁ。気持ち良いだろうなぁ。
ーー体力バカはこれだから困るよね。
「よし、そんじゃストレッチ終わったしそろそろ走りに行くか。調べたら近くに良い感じの神社見つけたんだよ。お参りがてらそこ行ってみない?」
「近くってどれぐらい?」
「15kmぐらい?」
「15km!?往復30kmやん!?そんな走るん!?」
「えっ?だめ?」
ーーこれだから体力バカは困る。
「タロちゃんスパルタすぎやない!?夜のトレーニングだってロードワーク10kmに筋力トレ各種やサンドバッグ打ちまでやるやん!!」
ーーこれはキチガイだわ。
「みくだって一緒にやってるじゃん。」
「……。」
ーーそれはお前と一緒の時間作りたいからだろ。いつもみくちゃん死にそうになってるだろ。
「とにかく往復30kmは却下します。」
「えぇぇ…」
「はい、そこ黙る。」
「……。」
「ウチが今、スマホで調べた所、ここから3kmぐらいの所に良い感じの神社がありました。目的地はそこにします。」
「えっ!?3km!?それじゃいつもより少ないじゃん!?」
「朝のロードワークなら別におかしくありません。」
「却下!!却下だ却下!!そんなの散歩だろ!!」
「うるさい!!!!旅行来てまでそんな距離は無理!!!!」
「あ、はい。すみません。」
ーーみくが日頃の鬱憤を晴らすように大声で怒鳴るので慎太郎が一瞬で黙る。情けない男だ。いや、今は女か。
「そんじゃ行くよ。レッツゴー!!」
「…へーい。」
********************
「あったあった!!ここやね!!ふーっ、寝不足なせいか結構堪えるなぁ。」
「…そう?全然走り足り「はい、そこ黙る。」はい、すみません。」
ーー情けないなぁ。
「ほなお参りしてお守り買ってこか。」
「お守り?こんな時間にやってるの?」
「さっきホームページみたら朝からでも買えるんやって。寧ろ朝のこの時間しか買えないんやって。」
「へー、それはなかなかにレアじゃん。そんじゃみんなのも買ってこうか。無病息災とか交通安全とか。」
「いや、それは無理かな。」
「え?なんで?」
「ちゃんと自分で来ないとダメみたいなんだよねここの神様は。」
「なるほど。代理はダメなのか。」
「それに無病息災とか交通安全はやってないみたいだし。」
「そうなの?そんじゃなんの神様?」
「行けばわかるよ。ほら、お参りしよ。」
「おう?」
俺たちはお参りを済ませ、販売所へと向かう。お参りしてる時から気づいたけど朝なのに人が随分いる。それも女子ばっかり。今ってお参りブームなのか?それともお守り系のグッズが流行ってる?若い子の事はわからんわ。
ーーおっさんくさいなぁ。
販売所へと着くと、結構な行列が出来ている。朝の6時半ぐらいでこの行列って。みんな元気だな。
「スゲーいるな。」
「朝限定なんやから当然でしょ。」
「そんなご利益あんの?」
「そーみたいだよ?だからウチも欲しいんだし。」
「ふーん。」
ま、なんでもいいか。帰りは速度上げてもっと汗かいて温泉に入ろう。きっと気持ちいいぞ。なんたって昨日はドンチャン騒ぎしたから風呂入ってないからな。俺の人生で風呂入らないなんて盲腸で入院した時だけだぞ。
買い終えた女子たちがこっちへと来る。なんか嬉しそうというか幸せそうだ。そんなに嬉しいんだろうか。俺は耳をすませて会話を聞いてみる。
「このお守りでユウヤくんと両想いになれちゃったらどうしよー!!」
「ここって恋愛成就の神様で有名だもんねー!!それも女の子限定!!このお守りだって1日の数量限定だし!!朝早くから並んだかいあるといいなぁ。」
お姉ちゃんたちの会話が耳に入って俺はすぐにみくへツッコミを入れる。
「えっ!?恋愛成就のお守りなの!?」
「うん。」
みくはしれっとした態度で答える。
「俺いらないんだけど!?」
「ウチとの恋愛成就お願いすればえーやん。タロちゃん次第ですぐに叶うけど。」
「あっちのお姉ちゃんたちの話聞いてた!?女の子限定って言ってたよね!?俺は叶わないよね!?」
「見た目女の子やから神様もオマケしてくれるよ。」
「そんなオマケいらんし!!それなら俺の事早く男に戻して欲しいわ!!」
「あははっ!前から思ってたけどタロちゃんツッコミ上手いよね。お笑いの才能あるで。」
「そんな才能いらんわ!!」
「まーまー、一緒に恋愛成就のお守り買おーよ。ダメ…?」
「……別にいいけど。」
ーーちょっとしおらしく言ったらすぐにお願い聞いちゃうんだから。ホント甘い男だなぁ。
「あとさ、ウチね、ペアのお守り買いたいんだ。タロちゃんも持っててくれる…?」
「……。」
「ダメ…?」
「…みんなには内緒にできる?」
「内緒にする。」
「ならいいよ。」
「あははっ!タロちゃん大好き!!」
ーーお前ホントに甘いなぁ。
「…はぁ。早くトレーニングしてぇ。」
ーーと、朝から体力バカな慎太郎なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます