第442話 Another 3

「はぁ?あのよ、姉ちゃん、俺の雑魚奴隷と雑魚バディを倒したぐらいで何得意になってんだ?SSだぞそいつら。そのぐらいアルティメット持ちなら普通余裕だろ。」



コイツ本当にたいしたことないんだな。根本的に美穂との差がわかっていない。コイツが”闘神”だっていうなら他もたいしたことないんじゃない?”五帝”だっていう島村と芹澤、天栄だってそこまでじゃないと思う。本当に強いのって凱亜と蘇我夢幻だけでしょ。あの2人の強さはちょっと異常だもんね。噂が確かなら島村もヤバいだろうけど坂本がコレだもんちょっと信用出来ないなぁ。



「別に得意になってなんていませんよ。実力差がありすぎるのにちょっと普通じゃないなって思っただけです。」


「大概にしとけやクソガキ!!!」



坂本が手にしている剣型のゼーゲンで美穂を襲う。何その剣。素人じゃん。2段階解放型で強化系まで使ってそのスピードって。止まって見えるよ。美穂に届くわけがない。



「がはっ…!?」



美穂は坂本の剣を躱すことなくゼーゲンで坂本の心臓を貫く。この程度で”闘神”か。 私たちのクランが強すぎるのか、他が弱すぎるのか。それはわからないけどこの坂本はあまりにも弱い。”闘神”なんて連中はいらないよ。まだ”三拳”とかいう得体の知れない連中の方が強いんじゃないの。そもそもコイツの時空系ってなんだったんだろ。効果出す前に終わっちゃったよね。

勝負のついた美穂がくるりと後ろを向き私の方へと歩き出す。



「お疲れ美穂。楽勝だったーー美穂!!!」



私の声に反応し、美穂はゼーゲンを盾にして奇襲を防ぐ。やったのは坂本だ。なぜ坂本が生きてるの…?間違いなく美穂のゼーゲンで心臓を貫かれた。生きてるはずがないのに。



「チッ…水口杏奈がいなきゃこの女殺れたのによ。」



私は坂本を見る。着ている服の心臓部分に穴が空いているし何より血が付着している。躱したわけではない。でも血が止まっている。意味がわからない。回復のスキルを持っていて即座に反応したとも考えにくい。スキルを使った様子は無いし、何より回復のスキルはレアすぎて使ってる奴なんて見た事ないぐらいの代物だ。そうなるとコイツのスキルとして考えられるのは発動していないかに思えた時空系。時空系は時間と空間に作用する効果を持っている。時間…時間を戻した…?美穂にやられる前に…?それならば納得いく。



「美穂。」


「そうだね。恐らくは時間を戻したんだと思う。」



やっぱり美穂も同じ事を考えた。



「ああ、当たりだ。俺のアルティメットスキルだ。ハハッ、どうだ?恐ろしいだろ?時間を戻せんだぜ?」



違う。確かに時間を戻しているんだろうけど伝説級のアルティメットスキルである《巻戻し》じゃない。時間が巻戻っているなら衣類の穴や血の付着だって無くなっている。戻ってるのは一部分だけ。《巻戻し》の下位互換ってトコかな。



「一部分だけの空間を少し前に戻してるって感じですね。それならそこまで脅威を感じないと思いますよ。」



流石美穂だね。ちゃんとわかってる。あんな言い方されたら坂本は穏やかじゃいられないでしょ。目つきが鋭くなってるし。



「だったら俺の事殺れんだろうなーー」



美穂が坂本の首を刎ねる。 司令機関を失った身体が膝から崩れ落ちた。坂本は死んだのだろうか。でも美穂は坂本から目を離さない。私も目を離さない。予想が正しいなら恐らく坂本は生きている。そう考えて見ていると、いつの間にか転がったはずの坂本の頭が消え、胴体にくっついている。司令機関を取り戻した坂本の身体は起き上がり、半笑いで美穂を見る。



「首を落としても元に戻れるんですね。」


「ああ。わかったろ?何やってもムダだって。」


「そうでしょうか?先程も言いましたが脅威を感じません。」


「なら殺ってみろよ。俺の《部分戻し》は発動時間1時間だ。それまでテメェの体力が持つかな?」


「ふふっ。」



美穂が鼻で笑う。激昂した坂本が斬りかかってくる。美穂は無駄の無い動きで躱すと同時に坂本へと攻撃を加える。だがダメージは通らない。美穂が与えた攻撃は即座に復元される。美穂の作戦がよくわからない。私に代わるかアラドヴァル呼べば”その程度のスキル”に遅れをとるわけがない。一体どうするつもりなんだろう。




********************




美穂の連続攻撃が継続し、坂本の身体を貫いていく。坂本も一応の反撃をするが本気でやってはいない。美穂をナメたように防御を一切せず、スキルの力で復元する様を見せつけているようだ。

戦いが始まり30分以上が経過した。長い。早く帰りたい。台本読みたい。もう私が参戦して終わらせてしまおうかな。でもそれやったら美穂怒るだろうなぁ。あと30分くらいで効果切れるけどどうするんだろう。

そう思いながら戦いを見ていると僅かな変化を感じた。坂本の復元がほんの僅かに遅い。気のせいではない。明らかに復元速度が遅くなっている。それに気づいて戦いをじっくり見ようとした時だった、



