第415話 井戸子の呪い
「三叉路以外での初めてのダンジョン変化だな。聞くまでもないけど開けてみる?」
『当然だ。』
『でも大丈夫かな?開けた瞬間トラップ発動!とかだったら危なくない?』
「それは想定してたけど開けないわけにもいかないしな。俺が開けてみるよ。みんなは周囲警戒よろしく。ノートゥングは扉からモンスター出て来た時に備えて。」
『タロウ、待って下さい。』
俺が扉を開けようとするとクラウソラスから待ったがかかる。
「どうした?」
『私が開けましょう。万が一その扉が罠だった場合貴方に何かしらの影響が出ます。貴方が死んでしまったら私たち全員が終わるのは勿論の事、ボタンたちも終わります。それは絶対避けなければなりません。』
「それはそうだけど男が女の子に毒味させるようなマネはさせられない。」
『仮にその扉が罠だとしても私は死にません。あのヌルという男がそう言っていたではありませんか。今回の探索には参加は出来なくなってしまいますが次回からは参加出来ます。この中で一番役に立たない私がやるべき事だと思います』
『タロウ、アタシもそう思うよ。タロウに何かあっちゃいけないんだからそこはクラウソラスの言う事聞くべきだよ。カエデたちにやらせるとかなら話は別だけどアタシたちはここでは死なない。それならその条件を駆使するべきじゃないかな?』
「…そうだな。スマン。考えが足りなかった。俺の自己満足で物事を判断しちゃいけないな。」
『いえ、貴方の優しさはわかっております。ありがとう、タロウ。』
ここが俺のダメな所だな。女の子にそんな酷い事はさせられないとか思ってやってても適切な状況判断が出来てなきゃただの自己満足だ。もっと考えた行動をしなきゃダメだ。
『では参りましょう。ノートゥング、頼みましたよ。』
『任せておけ。』
クラウソラスが鉄の扉を開ける。敵は出て来ない。特に何も変化はないように見える。
「クラウソラス、大丈夫?身体に何も変化ない?」
『何も変化はありませんね。扉の開閉には罠は無いと考えて良いかと思います。』
「ふぅ、良かった。」
ーー慎太郎がクラウソラスに対して微笑む。そしてクラウソラスも何かを理解したように微笑む。
『なるほど。貴方は面白い人間ですね。』
「えっ、何が?」
『気にしないで下さい。』
いや、気にするだろ。
『ねぇ、部屋に入らないでここから中を覗くだけってアリかな?』
ここでブルドガングが革新的な事を言う。
ゲームのRPGではドアを開けてちょっとだけ覗くなんてコマンドは無い。でも俺は常々思っていた。なんであの勇者たちは無警戒でバンバン扉を開け、中へ入って行くのかと。
俺はあの阿呆たちとは違う。RPGでの定番且つお約束事項など破らせてもらうぜ。
「アリだな。」
『だよねー。』
俺たちは扉を少しだけ開け中を覗く。だがその中は俺の想像を超えていた。何も無い。広さもコンビニ並みの面積しかないから探索もクソもない。物も何も置いてないからアイテムがあるってわけもない。
なんだこれ。何の為の部屋だよここ。
『…なんもないわね。』
「…だな。」
『…チッ、時間を無駄にした。』
めっちゃ白けたな。アホくさ。それでも一応中に入って調べてみっか。鍵でも落ちてるかもしれないし。
「とりあえず中に入ってみるか。土の上になにかあったりするかもしれないし。」
『そうね。』
俺たちは部屋の中へと入る。すると、
ーーバタン
ーーガチャリ
「えっ?おいおいおい、なんで鍵までかかんの!?」
『入ったら発動するタイプのトラップだったわけか。ククク、面白い。』
「面白くないよね!?」
ーー慎太郎が喚いていると室内に邪気が集まり出す。
「…いやーな予感すんだけど。」
『ウンゲテュームとやらが現れるのかもしれませんね。』
『間違いなくそうよね。』
ーー部屋の中央に黒い霧が集まり、ナニカが実体化されていく。それと同時に慎太郎たちの脳内にスマホの通知音が鳴り響く。慎太郎はすぐに頭の中で内容確認をすると音声が脳内で読み上げられる。
【 ウンゲテュームが現れました。情報についてはアプリにて確認して下さい。 】
「アプリってなんだ?さっきの親愛度確認したアプリの事か?」
『それしかないんじゃない?』
ーー慎太郎たちがしゃべっていると実体化したウンゲテュームが現れる。
真っ黒い長い髪が前に垂れ、顔が隠れているので表情はわからないが恐らく女であろう。ボロボロになった白いワンピースみたいな服を着て皮膚の色は青白く不気味。何より気味が悪いのはガックリとうなだれた様なその姿だ。
「え?あれがウンゲテュームなの?アレの人じゃん。呪いのビデオの製作者ですやん。井戸から這い上がって来る女ですやん。」
『なにそれ?』
『何を訳のわからん事をほざいておるのだ。』
「おいおい、本当に井戸子がモデルならマジ手強いぞ。心臓麻痺させる即死攻撃使ってくるぞ。」
『貴様は何をワクワクしておるのだ。』
『そもそも井戸子って誰よ。』
