第398話 カルディナの茶会

【 楓・アリス・みく 組 4日目 AM 0:06 自軍砦周辺の森林 】



久我サンがラウムを開きテーブルとイスを用意する。そしてポットとお茶菓子が入ってるような缶をテーブルに並べ、にこやかな笑みをウチらに向けてくる。

ウチらのラウムは開けんけどこの人のは開けるんや。やっぱ運営側の人間なんやな。



「さ。お茶会をしましょう。もう4日目に入り、パンを3つしか食べてないならさぞかしお腹が空いているでしょう。クッキーと紅茶を用意したから満足してもらえると思うわ。」



久我サンはそう言いながらティーカップに紅茶を注ぎ、缶を開けてクッキーを準備する。良い匂いが周囲一帯に立ち込める。飢えてる時やったらコレ絶対あかんかったかも。



「そんな怪しいお茶に口をつけるわけないでしょう。」



楓チャンが警戒心たっぷりの目で久我サンを睨む。



「フフフ、無理をする事ないのよ?いくらあなたでも3日間を小さいパン3つでは相当飢えているでしょう?」


「お生憎様、私たちは飢えてないのよ。リーダーが有能で食糧を持たせてくれたのでね。」



楓チャンがヒップバッグからカロリーメイトを1つ取り出して勝ち誇った顔を久我サンに見せる。久我サンは目を大きく見開いて驚いたような顔をする。



「…へぇ、驚いた。これを見通していたって事?流石は田辺慎太郎ね。」


「何で彼の事を知っているのかしら?」


「彼、有名人だもの。”最凶10種”のアルティメットを捧げて女の子を奴隷から解放した男。そんな事普通出来ないわ。」


「”最凶10種”?」


「アルティメットの中で最も強く、凶悪なスキルを持つものをそう呼ぶのよ。彼が捧げた《巻戻し》はそれぐらいの代物なのよ。」


「へー。それってどんなんがあんの?」


「それは教えられないわ。私はあなたたちに肩入れするわけではないもの。でもあなたたちのクランに関してなら教えても大丈夫よ。田辺さんの《剣聖の魂》、島村さんの《剣神の魂》がそれにあたるわ。」


