第418話 上流階級

ノートゥングから貸してもらったジャージのズボンを履いた俺は運転を再開した。アクシデントはあったが今はこの旅行を楽しもう。みんなを楽しませてあげられるようにしないとな。


運転をしている途中で俺はある事に気付く。免許証はどうなっているんだろう。元の俺のままなら何かがあって警察の検問なんてやっていた時には色々とマズイ事になる。確認しといた方がいいな。



「牡丹。」



俺は助手席に乗っている牡丹を呼ぶ。



「はい、あなたの牡丹です。どうされましたか?」


「俺の財布開けて免許証確認してもらっていい?写真が男のままだったら結構面倒な事になるからさ。場合によっちゃこっからは鉄道の旅に切り替えなきゃならんかもしれん。」


「わかりました。確認致しますね。」



牡丹がダッシュボードの上にある俺の財布を開けて免許証を確認する。なんかドキドキするな。合格発表の瞬間みたいな感じだ。吐きそう。



「写真と名前が変わっております。」


「んんっ?名前?名前も変わってんの?」


「はい。写真は今のお姿に変わっております。名前は『田辺シン』という名前に変わっております。シンはカタカナ表記ですね。」


「ホントなんでもありだなオレヒス。ま、この見た目なんだから名前も変わってくれてた方がありがたいけどさ。」


「それではそのお姿の時には『シンさん』とお呼びした方が宜しいでしょうか?外で『タロウさん』だと変な目で見られると思いますので。」


「なんか澤野の野郎に呼ばれてるみたいだから『さん』付けはやめて欲しい。」


「では『シンちゃん』とお呼び致しますね。」


「おう。」



なんか呼ばれなれてないから変な感じだな。本当に女になっちまったんだなぁ…って実感が湧いて来たよ。



「ウフフ、シンちゃんって良い名前ね♪」



…なんかこの人さっきから怖いんだけど。キャラ変わってね?酒飲んでんの?


ーー百合属性発動してるんだよ。



「ん?シンちゃん?タロチャンの名前そー呼ぶ事にしたん?」


「はい。このお姿でタロウさんとお呼びするのは不自然ですのでそうした方が良いかと。」


「確かにそうだねっ。じゃあしばらくはシンちゃんですねっ!」


「おう。よろしくな。アリスもそう呼んでな。『さん』付けは嫌だからさ。」


「わかりました!シンちゃんって呼びます!」


「ぴっ!」


「ちび助もよろしくな。そんじゃ青森までレッツラゴー!!」





********************




「ようやく着いたか。疲れたな。」


「ご苦労様です。夜にマッサージをして差し上げますね。」



…美波がエロいのはもはや常識だけど牡丹も大概だよね。そそる言い方なのがけしからんよね。それだけで俺の息子は怒り狂っ……わねぇじゃん!?息子ねぇじゃん!?え!?コレ本当に戻るんだよね!?まだ一回も使ってないのに去勢されちゃ泣くに泣けねぇんだけど!?戻らなきゃやっぱり牡丹か楓さんかみくとヤッときゃよかった。後悔先に立たずとはよく言ったもんだよな。はぁ…



「凄い立派なホテルですねっ…!!ここのロイヤルスイートに本当に泊まっていいんですかっ!?」


「ウフフ、いいわよ。みんなで楽しめるんなら旅行の代金ぐらい安いもんよ。」



そうなんだよね。このホテルのロイヤルスイートルームって一泊50万も取るんだよ。そこに四泊もするわけよ。朝と昼の食事は俺が出すけど夕食代もガソリン代も全部楓さんが出してくれんだよね。だから楓さんに頭が上がらないのは確かなんだよなぁ。


ーーならちょっとぐらいお触りされても我慢するしかないね。



「ウチまで連れて来てもらっちゃってホンマにありがとね。」


「私たちは親友なんだから当然よ。気にしなくていいからね。」


「ありがと楓チャン!!」



みくが楓さんに抱きついてスリスリしている。微笑ましいな。あれ?昔ならあーゆー光景見てムラっときてたけどムラムラしないな?


