第440話 Another
ーー誰かに呼ばれている
ーーいつもの感覚だ
ーーもう幾度となく感じている感覚
ーー私を呼ぶ相手はわからない
ーーでも、呼ぶ声がとても気持ち悪い
ーーどこか闇の底へと連れ去られてしまいそうな生暖かい気持ちの悪い声
ーー誰か、助けて
「アンナちゃん!!起きて!!」
美穂の声で私は目覚める。なんだか嫌な夢を見ていたような気がする。身体中を触られたような気持ちの悪い感覚が残っている。
「ごめん美穂、どれくらい経った?」
「大丈夫だよ。まだ1分ぐらい。敵の気配も感じないよ。」
「流石美穂。」
彼女は私のクランメンバーの一人である楢葉美穂。歳も私と同じ17歳の高校二年生。おまけに超が付くほどの美少女。女の私でもドキッとするぐらいだからね。
そんな美穂と、他に矢祭凱亜ってダメホストと船曳幻夜ってマジメなサムライが私たちのクランなんだ。
「それでそこにいる2人の大人の人が私たちのバディみたい。」
美穂が礼儀正しく指差しではなく手全体を使って指す。うん、おじさんだね。二十代だか三十代だかわからない太ったおじさんが2人、息を荒くしてハアハア言いながら私を見ている。
「ど、ど、ど、ど、ど、ど、どうも!!!綿引って言います!!!」
「お、俺は菊地です!!!」
うーん…よく握手会とかに来る感じの人だなぁ。こういう量産型みたいな感じの人っていっぱいいるよね。
「初めまして、楢葉美穂と言います。よろしくお願いします。」
うん、美穂は礼儀正しいね。美穂は家が薙刀の道場をやっている。薙刀の事はよくわからないけど師範代だかなんだかになってるらしい。17のお姉ちゃんが師範代になれるなんてきっと凄い努力をしたんだろうな。だからこんなに礼儀正しいんだよこの子。お姉さん嬉しいよ。
「あっ、あのっ!!!もしかして水口杏奈さん…ですか…?」
白ブタくん、じゃなくて身体の大きいおじさんが私に気付いた。うーん、めんどくさいなぁ。やっぱ変装必要だなぁ。
「初めまして〜!!水口杏奈ですっ!!よろしくお願いしま〜すっ!!」
私はぶりっぶりの営業スマイルを振りまく。私自身はこんな性格じゃないから嫌だけど仕事だからしょうがないよね。
「や、やっぱり…!!!綿引氏!!!やはりアンナ様でござったぞー!!!我が家にあるアンナ様の写真集『天使』で見るより美しいですぞ!!」
「わかっておりまする!!!眩しい!!!眩しくて直視出来んでごわす!!」
…きしょ。ライブ来て貰ったり、CD買って貰ったり、ダウンロードして貰ったり、写真集買って貰ったりしてるから我慢しなきゃいけないけど気持ち悪いものは気持ち悪い。私だって女子だもんカッコいい人にライブ来て貰いたい。ま…イイな、って思った人なんてまだいないけどさ。当然彼氏も出来た事なければこの歳で初恋も未経験。だってさー、ドロドロとした芸能界見て来たら人間不信になるわけよ。どこかに私の運命の人いないかなー。別に顔なんか気にしないし、歳とか、社会的地位とかも気にしない。ただ普通の生活が出来て、楽しく笑える人なら良いんだよね。そんな人いないもんなぁ。芸能界はあり得ないし、同じクランの凱亜はダメダメだから論外。幻夜は悪くないけど男の人として見た事ないからなぁ。仲間って感じだもん。やっぱりこういうのってフィーリングだと思うんだよね。この人だ!!って思う人が現れないと私のセンサーは反応しないんだと思う。あ、なんだか話がズレちゃったな。あまりにもこの人らがきしょかったから違う事考えてた。営業トークして誤魔化しとくか。これでも一応女優の仕事だってしてるわけだし。
「わぁっ…!!私の写真集買ってくれたんですねっ!!ありがとうございますっ!!」
私は渾身の営業スマイルを見せると白ブタたちがありえないぐらい気持ち悪い顔で悶えている。きしょいじゃなくて気持ち悪いだ。とりあえずおじさんたちはほっておこう。
「こっちは4人か。私はバディイベントって初めてだからよくわかんないけどこんなもん?」
「過去に2回やったけどこれぐらいじゃないかな?」
私はその2回目のバディイベントが終わった後からオレヒスに参加した。その時の初めてのイベントで美穂と出会ったんだ。最初はバトっちゃったけど、お互い1人だったせいか打ち解けてクランを結成した。その後にダメホストが入って幻夜が入った。みんな最初は敵同士だったけど今じゃ心からの仲間であり親友だ。
私が過去を振り返っていると気配を感じ取る。敵プレイヤーだ。気配を消してるつもりみたいだけど0まで消さなきゃ私と美穂には通用しないよ。
「美穂。」
「5人だね。」
私と美穂の空気が変わった事におじさんたちが気づく。ホヒホヒ言いながら慌てている姿は本当に気持ち悪い。
私がドン引きしてる間に木々の間から男たちが姿を現わす。数は5人だ。その内の1人、真ん中の男はかなり出来る。
「真ん中の男、出来るね。かなりの魔力を持ってる。」
「”闘神”だからあれぐらいの魔力を持ってても不思議じゃないよ。」
「”闘神”?あの男が?」
「うん。”闘神”序列第4位、坂本海斗。」
「へぇ…」
私と美穂が話しているのを坂本を含む敵側プレイヤーたちが獲物を狩るような目でこっちを見ていた。
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