「バルムンクが…?牡丹ちゃんのクラウソラスはわかるけどバルムンクは私のブルドガングや美波ちゃんのノートゥングとそんなに差がないように思うのだけれど。」


「剣聖は特別なのよ。唯一神にも立ち向かえる存在。もちろん剣帝も剣王も他とは格が違うわ。彼女たちは”剣”なのだから。」


「どういう意味?」


「それに関してはノーコメントで。それより早く座ったらどうかしら?お茶が冷めちゃうわ。」


「だから言ったでしょう。そんな怪しいお茶に口をつけるわけがない。それに戦闘が始まっているのだから早く砦に戻らないといけない。」


「心配いらないわよ。あの夏目って男はかなり強いから。1人で相手の上位を倒せるわよ。」


「そんな事はどうでもいいわ。”特殊装備”を渡したくないから言ってるのよ。」


「それについても心配いらないわ。あなたが最優秀選手になっても意味がないから。”ここの”報酬はエンゲルなの。」


「へぇ。良く知ってるのね。流石は爵位持ちのリッター様。」


「それにあっち側で島村さんが大暴れしてるから最優秀選手は彼女が取ってしまうわ。あっち側の方が強いプレイヤーが集まっちゃってるからポイントも高いし。」



やっぱ牡丹チャン強いんやな。



「だからお茶をしましょう。毒なんて入ってないわよ。久我の家名に誓って。」



誓いって。そんなんで信じられるわけないやん。

そう思っていると楓チャンがイスを引き、席に座る。



「か、楓チャン!?な、なんで!?」



ウチはその行動に驚いて大きな声を出してしまう。あれだけ警戒していた楓チャンが席に座るなんておかしいもん。



「彼女が家名に誓うというのなら嘘は無いわ。」


「いや、でもそんなんいくらでもいえるやん!?さっきまで楓チャンも全然信用しとらんかったやん!?」


「私たちの中で家名に誓うというのはとっても重いものなのよ。それを破るとなれば先祖への侮辱になる。恥晒し極まりないわ。」



うーん…よーわからんけど…家柄えーとこってそうなんかな?ウチはただの一般人だから全然わからん。

楓チャンが座る以上ウチとアリスちゃんも座らないわけにはいかない。ウチらも着席をする。



「フフフ、ありがとう。どうぞ飲んでみて。良い茶葉だから美味しいと思うわ。あ、このクッキーもね。」



久我サンに勧められるのでウチはカップに口をつける。うん、美味しい。タロチャンのお家にあるのと比べても引けを取らないぐらい美味しい。クッキーも美味しい。



「それで?私たちに何の用?」



楓チャンがぶっきら棒に言う。



「あら、冷たい言い方ね。昔は『ディナ』ちゃんって呼んでくれて可愛かったのに。」


「へー。お友達やったってこと?」



ウチが楓チャンに聞くと凄く嫌そうな顔をする。



「いつの話よ。幼稚舎の時の話でしょ。」


「ええ、そうね。幼稚舎までは私に懐いてくれてたのに初等部に上がってからは私の事を無視するのよ?酷いと思わない?」



久我サンがウチとアリスチャンに話を振ってくる。結局は仲良しなんかな?



「どっちがよ。自分が私に何をしたか忘れたの?」


「私、何かしたかしら?」



久我サンがキョトンとした顔で楓チャンを見る。



「幼稚舎全員が視聴する上映会の時にあなたは映像を弄ってみんなにサブリミナル効果を与えたでしょ。そのお陰で私はみんなから見えない透明人間として1ヶ月過ごす事になったんだから。」


「えっ?なにそれ。」


「視聴用の映像に『芹澤楓は透明人間。1ヶ月は姿が見えなくなる。』っていう文字を加えてみんなに暗示をかけたのよ。」


「そ、そんな映像を幼稚園児が作ったんですか!?」


「この女なら出来るわよ。IQ220の超天才なんだから。」


「「に、220!?」」



なんやそれ。そんな人間ほんまにおるんや。



「あー、そんな事あったわね。忘れてたわ。」


「あの1ヶ月私がどれだけ孤独だったかわかってるの?未央だけはサブリミナルが効かなかったから良かったものの、誰からも姿が認知されなかったらあの歳の子供じゃトラウマものよ。」


「花山院さんか。懐かしいわね。彼女は元気にしてる?」


「……亡くなったわ。」


「亡くなった?病気?事故?」


「……自殺よ。」


「何があったの?」


「……悪いけど話したくないわ。」


「わかったわ。」



2人の間になんともいえない空気が立ち込める。ウチが口出していい話やないから黙っているしかない。



「史上最高の格式といわれた私たちの世代の”雛鳥五摂家”も不遇な運命を辿るのね。花山院さんは亡くなり、私とあなた、藤堂さんは俺'sヒストリーへ参加をしているなんてね。真っ当な人生を歩んでいるのは西園寺さんだけね。」


「藤堂…?あの人も参加をしているの?」


「ええ。でも彼女は負けたわ。今は奴隷に堕ちている。」


「そう…。」



…なんやめっちゃ暗い空気になっとるで。アリスチャンと目で会話しとるけどアリスチャンも重苦しい空気に困っとるで。



「質問していいかしら?」


「どうぞ。」



そんな空気の中楓チャンが久我サンに質問をする。



「あなたが死んだって話…いえ、それは噂にしか過ぎなかったのね。こうして生きているんだもの。でも行方をくらませているのは事実よね?それはどうして?それに…あなたのその姿は何?どう見たって中等部3年の時のあなたの姿そのものよ。」



楓チャンが久我サンに問う。久我サンはカップを取り、紅茶を飲み干すと口を開く。



「簡単な話よ。私は前回行われた俺'sヒストリーのクリアクランのメンバーの1人なの。」

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