第443話 オルガニ

仕事が忙しく更新が遅れました。すみません。




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ーー煌びやかで豪華な装飾で彩られた場所。ただ豪華なだけではない。成金のような下品な装飾では無く、神聖さが垣間見れる一見すると圧倒されてしまうような場所だ。まるで神々が居住しているかのような所に100人近いモノたちが片膝をつき整列している。”ヴェヒター”、”リッターオルデン”の面々だ。

静まり返る彼らの正面にどこからともなく未来の技術のようなモニターが点灯する。その数は7つ。年老いた老翁、老婆たちだ。顔立ちは西洋系。その中の真ん中に位置するモニターに映る老翁が声を出す。



『御苦労。久方ぶりの会合であるな。全ての”ヴェヒター”、”リッターオルデン”が揃う事などなかなかに無い。その様は壮観である。だが、此度の会合はそのような悠長な話をしていられはせん。アインス。説明しろ。』



ーー老翁がアインスへ問い掛ける。



『はっ。御報告致しました通り、雷神ウコンバサラが死に、雷帝ブルドガングがその座を奪いました。』



ーー老人たちが騒めく。



『真実ならば仕方ない。して、雷神と化したブルドガングの魔力はどの程度なのだ?』


『一級神に相当するかと。』


『なんだと!?一級神という事はフラガラッハやブリューナク、クラウソラスにフレイヤらと同等という事だぞ!?』


『左様でございます。』



ーー真ん中に位置する老翁ではなく、他の老翁が声を荒げる。それに対しアインスは淡々と答える。



『雷神ウコンバサラは三級神。それを喰らって雷帝であったブルドガングは一級神に成ったという事か。』


『だが信じられん。三級神とはいえ”神”であるウコンバサラを”剣”が討ち果たすとは。にわかに信じられる話ではない。』



ーー老翁や老婆が口を挟む。



『アインスよ、当然ブルドガングがウコンバサラに勝った事に理由があるのだろう?』



ーー中央の老翁がアインスに尋ねる。



『はっ。ブルドガング個人の力も我々の認識より上がっておりますが、ブルドガングが勝った理由はその術者である芹澤楓にあると思います。』


『セリザワ…?誰だそれは?』



ーー老翁の1人がアインスに尋ねる。



『アンファンク翁よ、忘れたのか?当代の”闘神”であり、”贄”の候補であった女ではないか。』



ーー中央の老翁が答える。



『そうか、あの女か。アインス、その女がなんなのだ?まさか”闘神”程度がウコンバサラを倒したという馬鹿な話をするのではあるまいな?』


『詳しくはログを御覧になって頂いた方がよろしいかと。』



ーーアインスの一声により新たなモニターが現れる。そして、ブルドガング対ウコンバサラの戦いが映し出される。それをこの場にいる全てのモノたちが目にする。

誰もが一切口を開かず戦いを見ている。ただひたすら無言で。戦いが終結するとようやく中央の老翁が口を開く。



『なるほどな。セリザワカエデ、過去の戦いを紐解いてみても限りなく上位の存在だ。何より、素晴らしい知力といえよう。それによる『グローリエ』の扱い。もはや彼女はライヒスグラーフの爵位を与えて然るべきモノである。』


『バイムトート翁、それは幾ら何でも過大評価し過ぎではありませぬか?まだ”選別ノ刻”にも達してはおりません。ライヒスグラーフなどという存在とは到底。その位になるという事は過去の例から見ても”ヴェヒター”は勿論、サーシャやミリアルド、世振、リリ、エテノア、カルディナ、刻影、玲奈、この錚々たる面々と肩を並べる事になる。私にはとてもそのような器には。』


『エアレーシェン嫗、儂はセリザワカエデが彼らと肩を並べる存在だと思っているよ。ログを見ても明らかだ。彼女は素晴らしい。彼女の助力が無ければ雷帝ブルドガングが雷神ウコンバサラに勝つ事など不可能だ。』



