第416話 おっさんが美少女になりました
「みんな遅いな…お腹空いたし…どうしたんだろう…?」
ーー慎太郎たちの戻りを待っているアリスはちび助にご飯を食べさせている。とてもほのぼのとした空気だ。
「ぴぴっ。」
「美味しい?トマトジュースもあるからね。」
「ぴっ!」
ーーガチャ
ーーガチャ
ーーピーピー
ーー慎太郎の車のドアがそれぞれ開く。みんなが戻って来たようだ。
「お帰りなさい!タロウさんとノートゥングは見つかったんですね!」
ーーアリスは先ず、後部座席から乗車して来る楓と美波、みくに声をかける。
それに対し、美波とみくがなんとも言えない顔でアリスの問いに答える。
「あー…うん…見つかったね…」
「そう…だねっ…」
ーーアリスは2人の顔と言葉を聞き首を傾げる。続いて楓の顔を見るが何かを考えているような顔をしているので聞くのをやめた。そしてトランクにノートゥングが乗り込むのを確認すると余計と意味がわからなくなる。ノートゥングの顔も困ったようなどうしたらいいのかわからないような顔をしていたからだ。
アリスは続いて助手席に乗り込む牡丹を確認するがさっきと何ら変わらず上機嫌そのものだ。この場で唯一何も変わらない牡丹を見てアリスはもっとわからなくなった。
もう慎太郎に聞くのが一番だと思ったアリスは死角になって姿を確認出来ない慎太郎に声をかけようと身体を傾けてみる。すると、
「えっ?どちら様ですか?」
ーー運転席に座っているのはシートにぐでーっと身体を預けている超絶美女。何で慎太郎じゃなく知らない人が運転席にいるんだろうとアリスはパニックだった。
「ぴっ!」
ーーそんなアリスをよそに、ちび助はすいーっと飛んで謎の美女の頭にとまる。それを見たアリスは焦ってちび助を呼び戻す。
「ち、ちび助!!ダメでしょ!!こっちに来なさい!!」
「ぴ?」
「ぴ?じゃないでしょ!!ごめんなさい!!すぐに離れるように言い聞かせますから!!」
ーー焦ったアリスはちび助を謎の美女の頭から取ろうとする。だが、
「アリスちゃん、ちび助はタロウさんの頭にいたいのだと思いますよ?そのままにしておいた方が宜しいかと思います。」
ーーアリスは牡丹の言葉の意味がわからなかった。タロウさんの頭にいたい…?いたいのなら知らない女性の頭から離してタロウさんの頭に乗せないといけないんじゃないだろうか。それなのに『そのままにしておいた方がいい』とはどういう事だろう…?わからない事だらけのアリスは牡丹に質問するしかない。
「すみません…牡丹さんの言っている意味がわからないです。知らない人の頭の上に乗っていては迷惑だと思いますし、この方が鳥嫌いなら困るんじゃないでしょうか…?」
「タロウさんがちび助の事を嫌うわけないじゃないですか。」
「はい…?すみません、今はこの女性の方の事を言っているのですが…」
「そうですよ。」
「んんっ?あれ?何か噛み合ってないですよね?」
「あ、そういう事ですか。アリスちゃんも勘違いされているのですね。この方はタロウさんですよ。少し見た目に変化がありましたが些細な事です。」
「なんだ、そうだったんですね!この綺麗なお姉さんはタロウさんだったんですね!私びっくりしちゃいましーーええっ!?」
ーーそら、びっくりするよね。
「ど、ど、ど、どーゆー事ですか!?え!?本当にタロウさんなんですか!?」
ーーアリスが慎太郎を覗き込むように見ながら尋ねる。それに対し慎太郎は死んだような目で答える。
「あはははは…そうだよ。このキレーな姉ちゃんは俺だよ。田辺慎太郎ですよ。これからはアリスの母親代わりだな。あはははは…」
ーーハイライトの無い目で慎太郎はアリスの問いに答える。
「一体何があったんですか!?」
ーーアリスは牡丹に尋ねる。
「実はーー」
********************
「ーーというわけのようです。」
ーー牡丹から経緯を聞きアリスは口を半開きで『そんなアホな…』みたいな顔をしている。美波もみくも頭を抱え、ノートゥングも片手で顔を抑え苛立っている雰囲気が出ている。
ーーそんなどんよりとした車内であるが息を吹き返した慎太郎が口を開く。
「…ま、しゃーないか。クラウソラスが言うには呪いが解けるまで待つしかないって事だし。裏を返せばそのうち呪いは解けるって事だ。気長に待とう。」
ーー田辺慎太郎は思った。
どうせ井戸子の呪いなら1週間で解けるに違いない。そんなら焦らないで気長に待とう。せっかくの旅行なのに俺のせいでみんなを暗い気持ちにさせちゃダメだ。
と、思っていた。
ーー相葉美波は思った。
そんな呑気な事でいいのかな。裏の裏を返せば10年だって20年だって呪いは解けないかもしれない。タロウさんの身体から発するあの芳ばしい独特の匂いを感じられないのは困るし、何よりタロウさんとお城に行ったらどうやってエッチすればいいのかしら。
と、エロい事しか考えていなかった。
ーー結城アリスは思った。
このまま私が大きくなるまでタロウさんが女だったら他のみんなに邪魔される事はない。むしろ最高なんじゃないかな。これはきっと神様がくれたチャンスに違いない。
と、打算的な事を思っていた。
ーー綿谷みくは思った。
ウチは女の子が好きな趣味はないからどないしよ。タロチャンとえっちするのにどうすればええんやろ?ちょっと色々勉強せなあかんな。
と、美波と同じようにエロい事しか考えていなかった。
ーー剣王ノートゥングは思った。
この阿保は何でいつもこうなのだ。…いや、妾が問答無用であの敵を殺してしまったのが悪かったのかもしれん。仕方がない、元に戻るまでは妾が世話をしてやろう。勘違いするでないぞ?これは…その…詫びとしてやってるだけなのだからな!!貴様に気に入られたいとかじゃないんだからなっ!?
