第437話 流星

【 アリス・ちび助 組 荒れ果てた岩場(夕方) 】



突如現れた100人を超える男たち。バディイベントなのになんでこんな数がいるんだろう。この数の奴隷を保持しているプレイヤーなんているのだろうか。



「クヒヒ、この数ビビんだろー?いやいやー、女とヨロシクやってるトコ悪いね。まさかあの蘇我クンがロリコンだとは思わなかったよ。」


「いやいや、金髪ロリとかちょっと気持ちわかるよな。特にこのガキさ、ツラ良くね?」


「おー、ホントだ。かなりレベル高いわ。コレ数年経ったら相当可愛くなんじゃね?」


「んじゃ蘇我クン殺したらそのガキ頂いとくか。お兄さんたちと楽しい事しようねー!!」


「ブアッハッハ!!俺たち全員の相手させたら金髪ロリちゃん壊れちまうじゃねぇか!!」



馬鹿な男たちが馬鹿な話題で盛り上がっている。久しぶりにイラっとするが今は冷静にならないといけない。この数は絶対に良くないのはわかる。夢幻さんの力がどれぐらいかわからないけど、この数なら男たちの能力次第では楓さんや牡丹さんだってマズいかもしれない。


ーーアリスが勝ち筋を見つけようと思案する中、夢幻は体勢を変える事なくゴミを見るような目で男たちを見下ろす。



「おい、流石の蘇我もこの数見ちゃブルって立ち上がる事もできねぇぜ。」


「フヒヒ、しょんべんちびっちまったんじゃねぇの?」


「蘇我ァァァァ!!!なんか知らねーけどよ、俺たち30クランが同時にバディで配置されちったんだよ!!!不具合サイッコォーだよなァァ!?お前みたいな有名人フルボッコに出来んだからよォォォ!!!」



ーー男たちが勢いづく。圧倒的多数で群れを形成した連中にもはや怖いものはないのだろう。



「絵に描いたようなクズだな。この世にカケラも必要の無い不要なゴミだ。」


「あ?何つった今?」



ーー夢幻は答えない。ただただ岩の上から男たちを見下ろしている。



「流石は蘇我じゃん。ビビってねぇってよ。」


「化けの皮剥いでやろうぜ。実はビビってどうしようもねぇんだぜホントは。」


「女がいるからって調子こいてんじゃねぇぞ。」


「よし、あの金髪ロリ犯してるトコ蘇我に見せつけてやろうぜ。犯って犯って犯り飽きるまで犯してから蘇我の野郎ブッ殺してやろうぜ。」


「イイねぇ。」



ーー男たちが下衆な会話に花を咲かせる。だが当の夢幻は男たちを特に気にする様子もない。関心が無いように思える。

そして、夢幻が立ち上がり、岩から飛び降りる。アリスの元へと向かって。



「夢幻さん、協力して何とかアイツらを倒しましょう。」


私は力強く夢幻さんに言う。敵の数は多いが一ヶ所に集まっているので私の魔法で奇襲をかければ一気に敵を倒せる。あとは夢幻さんにリーダー格を倒してもらえれば勝てるはずだ。


ーーアリスが策を練っていると、夢幻がアリスへと微笑む。



「アリス、ちび助をちゃんと捕まえてろ。そして俺から絶対離れるな。」



私は夢幻さんからちび助を受け取る。



「1人で戦うつもりですか!?大丈夫です!!私も戦えます!!」



ーーアリスが1人で戦おうとする夢幻を引き止める。そんなアリスの頭を夢幻は軽く撫でる。



「俺が必ずお前を守ってやる。心配するな。それに、あの程度の有象無象などすぐ終わる。」



ーー夢幻の声は男たちにしっかりと聞こえる。その為男たちは顔面を紅潮させ、血管を浮かび上がらせながら怒号を喚き散らし夢幻とアリスへ全速力で向かって来る。



「やれるモンならやってみろやァ!!!」



男たちが金、銀、赤などのエフェクトを発動させながらこっちへ向かって来ている。それだけじゃない、明らかにサブスキルみたいなのを発動させて集団全体にオーラを展開させている。相当な戦力だ。このままではマズい。


ーーアリスはラウムを開きマヌスクリプトを手にする。赤のマヌスクリプトの初級魔法、フェーゲフォイアーを放ち敵軍を一層するつもりだ。だがアリスが詠唱を始めるよりも早く、夢幻が上空に魔法陣を展開させる。一際大きい魔法陣。あまりの大きさにアリスが息を飲む。



