第423話 信頼と綻び
『会合を始めマショウカ。』
私たちはまた強制的に”闘神”の会合へ集められた。前もって情報を教えてもらえるのは有難いが、会合が行われるという事はイベントが開催されるという事になる。気分としては嬉しいとは言い難い。でも今回からの会合にはタロウさんがいる。それは大変嬉しい事だ。特に私の正面にいるので見放題なのが堪らない。私はとても幸運ですね。ふふふ。あぁ…幸せ…
『次のイベント開催が決定致しましたので御報告致しまス。次のイベントはバディイベントになりマス。』
「バディイベントか…それって俺ら”闘神”には厳しい条件付くヤツじゃなかったっけか?」
ーー”闘神”の1人である坂本海斗がツヴァイに尋ねる。他の誰もが情報を得ようとツヴァイに集中しているが牡丹はうっとりした表情で慎太郎だけを見ている。
『そうでスネ。バディイベントでは”闘神”の方々には自動的に同格級の相手とのマッチアップがなされまス。運の悪い方は自分より上の相手とマッチアップされるかもしれマセンネ。』
「面白い。血が滾るな。」
ーーツヴァイの言葉を聞き橘正宏が笑みを浮かべる。慎太郎を見ながら牡丹も笑みを浮かべる。2人のベクトルが違うねぇ。
「ま、俺らにゼーゲン支給されんだからしゃーないか。それぐらい我慢してやるよ。」
『今回はゼーゲンの配布は御座いませン。』
「はぁ?」
ーー坂本が激昂し声を荒げる。
「それじゃ何のメリットもねぇだろ!?何の為の”闘神”だよ!!」
『最近ゼーゲンの供給量が増えた為今回のイベントでは見送る事となりまシタ。御理解下さイ。』
「ふざけんなよ!?それで自分と同レベルの奴とマッチアップされちゃ堪んねぇだろ!!理解なんかできっか!!!」
ーー坂本が激昂しツヴァイに食ってかかる。その勢いのまま席から立ち上がりツヴァイへ向かって行く。
それを見たリリは間に割って入ろうとする。
リリが動くのを見た慎太郎も状況によっては坂本を取り押さえようと考える。
そんな状況でも牡丹は我関せずといった感じで慎太郎を凝視する。
四者四様である。
ーーだが坂本がツヴァイに近づく前に三間坂が口を開く。
「弱い犬ほどよく吠える。先人が言う言葉の通りですね。」
ーー三間坂が呟く言葉を聞き坂本が足を止める。同時にその言葉が自分へ向けられていると気づき怒りを露わにする。
「あ?お前喧嘩売ってんのか?」
「事実を言われたから頭にきてるんですか?嫌だなぁ、これだから単細胞は嫌だ。少し何かを言われたぐらいですぐに沸点に達する。もう少し余裕が持てないんですか?」
「面白れぇ。テメェとはこの前のケリつけなきゃって思ってたんだ。オラ来いよ。相手してやる。」
「臆病者の弱虫はそんなに強い言葉を使わない方がいいですよ。」
「あぁ!?誰に言ってんだ!?」
「あなたですよ。格下には強く出れるけど自分と同レベルの相手には震え上がってしまう弱虫君。イヒッ!!この程度の輩が”闘神”にいるとはね。」
「普通はそう思うだろが!!自分よか強えかもしれねぇ相手とマッチアップするかもしんねぇんだぞ!?ビビんだろ普通はよ!!!」
「ここにいる人は誰もビビってませんが?」
ーー三間坂の言葉に坂本は周りの”闘神”たちを見回す。三間坂の言う通り誰もが恐れている様子はない。それを見た坂本は唾を飲み込み自分だけが恐れをなしている事を惨めに感じた。
でも補足しておくね。慎太郎は表情が見えないだけだから恐れてないように見えるけど実際はめっちゃ嫌がってネガティヴモードに入っている。そして牡丹ちゃんは慎太郎を見てウットリしてるだけだから周りの話が耳に入ってないので聞いてもいない。
