第428話 監視
【 楓・牡丹 組 埠頭(夜) 】
ーー人気の無い夜の埠頭。そんな薄気味悪い場所に牡丹と楓はいる。対峙するのは坂崎明、俺'sヒストリーに初期から参加している古参プレイヤーだ。手にしているゼーゲンは2段階解放の斧型。そして、身長こそ170cm程度しかないが、鍛え上げられた筋肉によるパワーにより、攻撃力重視の戦闘スタイルを駆使してここまで生き残って来た。筋肉によるパワー型といえば慎太郎も同じであるが、体の作りが全く違う。坂崎は全身の筋肉が膨れ上がる程に鍛えた事によるボディー。慎太郎は科学的に考えられた知的な筋肉ボディー。早い話が坂崎の体はキモくて嫌だって事だ。
そんな気持ちの悪いゲイとの戦いを牡丹ちゃんたちは繰り広げるのであった。
さて、この者はなかなかの強者です。一筋縄ではいかないかもしれない。恐らく実力的には”闘神”の坂本さんと同じぐらいの強さかと思います。メインスキルやサブスキルの能力次第ではもっと上かもしれない。楓さんと2人でかかれば間違っても負ける訳は無いと思いますがどうしたものでしょう。
「牡丹ちゃん、ここは私に任せてもらえないかしら?」
私が思案していると、楓さんが私に対してそう告げる。別に楓さんの申し出を断る理由はない。楓さん程の方がこの男に負けるとは思わないし、何より楓さんがそう告げるということは何か策がある可能性が高い。それなら私がそれを邪魔をするべきではありません。
「それは構いませんが、何か目的があるのですか?」
「ええ。グローリエの実験をしたいのよ。この前の時は”覚醒”だかなんだかの状態に入ってたからあの力を出せたってツヴァイが言ってたじゃない?だからソレに入ってない時のグローリエの力を確認したいのよ。」
「確かにそうですね。戦闘の組み立てを考える際に戦力の把握は必須。ならばここでそれを見極めるのが最善です。」
「最悪グローリエが制御不能とかになっても牡丹ちゃんがいればなんとかなるからね。」
「わかりました。では楓さんの新たな力を拝見させて頂きます。」
私の言葉に楓さんが頷く。そして坂崎へ向き直すと楓さんの身体から剣気が溢れ出す。
「まさかそんなモンぐらいで得意になってんじゃねぇだろうな?」
坂崎が薄ら笑いを浮かべながら剣気のようなものを私たちにアテてくる。
「これぐらい一定の水準に達してる奴なら誰だってできんだろ。何の自慢にもなりゃしねぇ。」
「ウフフ、よくしゃべるわね。」
ーー饒舌に喋る坂崎に対して楓は鼻で笑いながら煽り始める。
「男の癖にペラペラとしゃべるのは底が浅く見られるわよ?男性は寡黙な方が魅力的なんじゃないかしら。あ、ごめんなさい。底が浅いからペラペラしゃべるのよね。ウフフ。」
ーーその楓の煽りに対し、坂崎は顔を紅潮させ明らかな怒りを露わにする。
「このクソ女が…!!テメェはただじゃおかねぇぞ。そうだ、すぐに殺すのはヤメだ。お前らを奴隷にして醜い男たちに犯させてやる。頭のハゲたブサイクでデブなオヤジたちに犯させてやるからな!!覚悟しとけ!!」
ーー坂崎が気持ちの悪い顔でニヤつきながら楽しそうに楓に言い放つ。
想像をするだけで気持ち悪いですね。相手の容姿を問わずタロウさん以外に触られる事すら嫌です。タロウさん。あぁタロウさん…もう離れて39分42秒も経ってしまいました…いくらこの指輪があっても牡丹は寂しいです…やはりタロウさんには花屋を継いでもらいましょう。今のお仕事を続けられてしまうと会えない時間が多くなります。その点花屋を継いでもらえればずっと家にいます。ふふふ。
ーーもう完全に監禁しようとしてるよね。
「なんでそんな覚悟をしないといけないのかしら?私のこの身体に触れられる男性はこの世に1人しかいないの。それにあなたじゃ私には勝てない。」
「テメェ…」
ーー両者が睨み合い戦闘が始まろうとする。そんな緊迫した空気の中牡丹は思っていた。