「ーーメテオール」



ーー夢幻が呟くと空が光出す。何かが空から落ちてくる。それが男たち数名に当たり、低い叫び声を微かに上げると死に絶えた。大きな岩に押し潰されている。

生き残った男たちとアリスがその光景を呆けて見ている。上空からの気配を感じ皆が上を向く。空から流星が流れ落ちて来る。大小さまざまな大きさの岩が空から地上へと舞い落ちる。隕石がアリスと夢幻の前方に落ち、男たちの断末魔の叫びで地上は地獄のような状況と化しているが、上を向くとそれが一変する。夜への変化を始めている夕空に流星の輝きが相まって幻想的な空を演出する。アリスはそんな光景に感動と恐怖が入り混じるなんとも言えない感覚でいた。

1分程で流星は見えなくなった。地上にいる男たちが死に絶えたからだ。地上に残っているのは赤く染まった岩場と荒れ果てた隕石の残骸と男たちの身体が千切れた肉片だけ。


…凄いなんてものじゃない。あれだけの数の人間たちが1分も経たずに夢幻さんの前に敗れ去った。みくさんが前に言っていた天体を操る力、それをこの人は持っている。効果範囲はわからないがこの力を打ち破る事なんて出来るのだろうか。私が見る限り楓さんと牡丹さんは近接戦闘タイプ。楓さんにはグローリエがあるがそれでも長距離ではなく中距離だ。夢幻さんは超長距離戦が可能。私には楓さんと牡丹さんでも勝てないような気がしてしまう。それは実力という意味ではなく相性が悪すぎるんだ。それは美波さんでもみくさんでも同じ。恐らく勝てる可能性があるのはタロウさんだ。タロウさんの持つサブスキル《完全制御》、これで夢幻さんのスキルを無効化するのしか策は無いんじゃないだろうか。もちろん姿を認識出来ない程の超長距離で夢幻さんが今の隕石を扱えたらどうしようもなくなる。その時はーー

私はここでそれに気づく。夢幻さんに助けてもらったのにその夢幻さんを倒す事をすでに考えている。物凄く嫌な子だ。恩を仇で返す。正にこの言葉通りだ。今はそれを考えるのはやめよう。最後には倒さないといけないとしても今は考えたくない。


私が自己嫌悪して俯いていると、夢幻さんが私の頭を撫でる。



「アリス、終わったよ。怖かったか?」



夢幻さんが私に微笑んでいる。タロウさんのように満面の笑みという訳ではない。笑い慣れていないのだろう。ほんのわずかに笑っているだけ。でも、心から私に微笑んでくれているのはわかる。最初に会った時とは別人のようだ。



「いえ、大丈夫です。夢幻さんは強いんですね。ありがとうございました。夢幻さんがいなかったら恐らく私は負けていました。夢幻さんは私の恩人です。」



その恩人に対して私は殺す策を練っていた。最低だ。本当に最低だ。


ーー自己嫌悪に陥り落ち込むアリス。そんなアリスを夢幻は優しく頭を撫でる。



「アリス、俺とクランを組まないか?」


「えっ…?」


「お前は生きているべき人間だ。俺が必ずお前を最後まで守り、ゲームクリアへと導く。だから、俺と一緒に来い。」



ーー夢幻の申し出にアリスは驚く。数十分前には考えられなかった2人の関係性に驚いているのだろう。正直に言えばアリスは夢幻の誘いを嬉しく思った。でも、アリスの返答は決まっている。



「夢幻さんのお誘いは嬉しいですけど…ごめんなさい。私には一緒に行動をするクランメンバーがいるんです。」


「そうか。」



ーー夢幻は一瞬だけ表情を変え、残念そうな顔をする。それをアリスは見逃さなかった。



「それでも俺はお前の味方だ。お前に何かあれば必ず助ける。これを持っていろ。」



ーー夢幻が左手の掌を握り締める。すると突然発光し出し、アリスは眩しさで目を細めた。発光が終わり、夢幻が掌を開ける。その手にあったのは銀色の小さい笛のようなものだ。



「笛…ですか…?」


「ピンチになったらそれを吹け。俺の魔力で作った笛だ。どこにいたって必ず駆けつける。」



ーーアリスは夢幻から銀の笛を受け取る。



「ありがとうございます。」


「時間だな。」



ーー周囲が闇に包まれ始めていく。



「またな、アリス、ちび助。」


「はい、また!」


「ぴぴっ!」



ーー夢幻は少しだけ笑いながら消えていった。


ーー夢幻の力によりアリスは九死に一生を得た。この夢幻との出会いがアリス…いや、慎太郎にとっても大きな事につながっていくこととなる。

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