第424話 エラー
「ーーて訳だから早急にオーダーを決めるぞ。」
会合から戻って来た俺と楓さんと牡丹は美波たちにバディイベントの事を伝える。
「またイベントなんですねっ…」
「ほんま頻度高すぎやない?ここ最近なんてほとんど毎日ぐらいのイキオイやん。」
食事を摂りながら美波は不安げに、みくは苛立ち気味に答える。
「……。」
特にアリスは俯いて箸にも手をつけていない。相当に不安なのだろう。弱い俺がアリスに安心するような言葉をかけてやれないのが辛い。
「文句を言っても仕方がないわ。イベントが始まるのは事実。私たちはそれに備えるだけよ。」
楓さんがキリッとした顔でそう述べる。楓さんは頼もしいよなぁ。俺よりリーダーやってるよなぁ。
「大丈夫。私たちなら乗り切れます。お互いを支え合って必ずここへ帰って来ましょう。」
牡丹が慈愛に満ちた表情でそう述べる。あぁ…癒されるわ…もう聖母だよね。この聖母力はきっとマリア様の化身なんだよ。
ーーヤンデレ属性持ちのマリア様はちょっと嫌だなぁ。
「おう。それじゃオーダー決めるぜ。」
ーー慎太郎たちが作戦を立ててから約30分後のPM7:59、俺'sヒストリー運営事務局からバディイベント開催のメッセージが届く。
ーーそしてPM8:00、慎太郎たちは戦地へと転送された。
ーー
ーー
ーー
ーー誰かに呼ばれている。
ーーいつもの声だ。
ーーそうだね。
ーー誰なの?
ーー酷いなぁ。
ーーいつ会ったの?
ーーいつかな?
ーー教えてよ。
ーー教えてあげない。
ーーなんでだよ。
ーー思い出して欲しいから。
ーー思い出して欲しい?俺が忘れてるの?
ーー忘れてるね。
ーーわからない。
ーーわかってるよ。
ーー何を?
ーー私の存在がだよ。
ーー俺は知っている。
ーー知ってるよ。私の事はタロウがよく知ってるよ。タロウの事も私はよく知ってる。他の誰よりも。
ーー相葉美波よりも、
ーー芹澤楓よりも、
ーー結城アリスよりも、
ーー島村牡丹よりも、
ーー綿谷みくよりも、
ーーそんな奴らよりも私はタロウの事をよく知っている。
ーーそんな奴らよりも私はタロウの事を想っている。
ーーそんな奴らよりも私はタロウの事を愛している。
ーー愛してる。
ーー愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。
ーー愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる
ーー邪魔な奴らは死ねばいいのに。
「シンちゃんっ!!起きて下さいっ!!!」
俺は美波の声で飛び起きる。
なんだろう…何か嫌な夢を見ていたような…
いや、今は目の前の事に集中しよう。
「また寝てたんだな、ごめん。」
「大丈夫ですよっ。」
美波が笑顔で俺に微笑む。
「シンチャンが寝てた時はちょっと焦ったで。何かされたんかと思ったもん。」
みくがホッとしたような顔で俺を見ている。
「ごめんな。さてと、こっちサイドは俺と美波とみくか。向こうは楓さんと牡丹とアリス。あっちに火力が集中しちまったな。」
「ちょいちょい!!ウチ高火力!!」
「えぇ…?」
「ちょっと!!何その目!?」
「だってねぇ…な、美波。」
「えっ?わ、私にフラれても困りますっ!」
「困るって何!?美波チャンもウチがダメな子だって思っとるん!?」
「だ、ダメなんて思ってないよっ!?ただ…その…楓さんと牡丹ちゃんみたいな感じじゃないというか…ドジっぽいというか…」
「がーん。」
ふむ。なかなか美波もストレートに言うな。美波みたいにおっとりしてる子にそう言われるとなかなかに堪えるだろう。
「もう怒った!!汚名返上したる!!このイベントはウチだけで勝ったる!!2人はそこで見てて!!そっちのバディの人らも!!」
みくがそういうので振り返ると変なおっさん2人がおどおどしながら少し離れた所にいる。もういたんだバディの人。
「いや、無理すんなよみく。」
「ムリなんかしとらん!!絶対ウチの凄さを証明したる!!伊達に1人でここまで来とらんし”闘神”に選ばれとらんし!!」
うーん、地雷踏んだか。ちょっとからかい過ぎたかも。ちょっと涙目になっとるし。
「悪かったよみく。機嫌なおしてくれよ。もう赤点娘ーーじゃなかったなんちゃって”闘神”とか思わないなら。」
ーーお前ケンカ売ってるじゃんそれ。
「あ、赤点娘!?まだ思っとったんそんな事!?それになんちゃって”闘神”って何!?」
やべ…マズったな。
「もう怒った!!!何があってもここはウチだけでクリアしたる!!!ウチを侮った事謝罪させたる!!!」
ーーみくが涙目になりながら怒っている。
「…やべぇどうしよう美波。」
「…タロウさんが悪いんじゃないですかっ!」
「…美波だって結構な事言ってたじゃん。」
「…あ、あれは!」
ーーその時だった。慎太郎たちの脳内に通知音が鳴り響く。
慎太郎たちはとりあえず内容を確認する為に脳内でテキストを読ませる。
********************
「埠頭ですか。」
私がいる場所は夜の埠頭。夜というのがなかなか面倒ですね。街灯も無い場所では死角も多い。屋内戦になったとしても倉庫内は物陰が多いと思う。一筋縄ではいかないでしょう。
「牡丹ちゃん…?」
声のする方を向くと楓さんが不思議そうな顔をして私を見ている。
「楓さん?どうされましたか?」
楓さんと一緒なら心強いですね。タロウさんと離れ離れなのは辛いですが私には彼がくれた婚約指輪があります。例え身体は離れていても心はいつでも一緒です。ふふふふふ。
ーーやっぱり婚約指輪だと思ってたのか。
でもどうして楓さんはそのような顔をされているのでしょうか?
