第425話 不機嫌なみく
【 慎太郎・美波・みく 組 廃工場(夕方) 】
「エラーって…なんだよそれ…アリス…アリスっ…!!!」
メッセージの文面を見た俺は取り乱す。アリスの置かれている状況を想像するだけで胸が張り裂けそうになる。
「タロウさん、落ち着いて下さい。」
美波が冷静な口調で狼狽えている俺を落ち着かせようとする。
「アリスちゃんの事は心配です。でも私たちにはどうする事もできません。今私たちがやらなければいけないのは目の前の事に集中する事です。」
「…それはわかってる。でも…」
「気持ちはわかります。私だってアリスちゃんの状況を考えると居ても立っても居られなくなります。でもここで私たちが負けてしまったら終わりです。アリスちゃんが勝てたとしても終わりです。楓さんも、牡丹ちゃんも。私たちが今やる事は目の前の事に集中して勝つ事です。」
美波は力強い目で俺を諭すようにそう言った。
…何やってんだよ俺は。そんな当たり前の事を自分よりひと回り以上下の子に言われてどうすんだよ。リーダーならリーダーの務めを果たせよ。しっかりしろよ田辺慎太郎。
俺は両手で顔を叩き気合いを入れる。
「すまん美波。」
「大丈夫ですっ!やっぱりタロウさんはその顔をしている時が一番ですっ!女の子でもそれは変わりませんっ!」
「ありがとう。俺のやるべき事をやるよ。そもそもアリスは頑張る子だ。必ず生きて戻って来る。」
「はいっ!」
美波の言葉でようやく目が覚めた。よっしゃ、やってやるぜ。どいつもこいつも俺が蹴散らしてやる。
「アリスチャンなら負けるわけない。絶対勝てる。」
俺たちに背を向けながらみくもアリスを信じる力強い言葉を述べる。
「そうだな。」
「だからウチも絶対勝つ。1人で。」
「あん?」
なんだかみくの様子が変なので俺はみくの前へと移動し顔を見る。怒っとる。可愛いみくの顔が怒りの波動を宿しとる。
「み、みくさん…?」
「何?」
「お、怒ってる…?」
「別に。」
「き、機嫌直そうよー…」
「無理。」
「……。」
困った俺は美波を見る。だが俺と目が合うと美波は横を向いて目をそらした。さっきまでの力強い美波はどこに行ったんだろう。
「手出しは無用やで。ウチが全員蹴散らす。わかった?」
「あ、はい。わかりました。」
みくが怖いのでとりあえず逆らう事をやめよう。
「ウチが1人で全員蹴散らしたら謝罪してもらうから。」
「しゃ、謝罪って…?」
「ウチに跪いて『みく様すみませんでした。』って言いながらウチの足を舐めさす。」
「やだよ!?何でそんな変態プレイしなきゃいけないの!?変態は美波だけでお腹いっぱいだよ!?」
「ちょ、ちょっとっ!?私が変態ってなんですかっ!?」
「だって俺のタンクトップ盗んだりしてるじゃん。もはや俺の中で美波は変態日本代表だもん。」
「ひ、酷いですっ!!訴えますっ!!」
「楓さんの個性侵害するのやめような。」
ーー慎太郎たちがイチャイチャしてるのをバディのおっさん2人は死んだ魚のような目で見ている。なんとも緊張感の無い連中だ。
「絶対謝罪してもらうから。」
…みくからめっちゃ闇の波動が出てる。こりゃ諦めるしかないかもしれん。でも34のおっさんが現役女子高生の足を舐めるとかヤバすぎだろ。変態プレイじゃん。てかみくもそんなSっ気あるとはなぁ。ちょっと意外。
ーーみんな誰しも性癖ぐらいあるでしょ。
「…わかったよ。」
悪いのは俺だからな。みくが満足するように謝罪するよ。ま、足の甲に唇触れるぐらいで大丈夫だろ。
ーーうわぁ、フラグ立てちゃったよ。
「ず、ズルいですよっ!!私だってしてもらいたいですっ!!!」
俺がみくの要求を飲むと美波が凄い勢いで不満を訴えている。
