第426話 風の力

【 慎太郎・美波・みく 組 廃工場(夕方) 】




「金色…アルティメット持ちか。」


「それだけ自信満々だからトラップをガッツリ仕掛けてあんだと思ってたらそういうことか。」


「メインのアルティメットに加えてサブを周辺に設置済み。こら調子に乗るわな。」



男たちがペラペラと状況についての説明をしている。



「だがそれがどうした?俺たちはアルティメット持ちじゃねぇ。だがなーー」



男のリーダー格と思われる男が喋っていると身体から銀色のエフェクトと、足元に銀色に輝く魔法陣が現れる。それは周囲にいる他の3人も同様だ。リーダー格の男と同じように銀色のエフェクトが身体を纏い、足元には銀色に輝く魔法陣が展開される。

間髪を入れず足元にある銀色の魔法陣から上空へ向けて光が現れると男たちのプレッシャーが跳ね上がる。その圧はメインスキルアルティメットと同等、いや、アルティメットに勝るとも劣らない程や。



「どうだ?テメェもそれなりに修羅場くぐってんならわかんだろ?俺たちのこの力が。俺のサブスキルはバフSSだ。効果は察しの通り身体能力の大幅上昇。それにオマケ付きだ。ま、当然オマケの内容は教えてやらねぇがな。」



リーダー格の男がニヤニヤしながら勝ち誇ったようにウチを見ている。どいつもこいつもウチをナメとる。めっちゃ腹立つ。タロチャンにも腹立つ。絶対ウチに謝罪させたる。


ーーまー、さっきの慎太郎の態度はちょっと酷いよね。ああやってからかう所がモテないんだよね。人の嫌がる事はしちゃダメだよ。慎太郎は反省しないとね。



「オラ、お姉ちゃん。かかってこいよ。俺らから行ってトラップにかかるようなバカなマネはしねぇぜ。ま、かかって来ねぇならこっちから遠距離ーー」

「ーートラップなんか仕掛けとらんわドアホ。」



私は男たちの言葉を遮る。



「なんでお前ら如きにサブスキルなんか使わなあかんねん。メインスキルだけで十分や。グダグダしゃべっとらんでとっととかかってきーや。」



ウチの言葉を聞き男たちが目つきを鋭くさせる。女にここまで言われた事にキレたんやろ。器の小さい奴らや。


ーーうーん、みくちゃん怒ってるね。口調が荒いもん。それもこれも全部慎太郎のせいだね。



「…ちょっと調子に乗りすぎだな。」


「流石にアタマに来たわ。」


「こりゃお仕置きが必要だな。」


「少し懲らしめるつもりだけだったがもう容赦しねぇ。ガンガンやってやろうぜ。」



男たちが身につけているそれぞれの武器を取り出す。全員がゼーゲンを持っている。未開放ではあるが、ゼーゲンの祝福によって身体能力が更に引き上げられ、より一層男たちの出すプレッシャーが力を強める。



「さ、戦闘開始や。」



ーーみくの頭上に魔法陣が展開する。魔法陣から放たれる金色の光を浴び、みくを包む金色のエフェクトが一層輝きを増す。



「時空系か。だがそれがどうしたァ!!行くぞテメェらァァァァ!!!」



ーーリーダー格の男の怒声が合図となり男たちはみくへと襲いかかる。手にしているゼーゲンは槍型と短剣型が2名ずつ。短剣型を手にしている男たち2人で左右からの連続攻撃を繰り出す。短剣型の特性である速さを使ってみくを追い込む。そして槍型を使う男たち2人がみくの死角から突きによる一撃必殺を狙って来る。今日出会ったばかりの即席チームではあるが各々の特性を引き出し、最善の策を講じて来る。かなりの強者たちだ。上級プレイヤーであってもこの連携を相手に1人で立ち向かってはたちどころに風穴を開けられるのがオチである。それぐらい男たちの連携はよく取れていた。


ーーだが男たちは気づく。何度その攻撃を繰り返してもみくに当たらない事に。そもそも何度も繰り返しているのがおかしい。最初の一撃で身体に穴が開いて即終了しているはずだ。それなのに何度も繰り返し、それどころか何度やってもカスりもしていない。この異常事態に男たちの顔から余裕が消える。