ーー中央の老人、バイムトートと呼ばれる老翁がエアレーシェンと呼ばれる老婆に答える。



『技量、知力、美貌、どれを取っても申し分無い。確か…セリザワカエデと戦った事があるモノがいたな。夜ノ森、白河。』


「はっ。」

「はっ。」



ーー葵と白河桃矢が片膝をつき、跪いたままの姿勢でバイムトートの呼びかけに返事をする。



『其方らから見てどう思う?白河、どうだ?貴様は最近戦っておるだろう。意見を聞かせよ。』


「はっ。私も芹澤楓の技量は相当なものかと思います。ただ、まだまだ経験が不足しているという点は否定出来ません。」


『ふむ。経験などは場数を踏めばどうとでもなろう。夜ノ森、かつて『グローリエ』を使っていた貴様はどう思う? 』


「はっ。末恐ろしい程の使い手かと。閣下の仰る通り、芹澤は場数を踏んでどんどん成長しております。その強さの底が正直見えません。」



ーー葵の批評にバイムトートは満足そうな笑みを浮かべる。



『そうであろう。』


『ハハハ。バイムトート翁、其方はセリザワをモノにしたいだけではありませんか?』


『フッフッフッ、そんな事は無い。儂の専属リッターにしようとしているだけさ。』


『ハッハッハ、同じではありませぬか。』



ーー老人たちが談笑している。だが大半のモノはその内容に疑念を抱く。そしてそれを口に出すモノが現れる。



『閣下、勝手に口を開く御無礼を御許し下さい。』


『なんだフィーア。』


『芹澤楓は”贄”にする計画だった筈だと私は記憶しております。”贄”になれば閣下のリッターになる事は不可能では御座いませんか?』


『ああ、それか。それは白紙だ。』


『は…?』


『”贄”は使わん。セリザワもシマムラもナラハもシラミズも誰もな。』


『ど、どういう意味でしょうか!?』


『控えろフィーア。バイムトート翁に対しての不敬は重罪だぞ。』


『アンファンク翁よ、構わぬ。フィーア、答えてやろう。”贄”を使わないのは”贄”を使う意味が無いからだ。』


『仰られている意味がわかりませぬ。』


『”剣”としてのブルドガングの役割は消えた。2本の”剣”では”彼の方”の力は抑えられん。なら”贄”は必要無い。当然であろう。』


『それは道理が通らないのではありませぬか。』


『道理か。フィーアよ、貴様は勘違いをしておるのではないか?これはオルガニの総意である。オルガニの決定は絶対だ。我々は貴様らに相談をしているのでは無い。命令をしているのだ。弁えろ小童が。』



ーーバイムトートがドスの効いた声で恫喝する。



『……はっ。申し訳御座いません。』



ーーフィーアは気持ちを押し殺すように声を絞り出す。



『”分配”についても考えねばなりませぬな。フンフよ、我らへの”供物”だが上物は揃っておるのか?』



ーー老婆に問われ、フンフが顔を上げる。



『はっ。此度の”儀式”において男女ともに容姿端麗な者が多く揃っております。現在の”収容者”においても粒はあるかと。』


『ホッホッホ。それは楽しみだ。”前回の儀式”で私が手にした”供物”はもう尽きてしまったのでな。』


『ハッハッハ、エアレーシェン嫗、あなたはその前の”儀式”でも早々に”供物”を殺してしまったではないか。』


『薬を使っても勃たなくなるような不能者には怒りを覚えるのでね。』


『それは手厳しい。失礼な言い方になるが若い女でなくてはそれは難しいのではないかね。』


『”供物”如きが馬鹿を言っちゃいけないよ。アンタらだって”供物”に対して相当な事してるじゃないか。』



ーー老人たちが狂ったような笑いをしながらイかれた話をしている。それを老人たち以外のモノは黙って聞いている。



『雷帝ブルドガング、いや、雷神ブルドガングについての話はついた。もうお開きとしよう。諸君、よろしいかな?』



ーー老人たちがバイムトートの問い掛けに頷く。



『では終焉だ。アインス、ツヴァイ、サーシャ、リリ、ミリアルド以外の”ヴェヒター”並びに”リッターオルデン”は退席したまえ。』



ーーバイムトートに促されるまま”ヴェヒター”と”リッターオルデン”は5人を残し退席していく。この場にいるのは老人たちと、アインス、ツヴァイ、サーシャ、リリ、ミリアルドだけ。