ーーそうやって慎太郎がふざけているとウンゲテュームが両手を前に出し、黒い霧を発生させる。そしてその霧が慎太郎の眼前にあらわれ、慎太郎の身体を包み込む。
「ぐっ…!?」
『タロウ!!』
『タロウ!?』
ーー慎太郎を包み込む黒い霧は直ぐに晴れ、何事もなかったかのように静寂が戻ってくる。
「あれ…?なんともないな…」
『タロウ、すぐにアプリとやらでウンゲテュームを確認して下さい。貴方の身体に何かをされたのは確かです。早く情報を得なければなりません。』
「あ、ああ!」
俺は急いでアプリを立ち上げウンゲテュームを撮ってみる。すると画面には井戸子の情報が出て来た。
・ 名前 フルーフ
・ レベル 6
・ 能力 呪い
「やっぱり呪いのビデオの製作者ですやん!?俺って呪いかけられたの!?1週間後に死ぬの!?てかレベルって何!?」
ーーうん、まだまだ余裕あるね。
『貴様…タロウに何をした?』
ーー怒り心頭のノートゥングがラウムから聖剣を出し刀身に紅い焔を纏わせる。そして自身の身体にも紅焔のエフェクトが現れ、奥義発動の態勢へと移行する。
『全ての剣の先に妾が在る。ーーグラナートロート・シュヴェーアト!!!』
ーー紅炎の衝撃波が周囲一帯の空間を引き裂き、フルーフへと向かっていく。
空間が捻じ曲がり、ブラックホールのように別の次元へと繋がっている為、この部屋自体には影響は無い。だが、螺旋状に形成された紅炎の衝撃波はフルーフの身体を引き裂き、五体をバラバラにされた後に焼き払われ、この世からその存在が完全にかき消された。
紅炎の衝撃波が消え去った後には何も残らない。フルーフのカケラも、紅炎の熱も、何もかもが。最初から何も起こっていなかったかのように静寂が室内に訪れていた。
「何その威力。ノートゥングの奥義初めて見たけど超絶スゲーんだけど。バルムンクの奥義に似てたけど火力がダンチだな。」
『おい、大丈夫か?』
ーーノートゥングがめっちゃ心配そうな顔で慎太郎の元にやってくる。うんうん、乙女だねぇ。
「大丈夫じゃないかな?特になんともないし。ノートゥングが倒してくれたから呪いも解けたのかもな。ありがとな。」
『…心配かけさせるな馬鹿タレ。』
ーーノートゥングが安堵したような顔を見せる。なんか胸がキュンキュンするわー。
『いえ、まだ解けておりません。』
「えっ?」
ーークラウソラスが慎太郎の身体に触れ何かを確認するかのように調べる。
『タロウの身体には何かの術式がかけられております。術者が死んでもそれは解けていない。かなり強力な呪いの一種です。』
「えっ!?やっぱ俺死ぬの!?1週間後に!?ダビングして誰かに見せないとダメなやつ!?」
ーーお前ホント余裕だね。
『命を奪う類の呪いではありません。あのモノではそこまでの呪いはかけられないでしょう。』
「そっか…。ま、それならとりあえず安心だな。」
ーー何ちょっとガッカリしてんのよ。
『そうも言ってはおられません。死には繋がりませんが弱体化させる類の呪いです。それもかなり期間の長いものかと。』
「マジか。ただでさえ弱いのに楓さんたちに迷惑かける事になるな。どうしよう。呪いって解けないの?」
『私の力が完全に解放されれば解呪は可能ですが今は難しいですね。自然に解けるのを待つしかないと思います。』
「そっか…困ったな…」
『気にするな。貴様の分は妾がやってやる。それに妾を使う事も貴様は出来るのだろう?ならば大した問題ではない。』
ーー慎太郎はノートゥングを見ながら『コイツのたまの優しさって過呼吸起こしそうなぐらい破壊力あんだけど。』と、呑気な事を考えていた。
ーー突然慎太郎たちの脳内にアナウンスが入る。
『フロアボスを倒しましたので地下2階へと進む権利とセーブして中断する権利を得ました。尚、扉の外へ出る事は不可能となります。』
「ゲッ…戻るの不可かよ。これからはボスの部屋には探索してからじゃないと来られないな。」
『そうね。そんじゃ今回はここまで?』
「だな。俺が弱体化してるってんなら呪いが解けるまではリーダーだけのイベントは延期だな。」
『それが宜しいと思います。』
「てかウンゲテュームってレベルあったよね?色々ツッコミたい事あんだけど。」
『今回は後にしておけ。先ずは撤収するぞ。』
「オーケー。そんでセーブは…」
俺がキョロキョロしてると突如地面に六芒星が浮かび上がり、聖なる光が溢れ出す。
「これかな…?」
『そうじゃない?そこに入って念じればセーブされそうだけど。』
「とりあえずやってみっか。」
俺はブルドガングの言う通りやってみる。そして念じると同時に俺の意識はそこで途絶えた。
********************
『おい!!タロウ!!起きろ!!』
俺は起こされるので仕方なく目を開ける。いつもよりさらにボーッとしてるぞ。雑音が聞こえなかったから熟睡しちまったのか。ん?何でノートゥングは困惑したような顔してんだ?
