第420話 コーディネート対決
「コレなんかどうですかっ!?シンちゃんにピッタリだと思いますっ!!」
「ダメよ。美波ちゃんはわかってないわね。シンちゃんの良さを引き立てるのはこっちに決まってるわ。」
「楓チャンもわかってないで。そんな暑苦しそうなカッコやなくてこれぐらいのがええんやで。」
ーー美波、楓、みくの3人が慎太郎の服をコーディネートしている。それを慎太郎は死んだような目で見ていた。
……コイツらまさか俺にそんな服を着せるつもりじゃないだろうな。それぞれが俺に着せる服を選ぶって事でコーディネート対決みたいなのが開始したけどコイツらのは酷い。
まず美波。
フリフリのブリブリ系の服じゃん。色は基本的にピンク。スカートはフリフリ。上はぶりっ子みたいなやつ。オッさんにこんなの着ろってのか?もはや嫌がらせだろ。
次にダメープル。
何それ?スカートは美波と同じようなの選んでる所までは百歩譲って理解するよ?でもさ、上のノースリーブ、ハイネックセーターみたいなやつは何?このクソ暑いのにそんなの着せる気?完全に嫌がらせだろ。
ーー童貞を殺す服ってやつだね。
最後に赤点娘。
俺は痴女ですか?色々とポロリしちゃいそうなぐらい露出の高い上下じゃん。ギリ乳首が隠れるぐらいで肩は出てるし腹は出てるしの名前もわからない上着。陰毛が出ちゃうんじゃね?ってぐらい際どいラインまで見せつけているホットパンツ。こんなので歩いてたら捕まるだろ。俺をブタ箱に入れたいの?
ーー嫌がらせじゃなくてコイツらは個人的にお前に着せたい服を選んでるだけだよ。
「みんなそんな服じゃダメですよ。もっとシンちゃんに似合う服を選ばないと。」
ーーアホどもの前にアリスが現れる。
おぉ…!やはりアリスはわかってるな!そのダメダメ人間たちとはやはり格が違う。
「それじゃアリスちゃんの選んだ服を見せてもらおうかしら。」
「ふっふっふ、いいですよ。」
アリスがドヤりながらカゴに入れた服を広げて……え?なにそれ。
「シンちゃんにはこういうのが似合うんです!!」
「「「……」」」
ーーアリスの選んだ服を見て美波たちはドン引きしてるような顔をしている。
だっ、ダセェ……なにその服。なんだかわからん柄のTシャツにチェーンがいっぱい付いた横にポケットがたくさんあるズボン。痛い中学生が着てる服じゃん。いや、それより酷いぞコレ。こんなの着てる奴ってなかなかいない。中二病とはまた違うカテゴリーに入りそう。アリスってこんなにセンス悪かったのかよ。なんかショックなんだけど。
「ちょ、ちょっと個性的すぎるんじゃないかなっ…!?」
「そ、そうね…!!コレはシンちゃんにはちょっとアレなんじゃないかしら…!?」
「ウチもそう思うで…!!もう少し大人な感じにせんとな…!!」
「そ…そうですか…」
このダメダメ人間たちにも気を遣われてるぐらいヤバいじゃん。そらそーだろ。このアリスの美的センスは正直引くもん。アリスって実はこんなダセェ服を着たかったのか?絶対嫌なんだけど。可愛くない。どれだけ頼まれてもこんな服は買わない。小遣いで買って来たら隠しちゃおう。アリスは俺が選ぶ可愛い服かカッコいい服しか着させない。
てかコイツらが選んだ服しか俺って着る事が許されないのだろうか。一番マシなのが美波のブリブリコーデってのが終わってる。どれ着ても地獄なんだけど。
「みなさん少しおふざけが過ぎるのではないでしょうか?」
ーー慎太郎が絶望色濃い目でハイライトを消しているとカゴに服を入れて来た真打が現れる。
「あら?そういう牡丹ちゃんだって魂胆は同じでしょ?」
ーー百合の事だね。
「そうだよっ!!なるべく接触面積の多い服を選んで匂いがつくようにとか考えるの大変なんだからねっ!!」
ーーそれはお前しか考えていない。
「そうそう!!少しでも受け入れられるか想像しながら考えとるんは牡丹チャンも同じやろ!!」
ーーナニを受け入れるんですかねぇ。
「私は本気で考えたんだけどなぁ…」
ーーうん、アリスちゃんはファッション誌とか読もうか。
