第417話 悪は栄えぬ

「それじゃこれを着て下さい♪」



俺は楓さんから着替え一式を受け取る。なんでこんな事になっちまったんだかな。女の服、それも楓さんの服を着るとか抵抗あるよなぁ。何より下着が一番嫌だよな。新品ならまだしも楓さんの使用済みだよ?ガチの変態だろ。嫌だよなぁ。それでも仕方ないかぁ。はぁ…



「それじゃ着替えますね…」


「着方がわからないと思いますので手伝ってあげますね♪」


「…はい?」



ーー楓がなんか怖い目で慎太郎を見ている。



「いや…大丈夫です。」


「遠慮しないで下さい♪」


「…してないです。」


「ブラの着け方わからないですよね♪私が教えますから♪」


「アリス!!アリス手伝って!!」


「あ、はい!!」



俺は全力でアリスを呼び手伝ってくれるように頼み込む。なんか楓さんは嫌だ。なんか知らんが怖い。絶対に手伝って欲しくない。



「ノートゥング、着替えるからその寝床貸してもらえるかな?あと悪いけど覗かれないように外で見張ってて欲しいんだ。」


『わかった。妾が見ていてやろう。』


「ありがとな。あとでお礼するから。」


『そんな事気にするな。』



そう言ってノートゥングは車外へ出て行く。良い奴だな。あとでちゃんと礼はするからな。



「そんじゃアリス、トランク行こうか。牡丹。」


「はい、あなたの牡丹です。お任せ下さい。」


「え、何がですか?」



俺と牡丹のやり取りを見てアリスが困惑している。



「私の役目は覗きを働こうとする不埒な輩を制する事です。」


「それってノートゥングにお願いしたんじゃないですか?」


「ノートゥングさんの役目は外。私の役目は中です。先程から邪な気を放つ輩が約1名おります。私はその輩からタロウさんをお守りするのが使命なのです。」


「ちょっと。それって私の事じゃないわよね。」


「言わなくても全てを理解するとは流石は牡丹だな。」


「ふふふ、愛ゆえの事です。」



ーーうーん、この阿吽の呼吸。真の正妻は違うわー。



「待って下さい!!私が何をしたって言うんですか!?着替えだって貸してあげたのに酷いじゃないですか!!」


「だってなんか怖いんだもん。」


「ひ、酷い!!訴えます!!」



ーー美波とみくとアリスがどうしようもない人を見る目で楓を見る。



「腹も減ったし運転しなきゃいけないしだからさっさと着替えるか。牡丹頼むね。」


「お任せ下さい。」


「ちょっと!!話は終わってませんよ!!」




********************




……アリスに手伝ってもらって着替えたはいいが…ナニコレ?足出しすぎなんだけど。ホワイトデニムのホットパンツみたいななんだかセクシーなヤツに上は白のノースリーブ。この人こんなの着るつもりだったの?けしからんのだけど。