「わかりましたか?あなたは小者なんですよ。”闘神”には相応しくない。きっとバディイベントであなたは死ぬんじゃないですか?」
「…ナメんじゃねぇよ。俺が簡単に死ぬわけねぇ。」
「そうですか。次回会える事を楽しみにしておきます。」
ーー坂本は自席へと戻り静かに腰をかける。
『話を戻しマス。開催はこの後すぐになりマス。各自準備を始めて下さイ。以上になりまス。御機嫌ヨウ。』
有無も言わさずツヴァイが会合を切り上げる。これにより”闘神”たちの会合はいつも通り身勝手に終わらせられ俺の意識は遠のいていった。
ーー
ーー
ーー
『…はぁ。』
ーー仮面を取り、慎太郎が座っていた席に気だるそうにツヴァイが座り込む。
「ツヴァイちゃんまだ立ち直れない〜?」
ーーリリが隣の橘が座っていた席に座り、心配そうにツヴァイ見つめる。
『…うん。やっぱりタロウに冷たくされるのは堪えるなぁ。なんか悲しくなるもん。』
「よしよし。」
ーーリリがツヴァイを抱き寄せ頭を撫でる。
『なんか落ち着く。』
「ツヴァイちゃんよりお姉さんだからね〜。」
『最初からみんなには甘やかされてるなぁ。リリ、サーシャ、葵、みんな私に優しくしてくれた。子供の私を必死に守ってくれた。でも思うんだ…私がいなかったら誰も”死ぬ”事はなかったんじゃないかって。リリもサーシャも異常なぐらい強かったじゃん。”あの回”では間違いなくリリかサーシャのどっちかがズバ抜けて最強だったもん。その2人が組んで死ぬなんて有り得ない。葵は馬鹿だからきっと途中で死んじゃうだろうけど。…私が足を引っ張ったからみんな死んじゃった。』
ーーツヴァイが俯き泣きそうな顔を見せる。
「私は後悔なんてしてないよ。それはサーシャちゃんも葵ちゃんもきっと同じ。ツヴァイちゃんを守るって約束したんだから。それに”生き返らせてくれた”じゃん。」
『そのせいで今私たちは”こうなっている”んだよ?時の流れが違う世界で私たちは…』
「それでも私はみんなといられて幸せだよ。みんなの事大好きだから。ツヴァイちゃんの事が…○○ちゃんの事が大好きだから一緒にいられて幸せだよ。」
ーーリリが笑顔でツヴァイにそう告げる。その顔を見てツヴァイは目から涙が溢れる。
「も〜!泣いちゃダメだよ〜?」
『リリが泣かせたんじゃん。』
「リリちゃんが泣かせたの!?リリちゃんメッ!!」
『フフフ。でも…もうすぐだね…』
「そうだね。」
『”コレ”が成功すればやっと解放される。』
「うん。」
『そうしたらみんなと一緒に…』
「うん。」
ーーリリの胸中は複雑であった。
ツヴァイを裏切っている自分の感情が大きくなっているのを感じて嫌悪感を覚えているのと同時にその感情がとても心地良いものだとも感じていた。
『…さてと。バディイベントか。リリにタロウを任せるよ。』
「あいあいさ〜!!」
『このバディイベントが終わって、”あと3回”の通常イベントを終えれば”選別の刻”に移行する。そうしたらアインスを”ヴェヒター”から締め出すわ。その後に一気に”オルガニ”を制圧して”彼の方”を…』
「わかってる。それまでは田辺慎太郎たちを誰1人として欠かせたりしない。」
『サーシャも葵もわかってるよね?』
「当たり前よ。」
「モチのロン!」
ーー闇からサーシャと葵が姿を現わす。
「それまでに楓ちゃんを完全に”覚醒”させる事は最低条件だよね。私の責任重大だなぁ。」
「いえ、それじゃダメよ。」
「どして?」
「みんなに悪い知らせがあるわ。」
ーーサーシャが鋭い目で3人の顔を見る。それにより場になんとも云えぬ緊張感が漂い出す。
「完全なる”覚醒者”が現れたわ。」
『なっ…!?』
「そんな…!?」
「ツッーー!?」
ーーサーシャの言葉に3人が席を立ち上がる。
