第399話 カルディナの茶会2
【 楓・アリス・みく 組 4日目 AM 0:35 】
それは衝撃的な展開だった。オレヒスにゲームクリアがあるのは知っている。過去に幾度かオレヒスが開催されていた事もタロチャンたちに聞いたから知っている。だけど当たり前だがクリアをしたって人を見た事はなかった。でもそれをやってのけたって人が今目の前に急に現れた。
「…なるほど。俺'sヒストリーをクリアした者にはどんな願いも叶えてもらえる。あなたは永遠にその姿でいたかった。それがあなたの願いって事かしら?」
「フフフ、そんな事を願ったりしないわ。それに女性が一番魅力的に映るのは27歳ぐらいなのよ?この姿では幼すぎるわ。」
「じゃあ何であなたはそんな見た目なの?まさかオレヒスに関わると老いないのかしら?ウフフ、それなら嬉しい事この上ないのだけれど。」
うーん、ウチはこの見た目でストップしたらどないしよ。タロチャンの好みによるなぁ。女子高生より大学生。大学生より社会人の年代が好みならこのままストップされたら困るで。
「さっきあなたは私が死んだって言ったわよね?アレ、当たってるわ。私は1度死んだの。」
「…は?どういう事…?」
久我サンの言葉に楓チャンは怪訝な顔を見せる。それだけやない。ウチだってアリスチャンかて同じや。やっぱり幽霊ってオチは勘弁して欲しいで。
「俺'sヒストリーを勝ち抜くのは過酷なのよ。莫大な参加者の中から最終的に生き残れるのは1つのクランだけ。たったそれだけなの。」
「え!?1つのクランだけなんですか!?」
アリスチャンが凄く驚いた声をあげる。
「そうよ。」
…なんやそれ。相当過酷やん。て事は”五帝”やら”闘神”やら”三拳”やらを全員倒さないとあかんゆーことやん。あの蘇我クンとだっていずれは必ず戦わなあかんゆーことやん。
「その長く険しい道の中で私は命を落とした。でも今ここにいる私は幽霊ではないわ。本当に本物であり生きている。その理由は簡単。ジェラルド…フィーアが私を生き返らせてくれたから。私たちのクランは4人だった。リーダーであるフィーア以外の全員がクリアまでに死亡したわ。でも彼が私たちを生き返らせてくれた。」
死んだ人間を生き返らせる事も出来るって事なんや。本当にどんな願いでも叶う。それなら過去の出来事を変える事もほんまに出来るかもしれん。
「…質問していいかしら?」
楓チャンが鋭い目つきで久我サンに問う。
「どうぞ。」
「あなたの言葉で私の中にあった仮説が確信へと繋がったの。”ヴェヒター”と”リッター”について。どうして”ヴェヒター”がオレヒスから解放されないで運営として残り続けているか。」
楓チャンの言葉を久我サンが黙って聞く。
「”ヴェヒター”は皆、過去のオレヒスのクリア者たち。そして”リッター”、いえ、爵位持ちのリッターと言った方がいいかしら。爵位持ちは過去のオレヒスのクリアメンバーであり、途中で死に絶えた者たち。もっと具体的に言えば”ヴェヒター”はクランメンバーを生き返らせた事により”何らかの理由で”オレヒスから抜けられなくなった。そして私の予想ではその理由はあなたのその見た目にある。違う?」
「フフフ、流石は芹澤さん。大筋は合っているわ。訂正するとしたら爵位持ちに限られた事ではないわよ。爵位が無くてもクランメンバーの”リッター”もいるし、爵位持ちでも”ヴェヒター”直属でない者もいる。爵位がある者は『選別ノ時』まで生き残った者たちよ。」
「それ、なにかしら?」
「フフフ、それはノーコメント。」
「あら?昔のよしみじゃなかったのかしら?」
「それについてはいずれわかるわよ。」
「あっそ。じゃああなたのその見た目については答えてくれるのよね?」
「いいわよ。」