「おはよ。てかリザルト無しでこっちに戻って来ちまうんだな。なんか変な感じ。んんっ?なんか声が変だな。」
なんだろう。俺の声じゃないみたいだ。風邪か?いくら夏でも外で寝たら風邪引いちまうのかもしんねーな。
『…確認するが…貴様、タロウだな…?』
「は?何言ってんの?そらそーだろ。」
何を言ってんだノートゥングは。
「タロウさん!!」
声のする方へ振り向くと同時に目の前に牡丹がいる。安定の牡丹だ。座っている俺の目線に合わせてちゃんとしゃがみこんでいる。
「おう。心配して探しに来た感じかな?ごめんね、待たせちゃったな。」
「いえ、大丈夫です。」
『おい、ボタン。貴様はそれがタロウだとわかるのか…?』
ホントに何を言ってんだノートゥングは。言葉の意味がわからん。
「はい。中身がタロウさんですので。」
どーゆう意味だ?ノートゥングと牡丹の会話っておかしくね?なんか普通の会話じゃなくね?
「あのさ、さっきからーー」
「あ、いたいたっ!!」
俺が2人に尋ねようとすると美波たちが小走りで俺たちの所にやって来る。
「ここにいたんだねっ。あれ?どちら様?牡丹ちゃんの知り合いの方?すっごい美人ですねっ!!」
誰かいるのかと思って俺は後ろを振り向く。別に誰もいない。サービスエリアの客は行き交ってるが俺たちの所にとどまっている人はいないし、何より美人なんて牡丹とノートゥングしかいない。
「ほんまや!!牡丹ちゃんとノーちゃんと一緒に並んでると眩しすぎるぐらいの光が見える美人さんや!!」
俺はもう一度振り返るがやはり誰もいない。美波とみくは何を言ってんだ。霊感にでも目覚めたのか?
「それよりタロウさんはどうしたの?入れ違いかしら?車にアリスちゃんとちび助がいるから入れ違いになっても平気だけど。」
「え、楓さん冗談はやめて下さいよ。こんな所でイジメるのは酷いですよ。」
「え?何で私の名前を?」
何を言ってんのこのダメープルは。さてはビール買って飲んだな。
「美波とみくもだよ。牡丹とノートゥング以外誰もいないのに何を言ってんの?霊感にでも目覚めた?」
「えっ?なんで私たちの名前を?」
「えっ?なんでウチらの名前を?」
なんだまだ続けるのか。ははーん。さては3人で俺をからかってんだな。俺が心霊現象好きだからってそんな猿芝居じゃワクワクなんてしねぇぜ。
俺は起き上がり3人にダメ出しをしようとーーって、あれ?なんか着てる服がデカくね?靴もガバガバなんだけど。それに身体のかってが違うっていうかいつもの感じじゃない。ヤベーな、マジで風邪か。
「なんか変だな。風邪引いたのかも。声もおかしいし、身体の動きも違うし。参ったな。」
『…おい、タロウ。』
「「「えっ!?」」」
ノートゥングが俺を呼ぶ声に美波たち3人は大きく驚く。
「ど、どういう事…!?」
「ノーチャン、このお姉さんに何てゆーた!?」
「そ、そんなわけないよねっ…!?」
「いや、マジで何を言ってんのキミら。酔ってる?みんなで酒飲んだ?」
『…タロウ、それで自分を見てみろ。』
ノートゥングが手鏡を俺に渡して来る。
「一体なんなの?マトモなの牡丹だけじゃん。牡丹いなかったら泣いてるよ?」
「ふふふ、大丈夫ですよ。私はちゃんとわかっておりますので。」
「えっ!?牡丹ちゃんはわかってるの!?」
「なんでっ!?」
「おかしいやん!?」
もうやだコイツら。牡丹とアリスとちび助連れて独立しよう。そう思っていると俺はたまたま手鏡に目がいく。凄まじい美人が牡丹と一緒に写っている。黒髪ロングのちょっと気の強そうな目をした20歳くらいの超絶美女だ。牡丹と同レベルの美女だぞ。何この美人。どっから現れたの。
ーーここで慎太郎は気づく。牡丹と一緒に写っている女の構図に。
「えっ…まさかさ…この女ってさ…」
まさかとは思うけどさ…みんなの言動と、俺の体調変化と服と靴の違和感から察するに…
ーー慎太郎は恐る恐るノートゥングに尋ねる。
『…貴様だ。貴様は女になっている。』
ーー慎太郎は膝から崩れ落ちた。
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