と、ツンデレ全開な事を思っていた。
ーーちび助は思った。
いつになったらトマトジュースを飲ませてくれるんだろう。
と、可愛さ全開な事を思っていた。
ーーそんな彼女たちとは違い、牡丹と楓は別な事を思っていた。
「ふふふ、そうですよ。気長に待てば良いではありませんか。どのようなお姿でもタロウさんはタロウさんです。」
「牡丹…ありがとな。」
ーー島村牡丹は思った。
魂がタロウさんなら見た目がどうであっても関係ありません。子は宿せないかもしれませんが私はタロウさんと一緒にいられればそれだけで幸せです。
と、正妻力を撒き散らしていた。
「牡丹ちゃんの言う通りです。時間が解決してくれますよ。のんびり待ちましょう。」
「楓さん…ありがとうございます。」
ーー芹澤楓は思った。
…ふーん。女の子のタロウさんか。悪くないんじゃないかしら。ちょっと気の強そうな目つきがまたいいわよね。なんかイジメたくなっちゃうもの。ウフフ。
と、百合属性の力を撒き散らしていた。
ーーうん、ハッキリ言って牡丹ちゃん以外は欲に塗れてるよね。これは正妻だわ。
「タロウさん、とりあえず着替えとかをした方が良いと思いますよ。」
ーー楓がなんか怖い目で慎太郎にそう告げる。
「あー…服とか靴は元のままですもんね。ダブダブだから絶対おかしいし。」
「それもそうですけど一番は…透けてます。胸が。」
「え?」
ーー慎太郎の今日の服装は白のTシャツにジーンズというスタイルだ。服装そのままで女体化すれば当然胸が透ける。
慎太郎は透けている胸を両手で隠す。それを見る楓の目がもっと怖くなる。もちろん違う意味で。
「…めっちゃ恥ずかしいんだけど。どうしよう。下着…買うしかないよな…」
「私のを使って下さい♪背丈が同じぐらいなので完璧だと思います♪」
ーー楓の身長は165cm。今の慎太郎の身長も165cm。身体の細さもほぼ同じなので恐らくは着られるだろう。
「んー…それじゃ上下テキトーなの貸してもらえますか?」
「下着も貸しますね♪」
ーーうーん、楓ちゃんの目が怖い。
「いやいや…それはいいですよ…楓さんが着けてる下着なんか俺が着けたら完全に変態ですよ。」
「何を言ってるんですか?タロウさんは今は女の子なんですよ?それなのに下着をつけなかったら胸のラインやら突起やらが丸見えですよ?それを防ぐ為に私から下着を借りる。それのどこが変態なんですか?」
「それはそうですけど…」
「女の子がブラを着けるのは当たり前。今のタロウさんは女の子なんだから着けるのは当たり前。これで着けない方が変態じゃないですか?」
「確かに…」
ーー口で楓ちゃんに勝つのは無理だね。特に今は己の欲望がモチベーションになっているから尚更。
ーーでも正妻の牡丹ちゃんが楓ちゃんの企みを察知し、それを阻止しようとする。
「ふふふ、私がタロウさんにお貸ししますから大丈夫です。ですから楓さんは気になさらないで下さい。」
「いや、牡丹は無理でしょ。」
ーー思いもよらなかった慎太郎からの拒絶により牡丹は凄まじい程のショックを受ける。
「ど、どうしてですか!?楓さんの下着が宜しいんですか!?」
ーー牡丹は必死で慎太郎に抗議をする。だが慎太郎は冷めた目で普通に答える。
「良いとか悪いとかじゃなくてどう見たってサイズ違うじゃん。牡丹のブラつけたらガバガバになるでしょ。」
ーーそれに気づいた牡丹はガックリとうなだれる。そして最初からそこまで計算づくな楓は勝ち誇った顔をしてドヤっている。
慎太郎はちっぱい。楓もちっぱい。慎太郎は楓をBカップと予想していたが実際はAカップのちっぱいだ。童貞の目視なんて所詮はそんなもの。そして慎太郎もAカップだ。サイズはピッタリ。
因みに他の子に関しては全て慎太郎の予想通りである。
「それじゃ…貸してもらっていいですか…?」
「もちろんです♪私の好み…じゃなくてタロウさんに似合いそうなの見繕いますね♪」
ーー楓の計算通りに事が進むのでご機嫌で慎太郎のコーディネートを始める。
こうして慎太郎の女ライフはスタートしていくのであった。
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