第397話 来訪者
【 楓・アリス・みく 組 3日目 PM 11:39 自軍砦周辺の森林 】
ウチらは自軍の砦から離れて以来ずっと森の中に拠点を置いている。けどなーんも起こらん。ウチらに夏目とかゆー奴からの追手が来る事もなければ敵軍が攻めて来る事もない。ここまでウチらはガールズトークしかしてへん。楓チャンも特に攻めようって気はあらへん。タロチャンが持たせてくれたビーフジャーキーを食べながら『はぁ…ビールがあれば…』と遠い目をしてるだけで後はウチらでキャッキャしてるだけだ。こんな緩い感じでええんやろか。
「今日も1日が終わりそうですね。」
アリスチャンがカロリーメイトをパクつきながら話して来る。
「せやね。だーれも攻めて来んし、夏目とかゆーのがウチらに捜索隊をよこす気配もあらへん。」
「あら?みくちゃんは夏目に捜索してもらいたいのかしら?」
楓チャンが意地悪そうな顔でウチを弄ってくる。
「うー!!楓チャン意地悪やで!!」
「ウフフ。ごめんごめん。」
「もうっ!でもこんなんでええん?さっぱりイベント進んでない感じやで?」
「そうですよね。なんか3人でキャンプにでも来てるだけみたいです。」
「心配しなくても大丈夫よ。」
「「えっ?」」
「もう3日目が終わる。食糧も完全につきるわ。そうなれば互いに攻めるしかなくなる。そろそろどっちかが動き出すわよ。」
「なーるほど。確かにそうやね。ウチやったら今までは特に考えないでワーって攻めてってたなぁ。」
ーーよくそれで生き残ってこれたな。頭脳戦では賢さを見せていたのに。慎太郎じゃないけど赤点疑惑が確かにあるわ。
「もしも楓さんが指揮官だったらどのタイミングで攻めますか?」
「そうね…早朝でもいいけどその時間ならもうお腹が空いてパフォーマンスが下がるわ。それなら夜襲をかけるのが1番マシ。私だったらそろそろかしら。」
楓チャンのその言葉にウチとアリスチャンに緊張が走る。
「そもそも私なら2日目の早朝にでも攻め込むけど。あの夏目って男は敵の拠点を探して動くのが面倒なタイプでしょ。だから自分からは絶対動かないわ。食糧は自軍の奴から奪うだろうし。それなら敵軍がこっちに仕掛けて来るのを待つしかないわ。敵軍の指揮官がよっぽどの馬鹿じゃなければ間違いなく日付が変わる前後ぐらいに夜襲に来るわよ。」
その時だった。
自軍の砦を中心としてウチらがいる場所から反対側の方から足音が聞こえる。かなりの数の人間や。
「楓チャン。」
「ビンゴね。」
「聞こえるんですか?」
身体能力向上の無いアリスチャンがウチらに尋ねる。
「うん。ここと反対側やね。ウチらも砦に向かおう。」
「はい!」
「行くで楓チャン!……楓チャン?」
楓チャンが別の方向を向いて森の奥を凝視している。なんやろ。
「どうしたんですか…?」
アリスチャンも心配そうに楓チャンに声をかける。
「誰かいるわ。」
楓チャンが険しい顔をしているのでウチも同じ方を向く。でもウチには何も感じん。
「ウチにはなんも感じんよ…?」
「えっ!?それって幽霊じゃ…!?」
アリスチャンが凄くオドオドしとる。可愛い。怖いの苦手なんかな。ウチは怖いの大好きやから幽霊ならちょっとワクワク。
「私にだけ気配を向けているのよ。だからみくちゃんでもわからないんだわ。」
「えっ…?ウチのゼーゲン2段階解放やで…?その状態のウチが察知出来ないで気配を1人だけに向けてるって…」
「そうね。相当な実力者よ。」
こないだのミリアルドとかいうガイジンといいウチの所に実力者集中しすぎやろ。
「それだけの気配を向けて来るんだからワザとでしょ?なら出て来たらどうかしら?」
楓チャンが謎の者に声をかける。すると楓チャンに向けられていたであろう気配がウチらにも向けられる。こっちに歩いて来る。
