第436話 エラーの影響

【 アリス ??? 組 荒れ果てた岩場(夕方) 】



そびえ立つ大きな岩の上で私を見下ろす男、蘇我夢幻。楓さんや牡丹さんと同じ”闘神”と”五帝”に名を連ねる俺'sヒストリー最強プレイヤーの1人だ。そんな彼が私を冷たい目でみている。私に対して何の興味も関心も無い冷たい目。いや違う。汚いものでも見るかのような目だ。タロウさんとも、今まで見て来た男たちとも違う感情を私に向けて来ている。でも今の私にはこの人と協力するより他はない。卑しい言い方になるがこの人にすがるしか私が生き残れる術はないんだ。私は死ねない。死にたくない。タロウさんたちとお別れしなくちゃいけないなんて絶対嫌だ。どんなにみっともなくても必ず生き残る。



「あ、あのっ!!私ーー」

「ーー失せろ。目障りだ。」



私が蘇我夢幻とコミュニケーションを図ろうとするが拒絶される。それだけ言うと蘇我夢幻は私から目線を外し、正面を向いてしまう。もはや私の事は眼中にすらないようだ。それでも私は蘇我夢幻にすがるしかない。私はもう一度コミュニケーションをとろうとする。



「わ、私の話を聞いて下さい!!私たちはバディです!!だから協力をして切り抜けましょう!!」



今度は台詞を最後まで言う事が出来た。後は蘇我夢幻の返答待ちだ。どうにか受け入れてくれればいいけど。



「俺はお前と協力する気は無い。俺は人間が嫌いだ。お前を助けてやるつもりも無い。バディイベントでなければお前も当然殺している。せめてもの情けだ、俺の前から失せろ。」



蘇我夢幻は私に冷酷な眼差しを向けてそう言い放つ。ダメだ。この人を説得する事は出来ない。説得するどころかこれ以上言えば本当に殺されてしまうかもしれない。それならどうにか逃げ隠れをしてイベントが終わるのを待つ方がまだ生き残れるんじゃないだろうか。でも…そんな自分だけが良ければいいみたいな考えは嫌だな。私、凄い嫌な子になってる。これじゃダメだ。私もちゃんと自分の力で生き残れるようにしないと。とりあえず今はここから離れて戦いが始まったら私も協力出来るようにがんばろう。


私はそう思いこの場から立ち去ろうとした時だった。着ている青のドレスの胸元がモゾモゾと動き出す。私はびっくりして襟首を開けてみると、



「ぴっ!!」


「ち、ちび助!?」



ドレスの中からちび助が出て来る。私の周りを気持ち良さそうにスイスイと飛んでいる。



「な、なんでちび助が…!?あ!!ちび助がいたからエラーになったんだ…」



エラーになった理由には納得したけど置かれた状況が好転したわけではない。



「ぴぴっ!!」



私が考えていると、ちび助は蘇我夢幻の方に向かって飛んで行く。



「ちび助!?そっちに行っちゃダメ!!!」



私の声を無視してちび助はそのまま蘇我夢幻の元へとたどり着き、肩に止まる。あれだけ冷酷な人間なんだ、ちび助が何をされるかわかったもんじゃない。私がちび助を守る。これで戦闘になったとしても仕方がない。


ーーアリスがラウムを開きマヌスクリプトを取り出そうとした時だった。予想だにしない光景にアリスの手が止まる。蘇我夢幻の顔が優しいものに変わっている。先ほどまでの冷たい目が幻だったかのような豹変ぶりに時が止まってしまった。



「お前、ちび助って言うのか?」


「ぴっ!」


「フッ、そうか。」



ーー夢幻がちび助に微笑む。アリスへ向けた敵対心剥き出しの表情とは正に180度違う今の夢幻にアリスはただただ戸惑っていた。



「ぴっ!ぴぴっ!」


「アイツがお前を助けてくれたのか。お前の主人なんだな。」


「ぴよ!!」


「えっ!?ちび助の言葉がわかるんですか!?あ…」



しまった。反射的に蘇我夢幻に話しかけちゃった。あの顔はちび助に向けているだけだから私がそこに割って入ったら今度こそ殺されてしまうかもしれない。


ーーアリスが心臓をドキドキさせながら己の失策を悔やむ。背中に変な汗をかきながら夢幻の出方を伺うがまたしてもアリスの予想とは違う結果となる。



「少しならわかる。ちび助はお前に感謝をしているよ。お前、優しいんだな。」



ーー夢幻がアリスに微笑む。先ほどまでの冷たい目はもはや向けていない。その光景にアリスは唾を飲んだ。



「なぁ、お前、鳥は好きか?」


「うえっ…!?えっと、好きです!!」



ーーイキナリ話しかけられたアリスはパニクってしまう。



「そうか、俺も好きだよ。」



ーー夢幻の顔が優しいものへと変わる。それを見てアリスはなぜだか心から安心出来た。この感情は慎太郎と父以外の男に対して初めて抱いた感情であった。



「俺は蘇我夢幻。お前の名前を教えてくれないか?」


「私は結城アリスです。」


「アリスか良い名前だな。」


「ありがとうございます…!!あの、蘇我さん。」


「夢幻でいい。」


「えっと、夢幻さん。改めてなんですけど、協力してーー」

「ーー出て来い。《隠密》使ってんのなんかバレてんだよ。」



私が話していると夢幻さんが前を向き、先ほどまでの怖い顔で誰かに向かって声を出す。すると、突如として岩場の下にプレイヤーたちが姿を現わす。その数は100人を軽く超えている。



「なに…この数…」



私はその異常な光景に声を漏らした。



「蘇我クン、こんちはー!!!ブッ殺しにやって来ましたー!!!」



男たちの品の無い声が周囲の岩壁に反響しながら響き渡っていた。

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