それに答えるとは思っていなかったのだろう。楓チャンの目が一瞬見開いた。それはウチも同じや。そんな核心部分については答えるわけない思うとったもん。
「生き返ったのはいいんだけど呪いがかかっているのよ。永久に時が止まるコトと、”オルガニ”に忠誠を誓うコトをね。そしてゲームクリアをした者にも枷があたえられるの。死んだクランメンバーを生き返らせるなら”ヴェヒター”として俺'sヒストリーの管理にあたらなければならない、ってね。」
「1つずつ聞いてもいいかしら?」
「どうぞ。」
「永久に時が止まるとはなんなの?」
「言葉の通りよ。私の時は死んだ中等部3年のまま止まっている。現実世界では失踪して行方不明って事で処理されているしね。元の生活に戻る事も出来ないわ。」
「”オルガニ”への忠誠って?」
「それはノーコメント。」
「”ヴェヒター”の目的は?枷を外す方法がないわけない。あるからこそ目的を持って何かをやっているんでしょ?」
「そうね。それはこの”9番目”の俺'sヒストリーにて”贄”をつくること。」
「”贄”?」
「完全なるクリア者の事よ。誰1人クランメンバーが欠ける事なくクリアする。それが目的なの。過去の俺'sヒストリーでは1回の例外を除いて全員1人しか生き残れなかった。例外というのは今回のイベントの考案者である新しいドライ様の事よ。あなたたちの前には口調が穏やかな少年がルール説明をしていたと思うけど、もう1人いるのよ。新しいドライ様は双子なの。」
「へぇ。ま、そのドライはどうでもいいけどその話は凄く意外だわ。」
「意外?」
「ええ。あのサーシャって女も”リッター”なんでしょ?彼女が死ぬなんて信じられないわ。」
「ツヴァイ様の所は理由があるのよ。サーシャ、リリ。この2人は別格。葵もかなり強いけどね。それでも3人とも死んだ。でも戦いで負けて死んだわけではないわ。みんなツヴァイ様を守って死んだのよ。」
「どういう事?ツヴァイは弱いって事?」
「ツヴァイ様は俺'sヒストリーに参加された時12歳だった。武術の心得があるわけでもなんでもないただの小学生。普通なら序盤で死ぬか奴隷よね。出会った経緯は私にはわからないわ。でも3人がツヴァイ様を支えた。そして『選別ノ時』まで生き残ったけど、1人、また1人とツヴァイ様の盾になり死んだ。最後に残ったサーシャもツヴァイ様の盾になり死んだ。」
「その3人が死んで良くツヴァイはクリア出来たわね?」
「”覚醒”したのよ。クリアをすればどんな願いでも叶えられる。3人を生き返らせる為にツヴァイ様は奮起し”覚醒”した。その後は一方的だったみたいよ。そしてゲームクリアし、3人を生き返らせた。」
「でも変じゃない?ツヴァイは小学生のような背丈じゃないわよ?」
「”ヴェヒター”は時が止まったりしないわ。でも時の流れが変わっているけどね。現実世界の空間にはほとんどいられないから。ツヴァイ様がクリアされた俺'sヒストリーから20年以上が経過しているらしいけど今の見た目は20歳ぐらいらしいわよ。」
「なるほどね。納得したわ。じゃあ最後にもう1つだけ。」
「どうぞ。」
「あなたは何の為に私の前に現れたの?」
楓チャンの言葉により場の空気が変わって行く。重苦しいような何とも言えない嫌な空気だ。ここで戦闘になったりしないやろな。スキル使えんのに分が悪いで。
「挨拶に来たのよ。あなたが俺'sヒストリーに参加し、”闘神”にいるんだもの。それに…アインス様かツヴァイ様のどちらかと手を組んでいるって噂だからその調査も兼ねてね。」
そう話す久我サンからプレッシャーみたいなものが解き放たれる。その強大なプレッシャーからは地に伏せてしまいそうなぐらいの圧があった。
「…やる気かしら?」
楓チャンが目を鋭くして久我サンを睨む。
「なーんちゃって。冗談よ。」