『久しいな、サーシャよ。』


「ご無沙汰しております。」


『そのように畏る必要は無い。お前には大公の爵位を与えておる。アインスとツヴァイを除く”ヴェヒター”にすら与えられているのは公爵。たった3名にしか与えていない最高位の爵位を持つお前は、我らオルガニの後継ともいうべき存在である。』


「有難きお言葉です。」


『”敗北者”たるリッターオルデンの面々だが、サーシャ、お前は特別だ。その自覚を持つが良い。』


「はっ。」


『アインス、ツヴァイ。』


『はっ。』

『はっ。』


『オルガニとしての意見を伝える。『完全なるクリア者』を出すように扇動せよ。オガタミズキが勝利した回は再試合に過ぎぬ。よって今回の俺'sヒストリーで”8回目”。これで最後だ。”彼の方”の復活の機会はもう得られない。良いな?』


『はっ。』

『はっ。』


『しくじれば貴様らの目的も果たせなくなる。特にツヴァイは仲間思いの優しい娘だからなぁ。クックック。』


『……。』


『話は以上だ。帰るがよい。皆様方も立ち去って頂けるか?少しリリと話をしたい。』



ーーバイムトートの言葉にツヴァイとリリは心臓が痛いくらいにドキッとする。バイムトートのわけのわからない呼び止め。この老翁は特別リリと絡みがあったわけではない。”剣聖”の称号を与えられた際に二、三言葉を交わしただけだ。そんな浅い関係でしかない老翁が何故呼び止めるのか。ツヴァイとリリに緊張が走る。だがツヴァイは退席しなければいけない。ここで同席するような真似をすれば死罪に問われる。ツヴァイは引くしかなかった。そして残ったのはリリとバイムトートの2人だ。



『リリよ。相変わらず美しいな。特にその緑眼が実に美しい。』


「閣下にそのようなお言葉を頂き嬉しく思います。」


『そんな堅苦しい話し方はよせ。ここには儂とお前しかおらん。顔を上げろ。もっとお前の顔をしっかり見せい。』


「わかりました。」


『うむ、美しい。何十年、何百年、何千年経とうとも、器が入れ替わろうともお前の美しさは色褪せぬな。』


「どういう意味でしょうか…?」


『クックック、気にするな。そんな事より、リリよ。お前、好きな男がおるか?』



ーーリリの心臓が痛いぐらいに速くなる。



「何の事でしょうか?」


『隠さんでいい。儂にはわかっとる。それについて誰に話したりもせぬわ。ツヴァイにもサーシャにもな。』



ーーリリは抗えない。バイムトートに対して隠し事は出来ない。



「…はい。気になっている人はいます。」


『クックック、そうかそうか。確か…タナベとか言ったか?』



ーーリリが肩を揺らすように視線を上げ、バイムトートを見る。



「何故そう思われるのですか…?」


『さあ、どうしてかのう?近頃呆けてきたのかもしれんなぁ。』



ーーバイムトートが顔をニヤつかせながらリリを舐め回すような視線で見る。

リリは怯えたような目をする。でもそれを見せまいと必死で抑える。抑えるが動揺を隠せない。それをまたバイムトートは愉しそうに眺める。



『クックック、そんな顔をするでない。まるで儂がお前を虐めているようではないか。儂はお前に褒美を与えようと思っておるのだ。』


「…褒美?」


『そのタナベという者はセリザワのクランのリーダーであろう?お前も知っている通り王宮に入れるのは”選別ノ刻”まで行ったグラーフ以上の爵位を与えられたモノのみだ。儂はセリザワを儂直属のリッターに加えるつもりだ。だからタナベには最低でもそこまでは行ってもらわんと困る。そこでだ、リリ、お前がサポートをしてやれ。』