楓さんはまだ知らないのですね。タロウさんは私と夫婦になる約束をしたのです。もうどんなに頑張っても無駄なのです。タロウさんも罪な方ですね。早く皆に教えて差し上げれば良いのに。
ーーと、してもいない約束をしたと思い込み、いつもの通り危険な空気を撒き散らしていた。
「見せてやるよ、俺の力を。」
ーー周囲の空気が変わる。吹いていた風も止み、夏の夜らしい纏わりつくような暑さになる。だがそれもほんの一瞬の事。坂崎の身体から金色のエフェクトが弾け飛び、突風が吹き荒れる。
「出て来い、戦神ウコンバサラ。」
ーー坂崎がそう叫ぶと、魔法陣から青い髪をした男が現れる。当然身体は実体化されている。”具現”だ。
牡丹は気づく。青髪の男が放つ異様な雰囲気に。そしてそれは似ている事に。
「楓さん!!その男は危険です!!共に戦いましょう!!そのモノはクラウソラスと同じ雰囲気がする!!普通の英傑ではありません!!」
ーー嫌な予感がする牡丹は声を荒げ楓を止める。
「ふぅん、そっちの女もウコンバサラと同じ”神”の所持者なのか。こりゃ楽しめそうだな。なぁ、ウコンバサラ。」
ーー坂崎がウコンバサラと呼ばれるモノに対し話しかける。
『この感覚…ククク…なるほどな。実に懐かしい。』
ーーウコンバサラは坂崎を特に気にする様子は無い。自分の主人よりも楓の方を見て何かを考えている様子だ。
ーーそして、当の楓もウコンバサラを見て特に気にする様子も無い。いや、少し楽しそうな表情をしている。
「ウフフ、牡丹ちゃん、そんな事をする必要は無いわ。言ったでしょう、ここは私に任せてって。」
「それはそうですが…!!そのウコンバサラというモノはとても嫌な氣を出しています。何かあってからでは…!!」
「心配してくれるのは嬉しいけど私がコイツらに負けるなんて全然思ってないわ。丁度いい実験体にしか思ってない。だって私の方が強いもの。」
ーー楓のその物言いにウコンバサラは目を細め口を開く。
『図に乗るなよ人間風情が。俺を誰だと思っている?』
「さぁ?変な髪色をしている頭のおかしい輩じゃないかしら?」
ーー楓がウコンバサラを更に煽る。それを見て牡丹は解せない気持ちでいた。楓は度々相手を煽る事はしていたがここまでではなかった。それなのにどうして今回はここまで煽るのだろう、牡丹は楓の考えが理解出来なかった。
『愚かな雌が。格の違いとやらを教えてやろう。』
ーー
ーー
ーー
ーー牡丹たちを照らす灯台の明かり。その灯台の屋根先端にて夜ノ森葵は牡丹たちを見下ろす。
「戦神とマッチアップか…楓ちゃんって強い奴とバトるパターン多いよね。コレどうすればいいんだろ。剣神いるから最悪はどうにかなるのかな…?でも”神”ウコンバサラとやり合って生き残れるの…?あの坂崎ってのは2段階解放してるわけだし…」
ーー葵が少し不安そうな顔で眼下にいる楓を見る。
「それにウコンバサラとブルドガングじゃ相性最悪じゃん。結末見えてるよね…?」
「そうかもしれないわね。」
ーー葵同様、灯台屋根に立つものがもう1人現れる。見た目こそ幼いが佇まいは大人の淑女。そんな歪で相反するような奇妙な女が葵の横に立ち並ぶ。
「げ、カルディナじゃん。何しに来たの?」
「あら?フィーアとツヴァイ様は同盟関係なのでしょう?それなら私もここにいたって何もおかしくないんじゃない?」
「この前のイベントでもカルディナは楓ちゃんに接触してたじゃん。何企んでんの?」
「企んでなんかいないわよ。彼女とは幼馴染なだけよ。」
「え、そうなの?初耳。だから心配になって見てるってこと?」
「それは違うわね。私は別に芹澤楓を心配してはいない。ただ…力の程を見極めたいだけよ。」
ーーカルディナの目の奥がナイフのように鋭くなっているのを葵は見逃さなかった。
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