ーーそりゃアンタは今女の子なんだから当然でしょ。



「ありがとうございます、楓さん。」


「ありがとうございます!」


『すまんな、世話になるぞ。』


「いいのよ。ほら、行きましょう。」



ーー慎太郎一行はホテルのフロントへと向かう。明らかに高級ホテルのオーラを醸し出しているのでノートゥングを除く皆はあっけにとられていた。



「芹澤様。ようこそお越しくださいました。」



俺たちは並ぼうとした時にどこからともなく支配人らしきオッさんと他数名が現れる。



「お久しぶりですね、支配人。今日から5日間よろしくお願いします。」


「こちらこそ宜しくお願い致します。何か御座いましたら何なりとお申し付け下さい。」


「皆様、お荷物をお預かり致します。」



うーん、この上流階級の匂い。特別待遇さが半端ないな。そうだよな、なんだか恐ろしいぐらいデカい家が実家なんだもんなこの人。雛鳥学園の幼稚舎から通ってる本物のお嬢様なわけだろ。お父さん何やってる人なんだ?お母さんだってなんかの経営者やってるわけだろ?なんかヤバいよね。俺なんかとじゃ本来人生で接点なんか出来るわけないんだよなぁ。


ーー女体化してもメンタルは変わらないので相変わらずネガティヴモードに入る慎太郎であった。



********************



俺たちはベルガールに連れられて部屋へと移動をする。てか運転してる時から思ってたけど髪が邪魔だな。縛りたい。髪留めが欲しいな。



「美波、髪留める物って持ってるかな?」



俺らの中で髪を縛ったりするのは基本的に美波しかいない。他の子たちは持ってなくても美波なら持ってるだろう。



「ありますよっ。」



そう言う美波から俺は青色の可愛い感じのシュシュを手渡される。



「ありがとう。でも…コレってどうやって使うの?」



男の俺じゃシュシュの使い方なんてわからない。ゴム紐ならなんとか縛れるかもしれないけどシュシュって太いし、あんま伸びないしでどうやればいいんだかさっぱりわからん。



「髪、邪魔なんですか?」


「なんか慣れなくて。首や腕が痒くなってくる。」


「それじゃポニーテールにしちゃいましょうか。それなら髪が触れないと思いますからっ。」


「じゃ、部屋に行ったら頼むよ。」


「痒いんですよねっ?それなら今やっちゃいましょうっ!すぐできますからっ!ちょっとそこのイスに座ってもらえますかっ?」


「うい。」



俺は美波に促されるまま通路にあるイスに座る。みんなはベルガールの後をついて行ってるが牡丹だけは俺たちと一緒にこの場にとどまる。



「美波さん、ベルガールの方が運んでる荷物から櫛を取って来ましょうか?」



あ、そうか。櫛なきゃダメだもんな。牡丹は気がきくな。



「大丈夫だよっ。櫛は手提げカバンにいつも入れてあるのっ。」



ーーそう言いながら美波はカバンから櫛を取り出す。流石はぶりっ子。抜かりないねぇ。



「それじゃちゃっちゃとやっちゃいますねっ!」



美波が俺の髪を手慣れた手つきで梳かして縛っていく。ものの十数秒で完成だ。首にほとんど当たらないし腕にもかからないからバッチリ。



「おっ、良い感じ。どうかな?」


「うんっ!可愛いですっ!」


「ふふふ、どんなタロ…シンちゃんでも素敵です。」



鏡で見てみたいけど可愛いならまあいいか。


ーー可愛いならまあいいか。ふむ。女らしくなってきたね。



「おーい!何してるん?行くよー!」


「みんな待たせちゃってるな。急ごうか。」


「はいっ!」

「はい。」



ーーちょっとアクシデントはあったが慎太郎たちの楽しい旅行の始まり始まり。




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