第419話 きゃっしゅれすけっさい

「うわぁ…凄いお部屋やん…!!」


「す、凄いです…!!」


「和室もあるのですね。畳の良い香りがします。」


「わっ!ホントだっ!畳の匂いっていいよねっ!」



スッゲー部屋。ロイヤルスイートって言うだけの事はあるわ。床だって大理石だ。それもグレードの高い奴だろコレ。床だけで3000万ぐらいいってんじゃね?



「お荷物はこちらになっております。何か御座いましたらフロントへお申し付け下さいませ。」


「ありがとう。」



そう言いながら楓さんはベルガールに封筒を手渡す。



「ありがとうございます。ごゆっくりおくつろぎ下さいませ。」



チップか。旅館ならお心付けを渡すのはわかるけどホテルでも渡さなきゃいけないんだろうか。あんま外泊ってしたことないからわからん。



「楓さん。もうちび助出しても平気ですか?」


「大丈夫よ。」


「わかりました!ちび助、出て来ていいよ。」


「ぴっ!」



アリスに促されると、ちび助がアリスのキャミソールの中から出て来る。ちび助はそのまま広い部屋をスイスイ飛びまくっている。絶対バレちゃいけない光景だな。部屋から出る前にはちび助の羽や毛が落ちてないかちゃんと確認しとかんとな。



「さてと。それじゃ少しゆっくりしたら散策でもしてみる?」


「散策よりも先ずはシンちゃんの衣類を入手するのが先決かと思います。特に下着が無ければまた楓さんのを身につける事になってしまいます。」


「別にいいじゃない♪」



…牡丹が明らかにイラッとした顔をしておる。ヤンデレモードにこそなってはいないがなりかけとる。指輪の効力が薄れてきてんじゃね。


ーー違うね。私にはわかるよ。女のお前と日課のキスをしていいもんかどうか考えてイライラしてる所を楓ちゃんの百合百合しさによって余計イライラさせられてるからだよ。



「わかった!!買いに行こう!!すぐに買いに行こう!!うん!!」



こんなくだらない事で喧嘩なんかされちゃたまったもんじゃない。牡丹の機嫌を損ねないようにしなくては。



「ふふふ、私が見立てて差し上げますね。」


「うん!!ありがとうな牡丹!!」



ーー慎太郎は必死に牡丹の頭を撫でる。牡丹はいつものように幸せそうな顔で悦に浸る。安定の光景だ。でも慎太郎はなんだかグッタリしていた。





********************



「青森まで来てショッピングモールにいる俺たちってなんなんだろう。」



俺の服と下着を買いに俺たちはショッピングモールへとやって来た。地元で買い物に来た感じじゃん。そもそも牡丹かアリスだけ連れて来るつもりだったのに全員いるしさ。なんか疲れたなぁ。



「あれ!?ノートゥングどこ行った!?」



後ろを振り返った時に気づいた。ノートゥングの奴がいねぇ。どこ行きやがったんだあの野郎。あいつを1人にするとまたモメ事起こしかねん。場合によっちゃ本気で警察沙汰になりそうだ。さっさと見つけないと。



「さっきまでいたのにいなくなっちゃいましたねっ。」


「そのうち戻って来るんちゃう?」


「ほっといて大丈夫でしょ。」


「そうですね。」



いやいやいや。なんでアンタらそんなに冷静なの?ノートゥングだよ?暴力女王だよ?さっきだってヤクザもどきボコってたんだよ?捕まえなきゃダメでしょ。そもそも美波がノートゥングの主人でしょ?て事は美波の責任だよね?ちゃんと管理しなきゃダメじゃない?



「そうでしょうか?探さないと駄目なように私は感じます。」



おぉ…!!流石は牡丹!!お前はわかってるよ!!やっぱり牡丹は違うよな。ちょっとヤンデレ入ってるけど俺に尽くしてくれるし、しっかりしてるし、気がきくし、ほぼ完璧だよな。


ーーヤンデレはちょっとじゃないんじゃない?



「ノートゥングさんは少し暴力的な所があります。放っておいたら警察沙汰になる可能性は否定できないのではないでしょうか?」



完璧だ。完璧だよ牡丹。このクランにお前がいてくれて良かったよ。



「た、確かにっ…!!」


「ノーチャン結構激しいもんね…!!」


「寧ろ首輪をつけておかないとダメなキャラよね…!!」


「どうしてそんな甘い認識をしてたんだろ…」



アンタら危機感なさすぎじゃない?ノートゥングって女をわかってないよね?


ーーお前はわかってるみたいな言い方だな。


むしろさ、俺への暴行の数々を見てりゃわかるよね?ちゃんとアイツの行動を見張ろうねこれからは。特に美波。



「先ずはノートゥングさんの回収から始めましょう。何処にいるかはわかりませんのでみなさんで手分けをしてーー」

「ーーそれなら大丈夫だよ。」


「はい?」


「アイツがいる場所は予想出来る。ついておいで。」



ーー慎太郎がズンズン進む後を牡丹たちはついていく。するとフードコートのテーブルで幸せそうな顔をして3段重ねのアイスを食べているノートゥングがいた。



「おい、何やってんだよ。」


『むっ?なんだ貴様らか。見てわからんか?アイスを食べておるのだ。』


「そうじゃねぇよ!!勝手にいなくなるなって言ってんの!!そもそもそのアイスの金はどうしたんだよ?まさかまた恐喝みたいな事したんじゃねーだろうな。」


『相変わらず貴様は馬鹿だな。妾がこんな人の多い所でそのような愚行を犯すと思うか?』



…お前って短気なんだからイラっときたら多分やるんじゃねーの。



「だったら金はどーしたんだよ?」


『フッ、この世界では金など無くても物が買える仕組みがあるだろう。』


「は?」


『コイツだ。『きゃっしゅれすけっさい』だ。』



ーーノートゥングがポケットからスマホを取り出す。



「ああっ!?それ俺のスマホじゃねーか!?いつの間に盗ったんだお前!?」


『人聞きの悪い事を言うな。『さあびすえりあ』で貴様が寝くたばっていた時に妾が拾ってやったのだ。感謝こそされても文句を言われる筋合いなどない。』


「勝手に使ってんだから文句言うに決まってんだろ!!」


『むっ?貴様…また妾を『お前』と呼んだな。やはりキツイ仕置きが必要だな。』


「ひっ…!!」



ーー危険を察知した慎太郎は逃走する。だがいつもなら簡単に捕まり激しい暴行をうけるのだが今回は捕まらない。これはおかしいと思った慎太郎は後ろを振り返るがノートゥングは追って来ない。不思議に思った慎太郎はテーブルに戻りノートゥングに尋ねる。



「え?なんで追っかけて来ないの?」


『その姿ではやる気にならん。妾は女を殴る趣味は無い。』



そんじゃずっと女のままのがお得じゃん。元に戻らなくてもいいかな。なんか性欲もあんまないし。


ーーうん。お前みたいな性欲の塊はその方がいいかもね。



『元に戻ったら躾てやるから覚悟しておけ。ククク、精々束の間の安寧を楽しむ事だな。』


「暴力はやめない!?仲良くしようよ!?」


『服を買って来るのだろう?さっさと行って来い。妾は忙しいからここで待っている。』


「食ってるだけだよね!?俺の電子マネー使い切るつもりじゃないよね!?」



ーー慎太郎の心配をよそにノートゥングはチャージしてあった三万円分の電子マネーを使い切るのであった。

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