ーーお前が好きな服装じゃん。


てかこんなに足出したくねぇんだけど。なんか落ち着かないし。普通のジーパンで良いんだけど。


ーージーパンって。おっさんくさいなぁ。



「あの…着替えたんですけど…」



ーー慎太郎が呼びかけるので皆が振り向く。



「お!えーやん!可愛い!」


「うわっ!似合いますねっ!」


「どんなタロウさんも素敵です。」



ーー女子陣の評価は最高だがなんか恥ずかしい慎太郎はモジモジとしている。そんな慎太郎を見てダメープルは呼吸を荒くしていた。



「楓さん…他のないですか…?上は最悪我慢しますけど下は…足出すの嫌だし…パンツ見えそうでなんか…落ち着かない…」



ーー頬を染める慎太郎を見て楓は押し倒したい衝動を必死で抑えていた。

だが慎太郎のこの反応は楓の予想通り。楓は慎太郎がこの服を替えてくれと言ってくる確信があった。そしてもっとイジメようと計画していた。全ては楓のシナリオ通り。



「イヤです♪」


「えっ?今なんて言いました?」


「それしか貸してあげません♪」


「何でですか!?」


「しーらない♪」



ーードSで百合属性とか楓ちゃんにも困ったもんだわ。変なスイッチ入れると一番始末に悪いね。



「…なら別にいいですよ。牡丹、何か服貸してもらえるかな?」


「…タロウさん、駄目です。」


「えっ?なんで?」



ーーまさか牡丹に断られると思っていなかった慎太郎は物凄く驚く。

しかし当然ながら楓とは違って牡丹は慎太郎に意地悪をしているわけではない。理由があるのだ。



「私とタロウさんではウエストとヒップのサイズが随分違うと思います。それは美波さんもみくちゃんも同じ。緩くて落ちてしまいます。」



ーーみんな細いけど楓ちゃんとタロウは特別細いからね。



「そんなのベルトでも…はっ!!」


「ウフフ、気づいたようですね。」



しまった。みんなズボンなんて物はほとんど履いてない。牡丹とみくに至っては持ってない。ズボンは俺の好みじゃなかったから買ってないんだ。牡丹ならワンピースがあるけど胸のサイズが合ってないから結局ブカブカになってしまう。アリスならズボンはあるけど俺が履けるわけない。このダメープルめ…そこまで計算してやがったのか。



「趣味がアダになりましたね。」


「ぐぬぬぬぬ…」


「さ、どうします?私にお願いすれば貸してあげてもいいですよ?ウフフ♪」


「…貸して下さい。」


「そんなんじゃダメー♪」



…この野郎。



「…んじゃどうすりゃいいんですか?」


「『楓様。貸して下さい。お願いします。なんでもしますから貸して下さい。夜にご奉仕しますから貸して下さい。』って言えばいいですよ♪」


「何それ!?イヤですよ!?」



ーー美波とみくとアリスがどうしようもない人を見る目で楓を見ている。

牡丹はハイライトが薄くなりヤンデレモードになりそうで怖い。



「じゃあ貸してあげなーい♪」



なんなのこの人…なんでこんなガキみてーなことしてんの。


ーー百合スイッチ入っちゃったからね。


…でも貸してもらえないと詰むよな。店に行こうにもここはサービスエリア。買う場所はない。仮に高速降りて店に行き牡丹に買って来てもらうとしてもかなりの時間がかかる。それに途中で腹痛くなったりしたらこの格好で動かなきゃいけなくなる。俺はメンタル弱いからそう思うと腹が痛くなると予想できる。

この恥ずかしい格好でいるか、楓さんにお願いするかしかない。それならもう答えは1つしかない。楓さんの軍門に下ろう。


ーーそこまで予想していたのだろう。楓ちゃんがニマニマしながらタロウの降伏宣言を待っている。


ーータロウは楓ちゃんに向き直り、降伏の意を伝えようとする。



ーーガチャ



ーー楓ちゃんはミスをした。ううん、読みきれなかったんだね。1つ忘れている事があるよ。それはね、




「わぷっ…!?」


『さっさとそれに履き替えろ。それは紐で結ぶタイプのものだ。妾と腹回りや尻の大きさが違っても問題あるまい。』



俺は顔に飛んで来た物を確認する。ズボンだ。ジャージのズボンだ。おぉ!!女王様!!



「な、なんでそんなものを…!?」



ーー驚愕の事態に身体が震える楓ちゃん。



『妾は室内では『じゃあじ』や『すうぇっと』じゃないも嫌なのだ。クク、残念だったなカエデ。貴様の読みが足りんかったな。』


「くっ…!!!」



ーー楓ちゃんがガックリとうなだれる。なんだこの茶番。



「ありがとな、ノートゥング!!本当に助かったよ!!」



ーー美少女化してる慎太郎がめっちゃ可愛い顔でノートゥングに微笑む。



『べ、別に貴様に褒められたいからじゃないんだからなっ!!!』




ーー安定のツンデレっぷりであった。



「悪は栄えぬ。これこそが真理ですね。」




ーーこの茶番劇を牡丹は冷静に分析して呟くのであった。



ーーそして、ちび助は思った。



『早くトマトジュース飲みたい。』

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