ーーバイムトートの意外な申し出にリリは怪訝な顔を見せる。



「私が…ですか…?」


『そうだ。ひっそりとやらなくても構わん。多少荒っぽくても良い。ログに残っても儂の命によりやったとすればそれで良い。儂の名を使う事を許可しよう。』


「…わかりました。」



ーーバイムトートの意図がイマイチつかめないリリだが、逆らう事は出来ない。それでも差し引きでプラスだ。リリはある程度の納得はみせる。



『安心しろ。褒美を与えると言うたではないか。役目を果たせばお前にタナベはくれてやる。』


「…は?」



ーーバイムトートに対してそのような物言いは不敬にあたり、投獄か処刑は免れない。それでもリリはバイムトートの言葉の意味がわからなく自然と口から出てしまった。



『タナベをお前にやると言ったのだ。当然敗れたとしても”呪い”にはかけん。そしてツヴァイが”解呪”の権利を得られなかったとしてもお前の”呪い”を解いてやろう。お前とタナベは”因果律の鎖”から外してやる。2人でどこか遠くへ行って平穏に暮らせば良かろう。』


「それは本当ですか…?」



ーーリリが震える声でバイムトートへ問う。



『ああ。このバイムトート、いや、キルペリク・ネウストリアの名に誓ってリリ・ジェラード、タナベ・シンタロウ、お前たち2人の解放を約束しよう。』



ーーバイムトートが先程までの薄ら笑いを浮かべていた顔から笑いの無い真剣な表情でリリを見る。



「……わかりました。タローー田辺慎太郎たちを必ず”選別ノ刻”まで行かせます。どのみち行かせるつもりでしたので断る理由もありません。」


『そうだな。だがお前の置かれた状況は随分と違うぞ?今までは隠れて支援をしていたのだろうが、今度からは表立って行う事が可能だ。最悪、お前が参戦したって構わないぐらいだ。なんせ儂の命を受けているのだからな。』


「……。」


『しかし、良い事ばかりではない。表立って動けばツヴァイとの仲が拗れてしまう。いや、裏切りとなるだろうな。クックック。』


「……それが狙いですか?私たちの仲を壊す事が。」


『クックック、お前はタナベとツヴァイのどちらを取るのだろうな?それを見るのが儂の愉しみだ。』



ーーバイムトートがまた舐め回すようにリリを見る。



「……今は無礼講なのですよね。それなら失礼します。」


『クックック。ああ、またなリリよ。』



ーーリリが退席する。



『これで良いのか?』



ーーバイムトートが横へ目を移し、扉へと目を向ける。



『はっ。ありがとうございます。』



ーーアインスがバイムトートに対し片膝をついて謝辞を述べる。



『貴様が何をしようと構わん。儂を愉しませるならな。だがツヴァイも愚かよのぉ。いくらサーシャとリリ、それに葵を揃えているとはいえ、”呪い”により”覚醒”出来ないモノたちを率いて我らを制圧出来ると考えておるとはな。やはり女は、馬鹿、その一言だな。クックック、エアレーシェン嫗に聞かれたら怒られてしまうかな。』


『リリにあのような約束をして宜しかったのですか?』


『”因果律の鎖”からの解放の事か?別に構わぬ。”何十年、何百年、何千年とリリには責め苦を負わせて来た”からな。ここで解放しても良かろう。”今世”のリリを味わってないのはいささか勿体無い気もするが、”最期に2人の安寧”を認めてやるのも寛大な儂の優しさというわけだ。まあ、”彼の方”が復活された後に地上で奴等の居場所があれば、の話だがな。クックック。』



ーーアインスが無言で跪く。



『アインス、後は任せた。必ずセリザワを”選別ノ刻”まで向かわせよ。”彼の方”へ捧げる”供物”となる、シマムラ、ミズグチ、シラミズもな。ソウマ兄弟の”ヴェヒター”剥奪によるオガタミズキの”儀式”はカウントされない。約束された”儀式”の回数は8回まで。今回が最後だ。失敗は許されんぞ。』


『はっ。』



ーーモニターが消え、バイムトートが姿を消す。アインスは仮面を外し、鋭い目で映らなくなったモニターを見ていた。

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