第422話 疑念

「はぁー…ヤバかった…」



ツヴァイたちがいた空間から抜けて来た俺はこっちへ着くなりへたり込んでしまった。



「ちょっと態度悪すぎたよな…イキりすぎんのもよくない…身の程を弁えよう。」



今はどんなに助けたくても俺じゃリリを助けられない。強くならなきゃいけねぇな。誰よりも強く。俺がみんなを守れるようにならないと。



「…うし。それじゃ他の”闘神”連中が来る前にこのもらったローブ着ちまうか。」



畳んであったローブを広げてみると膝まで隠れるぐらいの大きさだ。色は漆黒。最高に中二臭いんだけど。こんなの着るの恥ずかしいんだけど。嫌だなぁ。



「でも女ってバレるとアレだっていうんなら仕方ないか…」



俺は着ているジャージの上から中二のローブを羽織る。フードまで被ると完全に中二病拗らせてるやばい奴だ。死ぬほど恥ずかしいんだけど。



「はぁ…席に座って待っとくか…って、席順ってどうなってんだろ?」



一応席はちゃんと7人分ある。でもプレートがあるわけでもなんでもない。適当に座っていいものかどうかもわからない。



「…別にいいか。席なんか空いてるトコに座ればいいんだよ。こんな事でいちいち神経使ってたらメンタル崩壊しちまうよ。」



ーーそうだね。お前はメンタル弱いんだからそんなどうでもいい事に力を使わない方がいいよ。


俺は円卓に座る。それと同時に他の6席に”闘神”たちが現れる。俺はちょっとビクっとしたが周りに何も気取られないように落ち着いた素振りを見せる。ん?正面にいるの牡丹じゃん。めっちゃこっち見てるんだけど。あー、元々牡丹はそうだったか。俺の事ガン見してるのが牡丹だもんな。今日も平常運転で何よりだ。


ーーま、ヤンデレモードにならなきゃ平和で良いんじゃない?


あ、楓さんもこっちに気づいた。ニヤニヤしてやがる。このローブ着てれば女なの気取られないんじゃなかったの?なんか楓さんの雰囲気変なんだよな。俺の事からかってんだかなんだかしんねーけどさぁ。


ーー百合百合しいだけだよ。



「やけに静かだと思ったら綿谷はいなくなっちまったんだったな。」



若い兄ちゃんが俺の方を見ながらそう呟く。この兄ちゃんどっかで見た事あるような気がすんな。


ーー前にイベントで対峙したでしょ。ホント記憶力悪いんだから。



「なあそっちの兄さん!もう綿谷とはヤッたのか?」



兄ちゃんがニヤニヤしながら隣のオッさん越しに話しかけてくる。こんな所で下ネタはやめろよ。牡丹と楓さんいんのに気まずいだろ。


ーー2人がいなければ構わないような言い方だな。



「おい、下世話な話はやめろ。」



オッさんが不愉快そうに兄ちゃんに言う。そらこんなトコで猥談なんかしてればそうだよな。てかこのオッさんもどっかで見た事あんな。



「いいじゃねぇか。あれだけイイ女を奴隷にしたんだから気になるだろ。なあ!教えてくれよ!」



ヤッてはいないけど結構マズい事は色々やってるわな。



「珍しくよく喋ると思ったら話題がそれか。」



離れた所に座る蘇我が腕を組み目を瞑ったまま口を開く。



「なんだよアンタだって実は気になんだろ?その辺にいるような女なら気にならねーけど綿谷クラスなら今どんな風にされてんのか興味湧くだろ普通。」


「フン、つまらない男だなお前。」


「あ?」



ケッ、スカした態度とりやがって。この中二野郎が。兄ちゃんがんばれ。俺はお前を応援してやるぞ。蘇我なんかやっちまえ。


ーーうわぁ、小さい男だなぁ。


兄ちゃんが蘇我に睨みをきかせていると俺の眼前に人の顔が現れる。えっ、なに、キモ。



「なんでそんな黒い装束を着ているんですか?自分で格好良いと思っているんですか?いや、無いですよ。ありえないですよ。あなた大人ですよね?そんな格好して恥ずかしくないんですか?そういう格好をして良いのはせめて十代までですよ?あなたみたいなのがいるからこの日本は駄目になるんですよ。わかりますか?」



キモい男がめっちゃ早口で俺に向かってしゃべってくる。あ、この前の奴か。三間坂だっけか?コイツなんかヤバい薬でもキメてんじゃね?



「僕の話を聞いているんですか?返事ぐらいしたらどうです?返事もできないのですか?馬鹿なんですか?頭が悪すぎて会話もできないんですか?」



言うねぇ。憎しみが凄い伝わってくるわ。みくを俺にとられて怒り心頭ってか。

おいクソガキ、良い事教えてやろう、

俺はみくと一緒に風呂入ったし、全裸で一緒に寝たりしたんだぞ。羨ましいか?ふふん。


ーーお前そんな馬鹿な事考えてる暇あるなら周り見た方が良いんじゃない?牡丹ちゃん三間坂の事凄い目で見てるよ?ハイライト無くなりそうなぐらいの勢いだよ?惨劇起きんじゃない?



「それとも僕を馬鹿にしてるんですか?お前如きが僕を馬鹿にしてるんですか?イヒヒヒヒヒヒヒ!!!!良い根性してやがりますネェ!!!もう死ねーー」


三間坂が俺にナニカをしようとした時だった。三間坂の喉元にリリが鋭い目でゼーゲンを突きつけている。



『何をしているのでスカ?』



ツヴァイが仮面越しでもわかるほどの驚異的なプレッシャーを三間坂にかけている。それにアテられた俺は対象が俺ではないのにも関わらず身震いがした。



「ジョークですよ。新たな”闘神”である田辺さんとの親睦を深めていただけです。」


『そうデスカ。ですが今後は控えられる事を御勧め致しマス。』


「肝に銘じておきます。」



三間坂が芝居掛かった口調でツヴァイとのやり取りを終わらす。てか前から思ってたけどなんでツヴァイは俺をちょくちょく助けてくれんだ?今のだってわざわざ止める事もないだろ。さっきあれだけ悪態ついた俺なんて死んじまえって思うのが普通だ。それなのになんでだ?わかんねぇ…



『では会合を始めマショウカ。』

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