「牡丹ちゃん…1人…よね…?」
「はい?そうですね…?」
私は周囲を見渡したり背後を振り返ったりするが誰もいない。楓さんは何をーー私はそれに気づいた。どうして私たち2人しかいないの。
「楓さん!?」
「おかしいわよ…必ず3人ずつに分かれるのに何で私たち2人しかいないの…?」
ーーティロン
その時だった。スマホの通知音が頭の中に鳴り響く。私たちは顔を見合わせ頭の中で文章を読み上げる。
『お世話になっております。俺'sヒストリー運営事務局です。エラー発生により結城アリス様が芹澤楓様と島村牡丹様の組から外れました。エラーの詳細につきましては現時点で不明となっております。エラーによるバディイベントの中止はございません。このまま進めて頂くようよろしくお願い致します。』
そ…そんな…アリスちゃんが…
「か…楓さん…」
「落ち着きましょう。私たちに出来る事は何も無い。」
「で、ですが!?」
「私だって居ても立っても居られないわよ。でも…どうする事も出来ないじゃない…」
楓さんが凄く辛そうな顔を見せる。そうよね。楓さんだってアリスちゃんが心配に決まっている。でもそれをどうする事も出来ない。
「私たちに出来るのはアリスちゃんの無事を祈る事しか出来ない。」
「はい。そうですね。大丈夫です。アリスちゃんは強いですから。」
「ええ。それにこれはバディイベント。アリスちゃんのバディが強い人かもしれない。祈りましょう。神に。」
アリスちゃん。無事でいて下さい。散る事など許しませんからね?母はあなたの無事を祈っております。
ーーおい。
********************
ーーそして同時刻。
運営からのメッセージを見たアリスは不安に押し潰されそうであった。冷静な判断は出来なく狼狽える。今のアリスはそんな状況である。
「な、なんで…!?エラーって!?」
ーー何よりアリスがここまでパニックに陥っているのには理由がある。それは白河桃矢との一戦による魔法の在り方にあった。今まで魔法により勝利を収めてきたアリスであるが白河桃矢には魔法が効かないどころか奪い取られ、あまつさえ牡丹を瀕死にまで追いやってしまった。それがアリスのトラウマとなり魔法を使う事に恐怖を覚えていた。幸い前回のイベントでは楓が敵を蹴散らした事と、チームとしてあまり戦う機会が無かった事によりそれが表面化されなかった。
だが今回は違う。アリスがどうにかしなければ生き残れないような状況に追い込まれてしまった。それによりパニックを起こしているのだ。
「どうしよう…!!どうすれば…!!」
ーーだが、アリスにとって幸運ともいえるのが今回のイベントだ。バディイベント。つまりは共に戦うパートナーがいる。もちろん当たり外れはある。そんなアリスのパートナーはーー
「おい、ごちゃごちゃと独り言を言うなら他所でやれ。」
ーーアリスは高くそびえ立つ岩場の上から何者かの声がするのでそちらを向く。そこにいたのは、
「あ、あなたは…!?」
ーー片膝を立てて岩に座り自身を見下ろす男がいる。非常に冷たい目でアリスを見ているが、非常に整った端正な顔立ちをしている。アリスはその男を知っている。いや、殆どのプレイヤーがその男を知っている。俺'sヒストリー最強プレイヤーたちを指す”五帝”、”ヴェヒター”たちによる選別によって選ばれた”闘神”。それらのどちらにも名を連ね、名実ともに俺'sヒストリー最強の呼び声高いその男を。
「蘇我…夢幻…」
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