「みくちゃん、戦闘準備よ。アリスちゃん、念の為魔法の準備。」
「ラジャー!」
「わかりました!」
「フフフ、そんな事しなくても大丈夫よ。戦うつもりはないから。」
こちらへ向かって来る謎の者がウチらに声をかける。女や。女の人の声や。
「そんなに怯えないで。あなたたちに攻撃はしない。約束するわ。」
女の人はしゃべりながらこっちへ向かって来る。そして樹々の間から女の人が姿を現わす。
ガイジンさんや。金髪のすっごいキレーな女の人や。美人密集しすぎやろ。
ポンチョみたいなマントを纏っているんで装備はわからん。用心せなあかんね。
「あ、あなた…!?まさか…久我カルディナ…!?なんでここに…!?」
楓チャンが驚きの声をあげる。知り合いなんかな?てか名字がアレって事はアリスチャンと同じでハーフなんかな。
「あら?覚えてくれていたのね。嬉しいわ。」
「んっと…楓チャンの知り合い…?」
「ええそうよ。芹澤さんとは幼稚舎から中等部まで一緒だったの。私が1つ上だけどね。」
私の質問に楓チャンではなく久我サンって人が答える。
「へー、そうなんや。でも久我サンのが上に見えへんね?ウチとそんな変わらんよーに見える。」
久我サンの見た目は10代にしか見えない。ただ若く見えるってのとはちゃう。そもそも25歳の人に若く見えるもなにもない。久我サンは幼いんだ。10代特有の幼さがある。
「フフフ、ありがとう、綿谷さん。」
「え…?何でウチの名前…」
「”闘神”の名前ぐらい知っていて当然よ。」
あ、そっか。”闘神”の初期メンは顔が割れてんだよね。
「みくちゃん!!アリスちゃん!!戦闘準備よッ!!」
ウチが考えていると楓チャンが大きな声でウチらに号令をかける。
「戦闘準備って…楓チャンの知り合いやろ…?それにあっちは戦うつもりはないってゆーとるよ…?」
「そうよ。私はあなたと戦うつもりはないわ。」
「茶番はやめなさい。あなた、一体誰?」
「フフフ、変な事を聞くのね。あなたがさっき言ったじゃない。私は久我カルディナよ。」
そう話す久我サンを楓チャンが凄い目で睨む。なんなんやろ。なんだか全然わからん。
「ちょ、楓チャン?全然意味がわからんよ?どゆこと?」
「この女が久我カルディナなはずがないわ。」
「ごめん、楓チャン。全然わからん。楓チャンがこの女の人を久我サンって言うたんだよ?」
「そうね。でもこの女は久我カルディナじゃない。だって久我カルディナは中等部3年の時に行方不明に、いいえ、亡くなったって話なのよ。」
「「えっ!?」」
えっ!?てー事はこの人は…幽霊…?
「じゃっ、じゃあこの人は幽霊…!?」
「あ!だから見た目が10代に見えるんや!!」
「誰かが化けているのよ。大方、”特殊装備”の力で私を動揺させるのが狙いよ。」
ーー楓たちがそう考察しているのを見てカルディナは大きくため息を吐く。
「芹澤さん。そんなくだらない”特殊装備”があるわけないでしょう。私は本当に久我カルディナよ。証拠は無いけど…あなたにはコレを見せれば理解出来るでしょう。」
そう言って久我サンが身に付けているマントを剥がす。腰に剣型のゼーゲンを差し、アニメの軍服みたいな感じの黒い服を着ている。
「その服…!?楓さん!?」
アリスチャンが久我サンの服を見て驚いとる。なんやろ。
「…なるほど。リッターって事ね。」
「そういう事。改めて自己紹介させて頂くわ。ラントグラーフの爵位を与えられしフィーア直属のリッター、久我カルディナです。芹澤さん、少しお茶でもしましょうか。」
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