「グアアアアッ…!?」



坂本が美穂に右肩を貫かれる。今まで一度も出さなかった悲鳴を出しながら坂本はその場にうずくまる。



「グアア…!!!なっ!?なんで戻らねぇんだ!?」



うずくまる坂本に美穂が近づきもう片方の腕にゼーゲンを突き刺す。



「ギャアア…!!!!」



美穂が冷酷な眼差しで坂本を見下ろす。うーん、ドSっぷりが滲み出てる。美穂はおっとりしてるけど結構ドSだからなぁ。



「愚かですね。時間いっぱいまでスキルを使えるとでも思っていたのですか?効果時間は魔力が続く限りの最大時間数を表しているんです。あなたのように魔力の低い方が馬鹿みたいにスキルを使い続ければ枯渇するのが当たり前。」



あんな可愛い顔してあのドSっぷり。私はこの子の将来が心配だよ。



「ナメきっているから攻撃を躱さない。だから魔力を使う。あなたが本気で私に斬りかかってきていれば結果は違ったかもしれませんね。」



それよりさ、後ろのオタクのおっさんたち完全に空気だよね。ホヒホヒ言ってて最高に気持ち悪いんだけど。



「終わりですね。これ以上あなたに手は無いでしょう。」



美穂がゼーゲンを坂本の腹に刺す。坂本の絶叫が響き渡る。でもそれだけじゃ強化された坂本は死なない。なんで心臓貫いたり首落としたりしないんだろう。

そう思っていると、美穂は坂本の上着を弄り出す。なにやってんのこの子。ちょっとこれは止めないと。見栄えが。



「ちょっと美穂、なにやってんのよ。美少女がそんな変態みたいな事しちゃダメでしょ。」


「え?なにが?私はこの男からアルティメットを奪おうとしてるだけだよ?」


「あ…それか。なんだ…私はてっきり美穂にそーゆー特殊な性癖でもあるのかと。」


「アンナちゃんは私をなんだと思ってるのかな!?」


「あははは〜。でも他のプレイヤーからスキル取るなんて初めてじゃない?急にどうして?」


「坂本の《部分戻し》は使い方によってはかなり強力だよ。回復に近いわけだしさ。」



美穂が坂本のスマホをポチりながら淡々と話す。美穂のオンとオフで性格違う感じ好きだなぁ。



「それにアンナちゃんがこれを持ってないとダメ。アンナちゃんは私たちのリーダーなんだから絶対死んじゃダメ。」


「美穂だって死んじゃダメだよ。」


「わかってる。」


「凱亜も幻夜も死んじゃダメ。私が絶対みんなを死なせない。」


「うん。私もみんなを死なせない。」



私は絶対みんなを死なせない。必ず守ってみせる。ゲームクリアまで。『パラディス』までみんなを連れて行く。



「じゃあコレはアンナちゃんに送ったからちゃんと装備してね。一応強化系も貰っておこうか。凱亜くん持ってないし。」


「ふぅーん。」


「な、なにかな!?」


「いやー、美穂は凱亜好きだもんねー。」


「ちちちちちちち、違うよ!?コレは戦略的な意味でだよ!?」


「あんなダメホストの何がいいんだか。」


「凱亜くんはダメじゃないよ。妹さんの為にホストをしてるんだから。」


「それはわかってるけどさ、ホストじゃなくても良いんじゃない?女を喰いものにする仕事してるのが納得いかないんだよね。」


「事情があるんだよ。」


「あの見た目なんだから私が事務所の社長に紹介してあげれば絶対仕事あるのに。背も高いからモデルだって出来そうじゃん。それなのに断るのも納得いかない。てかムカつく。」


「凱亜くんはアンナちゃんに甘えたくないんだよ。利用してるみたいになるから。」


「美穂は凱亜の事わかってるんだねー。」


「もうっ!!アンナちゃん!!」


「あはは、それじゃ今度凱亜の職場に潜入しようよ。それで女を喰いものにしてなかったら美穂の意見に納得する。」


「……いいけど。」


「ふぅーん。美穂はホストの凱亜を見てみたいと。」


「アンナちゃん!!!」



こういう恋バナって楽しいなぁ。私にも好きな人が出来て美穂とこういう話したいなぁ。



「それじゃ坂本は始末するね。」



美穂が180度態度を変え、ゼーゲンを振り上げる。美穂のこの感じが好きだなぁ。



「ま、まっーー」



坂本は命乞いをする間も無く美穂に首を落とされる。今度はもう復活は出来ない。さようなら坂本。



「それじゃ帰ろっか。あ、白ぶ…じゃなくて、お兄さんたちも生き残って良かったですねぇ!!」



私は営業スマイルを白豚くんたちに振りまく。うっかり白豚言いそうになったけど。



「あ、ありがとう杏奈ちゃん!!本当に助かったよ!!」


「ホントホント!!お友達の子、凄く強いんだね!!」


「そうですねっ!あ、すいませんけど私がプレイヤーだって事は黙っておいて下さいねっ!」


「大丈夫大丈夫!!僕たち口がかたーー」



白豚くんたちの首が落ちる。血が噴き出したので私は即座に距離を取ってそれを躱す。やったのは美穂だ。



「美穂?どうして白豚くんたち殺したの?」


「信用ならないからだね。万が一にもアンナちゃんがプレイヤーだってバレちゃダメ。アンナちゃんに気づいた連中はみんな殺さないと。例えバディでもね。私はアンナちゃんが安全ならそれでいい。」


「美穂に惚れそうなんだけど。」


「ふふ、ありがとう。」



私たちは笑い合う。こんな日がいつまでも続いて欲しい。だから私は戦うんだ。

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