『一体誰よ!?蘇我!?天栄!?矢祭!?』
「その誰でもないわ。」
『は…?それじゃ一体誰よ!?まさか三國たち”三拳”の誰かって事!?』
「違うわ。水口杏奈という女よ。」
「……誰?」
「さあ…?リリちゃんちょっと知らないなぁ…」
『そんな女、リストに名前すら入ってないわよ!?何かの間違いじゃないの!?』
「残念だけど真実よ。この前のイベントでログが残ったから。水口杏奈はリントブルムを召喚したらしいわ。」
「うっそ…ガチのやつじゃん。この時点で”覚醒”に至るどころか最上級魔法使えるって…」
「幸いマヌスクリプトだけどグリモワールを手にしたら”今の”私とリリじゃ2人がかりでも勝てないわ。」
「少しマズいかもね。」
『…調べてみるわ。そんなポッと出の女が”五帝”をごぼう抜きにしてトップになるなんておかしい。何か裏があるはずよ。』
「更に悪い知らせを重ねると水口杏奈は矢祭凱亜と行動を共にしているわ。」
「マジでかー…それどうやって倒すの…?」
「今の所策は無しね。他に2人メンバーがいるみたいだけどどちらも”闘神”に勝るとも劣らない強さみたいよ。」
「でも魔法使いなら”覚醒”してても作戦でなんとか出来なくもないんじゃないかな?リントブルムだって永続的じゃないわけだし。」
「まあね。ドラゴン退治はリリだって”前の時”にやってるわけだし。”今回”は誰がそれをやれるのかって事よ。」
『蘇我か牡丹ちゃんしか出来ないでしょ。楓ちゃんは『グローリエ』の所持者になっちゃったし。『グローリエ』は対ドラゴンには不向きもいいとこよ。』
「蘇我は得体が知れないからね。もしかしたら”覚醒”に至っているかもしれないし。」
「やっぱり牡丹ちゃんの”覚醒”も考えないとダメじゃない?二段構えは必要だよ。」
「あの葵がこんな事を言うぐらいだから本当の危機よね。」
「そうだね。あの葵ちゃんがこんな事を言うぐらいだもんね。」
『そうだよね。あの葵がこんな事を言うぐらいだもん。』
「キミたちまだまだ余裕あるね!?葵ちゃん安心したよ!?」
『でも…牡丹ちゃんの”覚醒”は考えないとダメかもね…もうなりふり構ってられない…』
「ん〜、ドラゴン退治は田辺慎太郎でいいんじゃない?」
ーーリリがしれっと凄い事を言った為ツヴァイと葵が目を見開いて驚く。
『え…?』
「いや…リリちゃん…それはムリじゃない…?確かにこの前の入替戦で”覚醒”の兆しは見せたけどさ…」
「出来るよ。出来ないわけない。”初代剣聖”の主人なんだから。」
ーーリリが自信満々にそう述べるのでツヴァイと葵は納得し始める。
『ま…そうかも…』
「リリちゃんに言われると説得力あるからそう思えるかも…」
「……。」
ーーだがサーシャだけは鋭い目でリリを見る。
『ま、とりあえずは次のバディイベントに備えよう。リリはタロウ、葵はタロウじゃない方の組、サーシャはアインスの監視。いいね?』
「らじゃ〜!」
「はーい!」
「…わかったわ。」
「あ…でもさ、その水口杏奈ってのとマッチされたらどーすんの?リリちゃんなら”今の状態”でもスキルフル解放すれば勝てるだろうけど私だと相性悪いから”今の状態”じゃ勝てないよ?」
「その時は私を呼びなさい。1分で駆けつけるから。」
「その本気でヤバい時には優しい所ズルいよね。ホレそうなんだけど。」
「間違えたわ。1時間で駆けつけるから。」
「私死んじゃうよね!?労ろうね!?」
ーー皆が笑い合う楽しい時間。だがそんな4人の関係も綻びが出始まっている。それに気づいた時、どのような行動を取るのだろう。
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