そう言うと先程までのプレッシャーが消え、ウチらに与えられた圧が解かれる。
「攻撃はしないって約束したでしょ。」
「あなたなら簡単に約束を反故にしそうだから全然信用してないけどね。」
「フフフ、酷い言い草ね。でもあなたたちがアインス様かツヴァイ様と何かをしようとしているなら容赦はしないわ。ハッキリ言ってあなた程度なら『グローリエ』を使っても私には到底及ばないわよ。」
「ウフフ、怖いわね。その時が来れば試してみるわ。」
笑ってはいるけど楓チャンからピリピリした空気が出とる。楓チャンってプライド高いからあんな言い方されるとイラっとくるんやろな。
「私はアインス様とツヴァイ様がどうなろうと知った事じゃない。2人が何かを企てている事も知っている。でもそんな事はどうでもいい。フィーアに危害が及ばなければ。」
久我サンが真剣な顔でウチらにそう語る。
「フィーアに何かをするなら本気であなたを殺すわ。それだけは覚えていてちょうだい。」
「わかったわ。でもあなたのそれは思い過ごしよ。私たちはツヴァイともアインスとも通じているわけじゃない。その2人が何かをしようとしているのはわかってるけど私たちには関係ないわ。私たちは私たちの為だけに動くから。それを邪魔立てするなら誰であろうと叩き潰す。」
ここで初めて楓チャンから本気の圧が解かれる。挑戦状ともとれるような凄まじい剣気が久我サンへとアテられる。
「肝に銘じておくわ。」
でも久我サンは特にそれを気にする様子は無い。これだけの剣気をアテられてもこの人にとっては大したことがないのだろう。
「じゃ、そろそろ私たちは行くわ。一応は同じ軍なのだから夏目の援護ぐらいはしてあげないとね。」
「わかったわ。とても楽しかった。またお茶をしましょう。」
「あ、久我さん、ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
「ごちそうさまでした。ほんまに美味しかったです。」
ウチとアリスチャンが久我サンに礼を述べると彼女は笑顔でウチらを見る。
「どういたしまして。」
「みんな、行くわよ。」
礼も程々でウチらは自軍の砦へと向かう。この先に久我サンと戦う事が来るかもしれんけどそれは今は考えないようにしよう。今はこのイベントを終わらせる事に専念しよう。
『どうだ?久しぶりの幼馴染との交流ってぇのは。』
ーー樹々の間から40代ぐらいのワイルドな風貌をした男が現れる。長髪の黒髪は紐で束ねられ、彫りの深い顔立ちで良く見れば端正なのだが髭がそれを台無しにしてしまっている。肉体は相当に鍛えられ、プロレスラーのような鋼の筋肉を纏っている男だ。
「良いものね。昔に戻ったみたい。」
『…悪かったな。俺がお前たちを守ってやれてりゃァこんな事にはならなかったのに。お前から青春を奪っちまった。』
「言わないで。私はあなたに感謝しかない。それはシェリーと恵輔も同じよ。私たちはジェラルドがいてくれたからこうして生き返れた。本当にありがとう。」
『…よせよ。俺の柄じゃねェ。だが…あと少しだ。今度こそお前らを救ってやれる。必ず俺がなんとかする。アインスだろうがツヴァイだろうが関係ねェ。』
「ねぇ、ジェラルド。もしも、本当に”それが”成就するなら…私を娶ってくれないかしら?」
『あァ!?何言ってんだ!?俺とお前じゃ歳も見た目も釣りあわねぇだろうが!?』
ーーその風貌に似つかわしくないような狼狽え方をするフィーア。それを見てカルディナは一度微笑みフィーアに抱きつく。
「私はあなたを愛している。この心はあなただけのもの。それを邪魔立てする者がいれば容赦はしない。私があなたの剣になる。」
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