第427話 埠頭
【 楓・牡丹 組 埠頭(夜) 】
「楓さん、バディの方がおられませんね?」
私の言葉に楓さんが目を細め周囲を見渡す。
「これもエラーによるものなのかしら。どう気配を探って見ても近くに人がいる気配は無いわ。」
「はい。エラーによってもっと遠くへ転送されている線もあるかもしれませんが恐らく私たちだけかと思います。」
「ま、私と牡丹ちゃんが揃っていて負けは無いからバディなんてどうでもいいけど。ウザったいのがいなくてかえっていいかもしれないわね。」
自分の力に自惚れているわけではありませんが、私と楓さんがいて敗北は想像出来ませんね。それはタロウさんの組も同じです。みくちゃんと美波さんがいれば敗北は無い。心配なのはアリスちゃん。どうか、どうか無事でいて下さい。
「それじゃとっとと敵を見つけて終わらせましょう。終わればいつも通りリザルト部屋に転送される。そうすれば…必ずいるはずよ。」
そう言う楓さんの顔はとても不安そうだった。楓さんは特にアリスちゃんと仲がよろしかったからより一層心配なのでしょう。
「楓さん、大丈夫です。必ずいつも通りの私たちがそこにありますから。」
「…ええ。」
私の娘は必ずそこに戻って来ます。母は信じておりますよ。
ーーおい。
…気配を感じる。誰か2人が近くに来ている。1人はかなりの強さだ。気配を消そうとしても力が強すぎて抑え切れていない。
「楓さん。」
「強者ね。ここだと暗くて面倒だわ。灯台の灯りが照らされている向こうに行きましょう。こっちが気配を出せば追って来るでしょ。」
「わかりました。」
楓さんの指示で私たちは灯台近くへ移動を開始する。それに気づいた敵プレイヤーは速度を速めてこちら側へと向かって来ている。予想通りですね。だが相手の1人は相当強い。気を引き締めていかないといけません。決して驕る事なく。
私たちが灯台近くへ到達し、埠頭が薄明かりに照らされている場所で待ち構えていると敵プレイヤーたちが姿を現わす。
「決して逃げたわけではない事はわかっている。誘い込まれたのも理解している。暗い所で戦うのは互いに嫌だものな。」
現れて早々強大な力を放つ男が口を開く。
非常に筋肉が発達した30代ぐらいの男。背は特別高いというわけではない。楓さんと同じぐらいだろう。だが体重差は相当ある。軽く見ても100は超えていそうだ。何より面倒なのは手にしている武器。斧型のゼーゲンを持っていますね。あの身体で扱われるとかなりの攻撃力なのは容易に想像出来る。私たちのように力が無い身体ではあの男の一撃をゼーゲンで受けるだけでも大きなダメージに繋がりそうだ。
「うおっ!?コイツらレベル高けぇ!?めちゃくちゃイイオンナじゃん!!!」
もう1人の男が私たちを舐め回すような目つきで見ている。気持ち悪いですね。彼以外の男に見られる事だけでも吐き気がする。タロウさん…はぁ…もう離れてから14分28秒も経ってしまいました…いくら誓いの指輪があったとしてもやはり貴方を感じていたい…
ーー秒単位で計測してるのが怖い。
「坂崎さん、殺しはしないで下さいよ!?2人とも奴隷にしましょう!!」
本当に気持ち悪い。どうして男性はそのような事しか考えていないのでしょう。もはや性獣ですね。彼以外の男は死滅した方が良いです。
ーー慎太郎だって根っこの部分は同じじゃない?性欲の塊みたいなもんだよ?牡丹ちゃんをオカズにしまくってるよ?
「うるせぇな、こんな女どもなんてどうでもいい。」
坂崎という男がもう1人の男に対して目も合わせずそう答える。以外ですね。てっきりこの男も同じような考えだと思いましたが。
ーーそうだね。見た目は性欲強そうな風貌だもんね。
「…つーか、さっきから何なのアンタ。俺たちはバディだろ?少しはコミュニケーションとか取れないわけ?」
ーーなんかモメ出して来たね。これがバディイベントの悪い所だよ。所詮は他人であり最終的には敵でしかない相手なんだから味方にはなれないよね。
「コミュニケーション?何でお前とそんなものを取らなければならない?俺の強さに寄生してるだけだろ。第一、お前みたいなブサイクで弱い男に使い道なんかない。」
ーー坂崎の物言いに若い男は顔を歪ませ怒りを露わにする。
「あんま調子に乗ってんじゃねぇぞオッさん!!!こっちが大人しくしてりゃいいーー」
ーー坂崎のバディがしゃべっている途中で坂崎は斧で斬りつける。それによって男は肩から斜めに引き裂かれ、その場にへたり込んでしまう。
「て…てめぇ…なに考えてやがんだ…俺たちはーー」
「ーーうるせえよブサイク。死ね。」
ーー坂崎が斧で男の頭を叩き潰し、男は死に絶えた。その様子を牡丹と楓は目を細めて注視する。坂崎の常軌を逸した行動に警戒を強めているのだろう。そんな中、楓が口を開く。
「あなた何を考えているの?自分のバディなのよ?」
「それが?」
ーー坂崎は楓の問いに表情を変える事無く答える。楓は続けざまに言葉を繋ぐ。
「2対1になったのよ?どう考えたって不利になっている。正気の沙汰とは思えないわ。」
ーー楓は前回のトート・シュトライテンにて夏目竜也という人間を見た。夏目のように自分の都合で仲間でさえも殺すプレイヤーを見ている事でまだ耐性が出来ていた。それによって牡丹よりも冷静に坂崎に対して対応する事が出来ている。
「そんなの関係ねぇよ。コイツはどうせ役に立たない。”闘神”を抑えられるようなタマじゃねぇからな。」
「へぇ。私たちの事を知ってるってわけね。」
「それに大して不利にもなってねぇさ。お前らみたいなのは2対1でやろうってのはしねぇだろ。甘ちゃんそうなツラしてっからなぁ。」
「さあ?どうかしらね。私たちは女だから男とサシで戦うなんてマネはしないかもしれないわよ?」
ーー楓ちゃんはそんな事思ってないよね。男なんかに負けるなんて思ってないもん。
「なによりブサイクな男に用はねぇんだわ。俺はイケメンとか可愛い男が好みでよ。」
「なるほどね。納得。」
私も納得いたしました。だから私たちに対して劣情を催さなかったのですね。これはタロウさんがいたら大変でしたね。タロウさんは何もかもが完璧ですからきっとこの男も好意を抱いていた事でしょう。
「そんじゃ始めっか。俺はお前らみたいなツラの女は虫酸が走るんだよ。奴隷になんかするつもりはねぇ。そのツラグチャグチャにしてからブッ殺してやるよ。」
ーー牡丹sideでの戦いが幕を開ける。
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