第407話 それぞれのトート・シュトライテン 1

ーー砦に『王』が攻め込む。

短剣型のゼーゲンを右手に持ち、左手はポケットに手を入れながら悠然と闊歩する。

線の細い優男はそれ以外に何かを発動させているわけではない。


ーーゼーゲンのみ。

それだけでこの男は傍にいる女だけを連れて単身敵の砦へと乗り込んで来たのだ。


ーー砦にいるプレイヤーたちは驚愕する。

イベント開始初日に砦へ乗り込まれた事にも驚き慄いているが何より優男の顔を見て驚愕している。



「て、天栄王武だ…」


「”五帝”の天栄王武じゃねぇか…!?」



ーー俺'sヒストリー最強の位置付けと言われる”五帝”。その座に君臨する天栄王武の登場により敵軍は混乱する。

だが敵軍も弱者ばかりではない。それなりに名を馳せたプレイヤーたちも当然マッチングされているのだ。



「ビビッてんじゃねぇよ。」



ーー砦の奥からそれなりに雰囲気のある男たちが姿を見せる。



「梶山さん!!」


「菊池さんもいるぞ!!」


「それだけじゃねぇ!!四国の大型クラン『玄神異』の秀吉までいる!!」



ーーそう呼ばれる男たち3人は体術型のゼーゲンを手足に身につけている。その神聖さから察するに解放度は2段階であろう。

男たちがニヤケながら天栄王武に話しかける。



「オイ、天栄。イイ度胸してんなテメェ。たった2人で俺らン砦堕とそうってか?あ?」


「ナメてんじゃねぇぞ。」


「つーかマブイ女連れてんじゃねぇか。コイツは上玉だぜ。」


「おーおー、レベル高ぇじゃん。コイツ殺したら俺らン奴隷にしてやっか。」



ーー男たちが威嚇するような態度で天栄王武に接するが当の本人は特に気にする様子もない。涼しい顔で男たちを見ている。



「何か勘違いしてるようだけど君たちの相手は僕が1人でするよ。」



ーー天栄王武の口の利き方が癪に障ったのだろう。男たちがドスを利かせた声で天栄王武を脅す。



「調子こいてんじゃねぇぞオラァ!!」


「女の前だからってスカした態度とってんじゃねぇぞアァ!?」


「なんとか言えやゴルァ!!!ビビッってんのか!?アァ!?」



ーー天栄王武の表情に変化はない。だが連れの女は怒りを露わにする。



「ハァ?何で王武くんがお前ら如きにビビんなきゃいけないわけ?」



ーー女が可愛い顔を歪ませて男たちに凄む。そんな態度に男たちの怒りのボルテージは更に上がる。



「このクソアマが…」


「ツラが良いからって人生ナメてんだろ。」


「ここにいる全員相手にさせて男の怖さ教えてやるよ。ケツも使ってやっからな。覚悟しとけや。」



ーーその言葉を聞き女は更に怒りの形相を見せる。だがそんな女を天栄王武が宥める。



「結華、落ち着いて。僕はそんな顔をしている結華は見たくないな。僕はいつもの笑った結華が好きだよ。」



ーー三船結華は天栄王武の言葉を聞き怒りに染まった顔を鎮め、女の顔になる。



「うん、わかった。結華怒らない。」


「フフ、結華は良い子だね。」



ーー天栄王武はそう言いながら三船結華の頭を撫でる。王武に頭を撫でられる事で結華は頬を染めながら悦に浸る。やっぱりどこかで見たような光景だ。

だがこんな敵の本拠地ど真ん中でそんなイチャイチャを見せられたらどうなるかお察しだろう。敵軍の男たちは血管を浮き上がらせ怒り心頭になる。



「どこまでナメ腐れば気が済むんだ?アァ!?」


「テメェら2人で何が出来んのか見せてみろや!!」



ーー憤る男たちだが天栄王武は変わらず冷めた目で男たちを見る。



「僕が1人で相手をすると言ったはずだけど?いや、もういいか。わざわざあなたたちと会話を交わす事もない。どうぞ。かかって来て下さい。」


「ナメてんなって言ってんだろこのクソガキヤァァァァ!!!」



ーー男たちが一斉に天栄王武へと襲い掛かる。相手は2段階解放ゼーゲン持ちの3人。パッと見は天栄王武に相当不利である。当たり前だが男たちの身体能力は”憑依”と同等にまで昇華されているのだから当然だ。




ーーだが男たちは天栄王武に驚愕させられる事になる。




ーー3人がかりでのラッシュが王武に一撃も当てられない。それどころか王武に防御すらさせられない。

男たちは決して王武を侮ってはいない。むしろ怒りにより100パーセントの本気で向かって行っている。それなのにも関わらず王武に触れる事すら出来ない。



「ばっ、馬鹿な…!?3人がかりで天栄に触れる事すら出来ねぇ…!?」


「コイツ…もしかして3段階解放ゼーゲンなんじゃねぇか…!?」



ーー男たちは焦る。焦るがその手を止める事はしない。必死で拳を繰り出している。

そんな男たちに王武は変わらぬ表情で口を開く。



「僕のゼーゲンは2段階解放だよ。」


「な、何ッ!?」


「そんなわけねぇだろ!!」


「同じ解放度でそれも3人相手の攻撃をここまで躱せるかよ!!」



ーー男たちの言葉に王武は少し失望したような表情を見せる。



「あなたたちは何も知らないんだね。ゼーゲンにはその型により特性があるんだよ。剣型はバランス、槍型や斧型はアタック、丈型や体術型はディフェンス。そのようになっている。そしてゼーゲンが与えてくれる祝福による身体能力上昇値が異なる。あなたたちのゼーゲンはディフェンス特化。僕にスピードで勝れるわけがない。」


「何言ってやがんだ!!その話の通りならテメェは剣型だろ!!バランスってんならそこまで俺らとスピードが変わるわけがねぇ!!そもそもこっちは3人なんだ、ここまで差があるわけねぇ!!」


「知性が低いだけでなく目も悪いんだね。僕のゼーゲンは剣じゃない。短剣だ。短剣型はスピード特化。あなたたち程度じゃ僕に触れられないよ。」



ーーそう言うと王武の速度が更に上がる。一瞬のうちに男たちの背後へと回り心臓を刺す。



「がァァァ!?」


「な、なんだその速さは…」


「俺たちはディフェンスなのに一撃とか…ありえ…ねぇ…」



ーー男たちが床へ崩れ落ち、勝負は一気に決した。王武が少し本気になっただけでたちどころに2段階解放持ち3人が屈してしまう。これが”五帝”天栄王武の実力なのだ。



「それとゼーゲンは所持者によって能力が異なる。各種特化型だとしても人によってはアタック特化並みのスピード特化型だって形成する。それを人は格と評する。四流のあなたたちが僕に勝てるはずがない。」




ーー王武が『王』を倒した事により周囲が暗くなっていく。リザルトへ向かうのだろう。



「王武くん流石!楽勝だったねー!」



ーー戦いを終えた王武に結華が抱きつく。



「結華、怪我はない?」


「大丈夫だよ!心配してくれてありがと!」


「良かった。」



ーー王武が結華の頭を撫でる。結華は王武に頭を撫でられ幸せそうな顔をする。ホントどっかでよく見る光景だ。



「留美大丈夫かな?」


「この程度の連中がいるクランに留美さんが負けるはずないよ。」


「結華だって1人でも負けないよ?」


「わかってるよ。結華も強いからね。さて、そろそろリザルトが始まるな。留美さんに会いに行こうか。」




ーーこれは天栄王武側の一幕である。

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