第403話 卑怯なのは嫌いや

【 楓・アリス・みく 組 4日目 AM 1:32 自軍砦内東棟 】



ウチたちは夏目のいる東棟へと急ぐ。途中にプレイヤーたちがいるが楓チャンが容赦無く斬りまくる。敵も味方も関係なく斬りまくる。楓チャンが味方やなかったらと思うとゾッとするで。



『キャアアアッ!!』



東棟3階の階段を昇っていると女の人の悲鳴が聞こえて来た。



「女の悲鳴って事は夏目かもしれないわね。」


「せやね。」


「死角から中の様子を探りましょう。女性がピンチなら助けるかもだけど。」



ウチは楓チャンのその言葉がちょっと意外だった。女の人なら助けるってコトかな?確かにまだ女の人と相対してないけど楓チャンは女の人には優しいんかな?


ーー百合属性持ちだからそうなんじゃない?


そんな事を考えながら階段を駆け上がっているとあっという間に3階に着く。激しい戦闘音だ。ウチたちは互いに無言で合図を送る。

大広間の中の様子を伺ってみると30人ぐらいの男たちを相手に大男が長槍を持って戦っている。その後ろには女の人たち10人ぐらいが身を寄せ合って震えがながら顛末を見届けている。夏目の周囲には死体がゴロゴロと転がってる。10人ぐらいやろか。この図式を見る限りだと夏目が女の人を守りながら戦っとるよーに見えるけど実際どうなんやろ?みんなに聞いてみよかな。



「…アレって夏目が女の人守っとるんかな?」


「…どうでしょう?この状況だけみるとそう見えますがなんとも言えませんよね。」


ウチが2人に聞いてみるとアリスチャンはウチが思ったのと同じような答えが返って来る。やっぱり判断つかんよね。



「…女を自分の所有物だと思って守ってるだけじゃないの。自分の財産奪われそうになったら守るでしょ?それと同じよ。」



楓チャンはなんだか不愉快そうな顔でウチの質問に答える。楓チャンは男嫌いなんかな?それなら行動にも納得いく。あー、楓チャンは女の子が好きなんかな?だから女の子に優しいんか。でもタロチャンの事は好きなんだよね?うーん、わからん。


ウチが割とどうでもいい事を考えていると夏目たちが会話を始め出す。



「流石は『大蛇』の夏目竜也だな。精鋭相手にこの立ち回り、それも女を守りながらってトコが見事としか言いようがねぇ。」



敵側のリーダーっポイ男が上から目線で夏目を讃えている。てかコイツら卑怯だよね。多勢に無勢すぎやん。



「テメェら程度が俺様とケンカすんならこれぐらいのハンデがなきゃ勝負になんねぇだろ。」


「だがチィと調子に乗りすぎだな。俺たちは10人がゼーゲンを持ってる。その内解放済みのゼーゲンは5人。2段階解放は3人もいんだぜ?テメェ1人でどうにかなるようなレベルじゃねぇだろ。」


「ククク、なんか知らねえがツイてねぇなぁ夏目。こんな振り分けもあるんだなぁ。お前以外にゼーゲン持ちがいねぇなんてよ。」



敵側の男たちが夏目を嘲笑っている。

…なんかムカつくなぁ。別に夏目なんて助ける義理はないけどウチは大人数で一人を囲むっていうのが大嫌いや。そんなんフェアやない。正々堂々勝負しろって話や。



「それがどうした?俺様のゼーゲンだって2段階解放だぜ?この長槍でテメェらみんな貫いてやるよ。」


「その強がりがどこまで続くか見せてもらうぜ。オイ、やっちまえや。」



リーダー格の男の一声で7人のゼーゲン持ちが夏目に襲いかかる。解放済み5人と未解放2人の7人だ。実力的には圧倒的に優っているが連携の取れた攻撃に加えて1対7という数の差、それに後ろの女の子を守りながらの戦いにより夏目の劣勢は明白だ。加えて2段階解放済みの3人が加われば夏目の負けは確定的なものになる。せめて女の子を見捨てれば戦況は変わるだろう。なんでこの男は見捨てへんのやろ。今まで見た来たクズ男とは少し違うんやろか。いや、楓チャンの言う通りに自分の所有物だと思っとるだけかもしれん。タロチャンみたいな考えなわけがない。でも…多対一ってのは嫌いや。



「…楓チャン、ごめん。ウチ行ってくるわ。」


「…夏目に加勢するって事?別にあんな男に情けをかける事なんてないんじゃない?それに夏目が背後から襲ってこないとも言い切れないわよ。」


「…それはわかっとる。でも大勢で一人をやるってのが気に入らんねん。」



ウチの言葉に対して楓チャンは目を合わせてくれない。ウチが自分勝手な事を言ってるのはわかってる。最終的に1つのクランしか残らないのに他の連中に情けをかけたってしゃーない。それにここで敵軍の連中が夏目を倒してくれるならウチらにとってはノーリスク。どう見たってウチのただのワガママや。サブリーダーの楓チャンの方針に逆らっとるだけや。奴隷のウチがそんな事を言う立場やない。ううん、そんな事を言っていいわけがない。クランを追放されたっておかしくないぐらいの事をしようとしとる。でも…そんな卑怯なのは許せんのや。



「…楓さん、私もあの光景は好きじゃありません。あれはただのイジメです。前回のイベントの時に白河って人を4人で囲んで戦った私たちが言えた義理ではないかもしれませんけど…」



アリスチャンがウチを擁護してくれる。



「…まあ…胸くそ悪いのは確かだけどね。はあ…仕方ないわね。みくちゃん、行くわよ。アリスちゃんはここで隠れてて。周囲は警戒してないとダメよ?」


「…ええの?」


「…ここで見捨てたらみくちゃんの中で後を引きずる事になるでしょ。私は夏目を助けるんじゃなくてみくちゃんを助けるの。それにあそこの女の子たちも助けてあげなくちゃいけないし。」


「…楓チャン、ありがと。」


「…じゃ、行くわよ。さっさとケリつけて旅行に行かなくちゃ。」


「うんっ!」



ーーみくと楓がゼーゲンを装備し夏目の援護へと向かう。


ーーみくたち側のイベントは佳境を迎える。

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