「何で美波にもしなきゃならないんだよ。美波には俺、何にもしてないじゃん。むしろ被害を受けてる側だし。」
「それですっ!!その発言っ!!私の心は酷く傷つきましたっ!!謝罪を要求しまっ!!!」
「謝罪要求したいのは俺なんだけど。」
ーーお前が甘やかすからこのぶりっ子は調子に乗るんだよ。ビシっと言ってやれ。
なんでこんなにムキになってんのこの子。めっちゃ必死だし。目が血走ってるし。はぁ…もうなんでもいいや…
「はいはい。悪かったですよ。すみませんでした。」
「そんなのじゃダメですっ!!私もみくちゃんみたいなのシてもらいたいですっ!!」
「え?美波の足も舐めんの?」
「……それはあんまり私の趣味じゃないよねっ。むしろナメたい方だし。うーん…」
また1人でブツブツ言ってる。やっぱこのクランはダメダメじゃねぇか。アリス以外は精神病院連れていかないとダメな部類だろ。
ーーアリスちゃんも大概だけどね。
「何か考えておきますっ!!とにかく私にも何かしてもらいますっ!!!」
「はぁ…わかったよ…」
ーーおい。お前がそうだからダメなんだよ。
その時だった。俺は人の気配を感じるのでその方角へと目をやる。相手プレイヤーたちだろう。気配を消すつもりもないって事か、それともただのザコか。いずれにしても敵に対して備えなくてはならない。
「みく。」
「大丈夫だよ。わかっとるから。」
美波とは違いおちゃらけている雰囲気はない。要求こそふざけているものであるがみくからはピリピリした空気が先程からずっと溢れ出ている。
俺がみくの考察を行なっていると、廃工場の影から人影が現れる。全部で4人。全て男だ。25前後の男が4人。割と雰囲気があるな。決してザコじゃない。
「おっと、随分堂々としたお出迎えだな。」
「5人か。女が3人の小太りのおっさんが2人、楽勝だな。」
「ん?おいおいおい!!女スッゲー可愛くね!?」
「ほっほー!!3人とも超レベルタケーじゃん!!」
野郎どもがこっちを見て盛ってやがる。これだから男って野郎は。
ーーお前も男だけどね。
…ん?女が3人?みくと美波と……俺か!?そうだった。ワイは女になっとるんやった。
ーーそれも超絶美少女ね。
「こりゃ最高のご褒美がもらえそうだな。そんじゃ俺は後ろにいる黒髪ロングの気の強そうな方いただくぜ。」
「おーい、俺もあの女狙ってたのによ。」
「へっへっへ、黒髪ロングで気の強そうなトコがいいじゃねぇか。たっぷり調教して俺好みの女にしてやるぜ。」
……まさか俺の事言ってんの?黒髪ロングって俺と美波だけやん。どう見ても美波は気の強そうな顔してない。俺はしてる。えぇぇぇ…超絶キモいんですけど…鳥肌たってんですけど…
ーーそりゃ男に欲情されればそうなりますわな。
「そんじゃ俺は手前にいるショートの姉ちゃんな。」
「じゃ俺は黒髪ロングのおとなしそうな方で。」
「お前らズリィぞ!?俺はどうすんだよ!?」
ーー男たちが慎太郎たちの分配を決めているとみくが口を開く。
「くだらん事言うてないでかかってきーや。」
ーーそのみくの言葉に男たちは少し苛立ったような表情を見せる。
「生意気な口利くじゃんこの女。」
「お前もこのお姉ちゃんでヤればいいだろ。こういう女は2人でヤッちまえよ。」
「へへっ、そうだな。2穴責めしてやっか。」
「おい、お前はケツ使えよ?俺は嫌だぜ。」
ーー男たちが下衆な話をしているのを聞いて慎太郎と美波は明らかにイラっとしているがみくの表情は変わらない。
「かかって来ないならウチから行かせてもらう。ほな行くで。」
ーーみくの身体から金色のエフェクトが弾け飛び、バディイベントが開幕する。
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