「な、なんで当たらねぇんだ…!?」


「恐らくこの女の時空系は速度を上げるか攻撃を躱すのに特化したヤツなんだろ!!」


「ビビんな!!このまま攻撃してりゃあそのうち女の効果が切れる!!躱してるだけじゃ脅威にならねぇよ!!」



ーー男たちが怒鳴り声を上げながら指示を出す。そんな男たちを冷静な目で見ていたみくだが、そろそろ動き出す事を決める。



「なら躱すだけやないってトコ見せたろか。」



ーーみくの身体を包む金色のエフェクトが輝きを強める。



「ーー鎌鼬」



ーーみくが爪で引っ掻くように手を上にあげると、周囲にある風が集まり、風の刃を形成し始める。形成した無数の風の刃がみくの射程内にあるあらゆるモノを引き裂いていく。



「ぐがぁ…!?」

「がァァァァ!?」




ーーそれをモロに浴びた男たちは傷口から血飛沫を上げながらその場に倒れ込む。



「なんだこりゃあ…」


「風…?」


「刃物で切られたような傷じゃねぇか…!?」



ーーみくの技を喰らった男たちは得体の知れない力に恐怖を感じ始める。だがリーダー格の男は心は折れていない。状況を精査し、冷静な口調で男たちに指示を出す。



「ビビってんじゃねぇよ。大した傷じゃねぇだろ。この程度の威力なら俺たち4人で持久戦に持ち込みゃあ絶対勝てる。」



ーーリーダー格の男の言葉に男たちは冷静さを取り戻す。指揮官は常に冷静でいなければはらない。そんなものは常識中の常識。それは慎太郎も学ばないといけないよ。あ、でも、今回はそんなの必要ないよ。だってどんなに冷静に判断したつもりでも相手が一枚も二枚も上手ならなんの意味もない。それは所詮”つもり”でしかないもの。



「アンタらアホちゃう?鎌鼬がウチの技やなんて誰がゆーた?鎌鼬はただこの場に風を集めただけの事や。」


「あ?何言ってんだテメェ?」


「見た目通り頭悪いんやね。なら説明したってどうせわからんやろ。それに百聞は一見にしかずゆーしな。身をもって体感せーや。」



ーーみくの身体を包む金色のエフェクトが黄金色に輝く。



「ーーシュタイフェブリーゼ」



ーーみくが両の手を前で交差させると集まっていた風がけたたましい音を立てて吹き上げる。その凄まじい風速により男たちの身体が一瞬でバラバラに引き裂かれ、肉片や血飛沫も風とともに跡形も無く吹き飛ばされる。

風の過ぎ去った廃工場跡には何も残らない。廃工場だった形跡すら何も無く、ただの荒野がそこには広がっていた。



「強っ…」



ーーみくの強さに驚愕しているように見える慎太郎。確かにその強さに驚いてはいるが、それと併せて『うわぁ…みくも技に名前つけちゃってるよ…恥ずかしくないのかな…絶対大人になったら黒歴史になって夜中に悶えちゃうぞ…』と、別の意味で驚愕していた。



ーー戦いを終えたみくが慎太郎たちの所へ戻って来る。ドヤりながら。



「終わったで。」


「すごいよみくちゃんっ!!さすがは”闘神”だねっ!!」


「こんなもん大した事やあらへんよ。」



ーー冷静な口調で言っているみくだが、美波が羨望の眼差しで見て来るので実はめっちゃ嬉しかった。



「ほら、どーやタロチャン。ウチはダメな子でしたかー?」


「侮ってすみませんでした。」



ーー慎太郎は深々と頭を下げるがそれでも心の中で『中二入ってんだからダメな子なのは間違いないんじゃねーかな。』と、まだ失礼な事を考えていた。



「そんなもんで許すわけないよね。足ナメさそ。」


「それやめない!?変態プレイやめようよ!?」


「私にも後からしてもらいますからねっ!!」


「ちょっと美波は黙っててくれる!?」



ーー戦闘が終わってイチャイチャし出す慎太郎たち。その百合百合しい光景をバディのおっさん2人は鼻息を荒くして眺めていた。



「あ、でもタロチャンが男に戻ってからね。今の姿でナメさせてもあんまり興奮しないから。」


「興奮って言っちゃったよこの子!?女子高生がそんなセリフ言っちゃダメだよ!?」


「そんじゃ戻ってからって事で。わかった?」



ーーなんだか怖い圧力をかけてくるみく。そんな様子を見てメンタル弱い慎太郎がとる行動は決まっている。



「…はい。」



ーー本当に情けない男である。

こうしてみくの力を知らしめて慎太郎sideの戦いは幕を閉じた。

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