「あいにく私は己の欲の事は考えておりません。シンちゃんに似合う格好は当然ながらシンちゃんに気にいって頂ける格好を選んだつもりです。」
「ふーん。そこまで言うなら見せてもらおうかしら。」
「わかりました。私が選んだ服はこちらになります。」
ーー牡丹がカゴから服を取り出しプレゼンを始める。
「それは…」
「はい、見ての通り普通のシャツにジーンズです。」
ーーうん、薄い水色のシャツに黒系ジーンズだね。
「先ず上着ですが、前をボタンで留める定番のシャツです。長袖ではありますが冷感素材を使用している為暑さは感じにくくなっていますし、暑ければ袖を捲れば良いかと思います。」
ーー牡丹のプレゼンをとりあえず黙って聞く面々。
「次に下はジーンズにしました。夏にジーンズは暑いと思われますが、こちらも冷感素材を使用している為暑さは感じにくくなっておりす。青系のジーンズは近年女性からの評判が悪いので色は黒めにして問題点を解消しました。」
「えっ!?ジーパンってダメなの!?」
ーーここで慎太郎はジーンズの評判が悪い事を知りショックを受ける。慎太郎は基本的にジーンズ履いてればオッケーと思っているタイプなのだ。
「ふーん。でもそれっていつものタロウさんのカッコにしただけじゃない?それは牡丹ちゃんがいつものタロウさんのカッコにさせたいだけじゃないかしら?結局は欲に塗れた私たちと同じでしょ。」
ーー楓が論破して勝ち誇った顔をする。
だが牡丹は平静を保ちながらゆっくりと口を開く。
「ひょっとしたらそうなのかもしれません。私自身、無意識にそれを形成していたのかもしれない。それは否定しません。ですが私はこれがシンちゃんが今一番求めている服だと思います。元のお姿のタロウさんがいつも着ていらしたような服装、それが今のシンちゃんが一番自然体でいられる格好ではないでしょうか。」
ーー牡丹の言葉に楓たちはハッとする。
慎太郎は急に女にされ不安であったに違いない。そんな状況の慎太郎を第一に考えなければいけないのに自分たちの欲求を最優先に考えていた事を酷く恥じた。牡丹に気付かされたのだ。
「…そうよね。考えなければいけないのはタロウさん…ううん、シンちゃんのことよね。」
「…シンちゃんに少しでも居心地のいい環境にしてリラックスをしてもらう。そう考えないとダメだよねっ。」
「…そんなのにウチらは自分たちの事ばっかり考えてた。アホや。大アホや。」
「私はシンちゃんの事を考えて本気でコーディネートしたんですけど。」
ーー楓、美波、みくは己の愚行を恥じ、俯いて反省をしている。
「良いのです。人間ですから過ちは必ず犯します。肝心なのは反省をする事。これからやり直せば良いのです。」
「牡丹ちゃん…」
「いいの…?こんな私たちなのにっ…!?」
「牡丹チャン女神サマみたいや…!!」
「私は一体何を反省すればいいんだろう。」
ーー楓、美波、みくが牡丹をまるで神を見るような目で見る。
「はい、やり直しましょう。ここから。」
ーー楓、美波、みくの3人が牡丹へ抱きつく。とても感動的な場面だ。
だがその時だった。美波の目に牡丹が持ってきたカゴが映る。
「あれ…?牡丹ちゃんのカゴにまだ服が入ってるよ?これは…」
「はっ…!?み、美波さん!!それに触れてはいけません!!!」
「えっ?」
ーー牡丹が大声を出すが美波がソレを取り上げる。そして反射的に中腰から立ち上がった美波が、手にしていたソレの裾部分が手からすり抜けるとソレの全容が明らかとなる。ワンピースだ。青色のワンピースだ。清楚感溢れる素晴らしいワンピースだ。とてもオッさんが自然体でいられる格好ではない。
「……」
「……」
「……」
「……」
「…本能のままに生きるのも良いかと思います。」
「そうよね。」
「そうだねっ。」
「せやね。」
ーー4人は互いに手を取り合う。なんとも浅ましい欲に塗れた醜い場面だ。
ーーそんな中、本気でコーディネートをしていたアリスと慎太郎は自分のセンスに疑問を感じ始めていた。
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