第429話 雷の力

【 楓・牡丹 組 埠頭(夜) 】



楓さんと坂崎、ウコンバサラが睨み合っている。楓さんは随分と余裕があるようですが私はとても心配です。楓さんの力を信じていない訳ではありません。でも…あのウコンバサラというモノの力は強大。白河桃矢ほどの力では無いかもしれないが嫌な予感は拭えません。いざとなれば私はクラウソラスを呼び出して参戦する。それによって楓さんに叱れても構わない。楓さんに危機が及ぶ事に比べればなんでもない事だもの。



『生意気な雌だ。さっさとブルドガングを呼び出したらどうだ。』



ーーウコンバサラの言葉に牡丹と楓は怪訝な顔をする。何故ブルドガングを知っているのだろう、2人はそう思った。



「よく私がブルドガングの所持者だとわかったわね?ま、なんでもいいわ。言われるまでもなくブルドガングを呼ぶつもりだったもの。」



ーー楓はそう言うと、前方に魔法陣を展開し、ブルドガングを召喚する。

銀色の美しい髪、左右眼の色が違うオッドアイ、美しくもあるがどこか幼さも兼ね備えた整った顔。見慣れてはいても、決して飽きる事など無い絶世の美女が降臨する。



『なんかカエデとは会うの久しぶりなんだけど。』


「そうね。いつ以来かしら?ん?『楓とは』って何?他の人とは会ってるみたいな言い方じゃない。」


『だってシンタロウとはさっき会ったし。』


「どういう事よ?」


『あれ?聞いてない?ミニイベントでアタシとクラウソラスとノートゥングはシンタロウと一緒にいたんだよ。』



…そんな事聞いてませんね。タロウさんが呪いで女の子になった事しか聞いておりません。


ーーま、それは仕方ないんじゃない?慎太郎は女の子になっちゃったんだからミニイベの説明してる余裕なんてないでしょ。



「…ちょっと引っかかるけど今はその話は置いておきましょう。ねぇ、ブルドガングはあの青髪の奴と知り合いなの?」


『え?』



ーーそう言ってブルドガングは楓が指す方角を見てウコンバサラの顔を確認する。



『誰?知らないけど?』


「あっちは知ってる風だったわよ。」


『えぇ…それって『すとぉかぁ』ってヤツ…?』



ーーブルドガングがそう言いながら凄く嫌そうな顔をする。



『ブルドガング、貴様、記憶が無いのか?』



ーー楓とブルドガングのやり取りを割くようにウコンバサラが話に割って入る。それをブルドガングは嫌そうな顔をしながらも律儀に答える。



『無いものもある。』



ーーそれを聞いたウコンバサラは頷きながら独り言を言い始める。



『なるほどな。一部の英傑に対し、一部の記憶にフィルターをかけているのか。まあいい。すぐに理解させてやろう。』



ーー独り言を言っているウコンバサラを見ながらブルドガングは更に嫌そうな顔をする。



『なんかキモいんだけど…』


「ウフフ、モテモテじゃない。」


『ちょっと勘弁してよ…』



ーー楓とブルドガングが話をしていると、ウコンバサラがラウムを開き武器を取り出す。神聖さを纏った斧、聖斧を。

そして聖斧を手にしたと同時に力の解放を始める。”具現”に達した英傑たちは、その力の源ともいえる能力のエフェクトを身に纏う。ウコンバサラの身体に纏うエフェクトは……



『雷…?』



ーーウコンバサラの身体を電撃がバチバチと激しく音を立て駆け巡る。その神々しさ、神聖さはまるで雷神であるかのような風格を兼ね備えていた。



「…へぇ、これは本当にいい実験相手になるわね。」


『ん?なんか言った?』


「何も言ってないわよ。それより、アレ、あなたの親戚か何か?」


『そんなわけないでしょ。でもあの雷…完璧アタシのと同じよね…』



ーーブルドガングがウコンバサラの纏う雷を凝視する。どれだけ見ても同じ雷だ。自分と同格の雷の使い手。ブルドガングは非常に厄介な奴が現れたと思っていた。



『貴様と同じだと?フン、分際を弁えろ。俺の雷が貴様程度と同じな訳が無かろう。』



ーーウコンバサラは苛立った表情でブルドガングにそう述べる。だが当のブルドガングもその綺麗な顔を歪ませ、苛立った表情へ変わる。



『はぁ?何言っちゃってんのアンタ?アンタこそ分際弁えなさいよ。』


『フン、雌風情が。”神”に逆らうという事がどういう事なのか知らしめてやろう。』



ーーウコンバサラの身体から大気を揺るがす程のオーラが溢れ出る。また、派生した雷により暗黒に包まれている空が刺激され、雷鳴が轟く。戦闘開始の合図のようだ。



『あの青髪はアタシがやるわ。カエデはその筋肉ダルマをよろしく。』



ーー楓にそう告げると、ブルドガングはラウムから聖剣を取り出し、ウコンバサラ同様に雷のエフェクトを纏う。



「そのつもりよ。”実験”なんだから。」



ーーやたらと連呼する実験という言葉。ブルドガングはそれが気になりつつもウコンバサラがアテてくる闘気によりそれを聞く余裕は無い。ガッチリと聖剣を両手持ちで握り、地を蹴る。


ーー戦いの火蓋は切られた。



『一気にケリつけるわ。ーーアタシの前に平伏しなさい。ブリッツ・シュトゥルム!!』



ーー脇構えから聖剣を乱暴に上へと振り抜く。レーザーキャノンのような光の塊が前方に放たれる。その威力は今までの比ではない。技の圧、濃度、速度、どれをとっても今までのブリッツ・シュトゥルムを遥かに超えている。それは3段階までゼーゲンが解放された事による効果だろう。そんな強化された技がウコンバサラへと向かっていく途中、事件が起きる。



『ーー消え失せろ。ブリッツ・ゼレ・ゲヴィッター。』



ーーブルドガングよりも更に乱暴に聖斧を振り回し、レーザーキャノンのような光の塊が放たれる。すぐに両者の奥義がカチ合うが、その威力はブルドガングのブリッツ・シュトゥルムを遥かに凌駕している。あっという間に技は掻き消され、光の塊がブルドガングへと迫る。



『くっ…!?』



ーーブルドガングは聖剣を盾にするよう身を屈める。ブリッツ・シュトゥルムによってウコンバサラの技の威力が削られていた事により大きなダメージにはならなかった。だが精神的なダメージは大きい。坂崎よりも楓の方がゼーゲン一本分のアドバンテージがあるにも関わらず技では競り負けた。そんな状況にブルドガングは不安を抱えてしまうがウコンバサラは待ってくれない。ブルドガングは聖剣を強く握り、再度地を蹴った。




「なるほどね。私の予想通りブルドガングが劣勢。計画通りの実験を進めるわよ。」



ーーこの中で楓だけは軽く笑う。全てが自分のシナリオ通りだと言わんばかりに。

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