第396話 首狩り
【 慎太郎・美波・牡丹 組 3日目 AM 5:32 自軍砦外森 】
ーー牡丹が菅原の首を刎ね飛ばす。司令機関を失った肉体は血飛沫を上げながら倒れ込む。
ーーここでいつもと違う状況が生まれる。いつも通りのイベントなら敗北したプレイヤーの肉体は暫しの後にその存在はエリアから消える。それは何かに付着した血液でさえもその存在が初めから無かったかのように完全に消えてしまう。だが今回は消えない。菅原の首の切り口からは依然として血液が溢れ、周囲には鉄臭い嫌な臭いが漂い始めていた。
ーーしかしながらそんな奇妙な状況に気づく者は誰もいない。『大蛇』や『皇』軍はそれ所ではないし、牡丹に至っては興味の対象が慎太郎でしかないのでそんな事はどうでもいいとしか思わない。
ま、きっと慎太郎がこの異変に気づくでしょ。という事で今はヤンデレクイーンに焦点をおこう。
「す、菅原が一撃でやられやがった…!?」
「そもそも斬ったのなんて見えなかったぞ…!?」
ーー『大蛇』の連中が恐怖に震える。それだけではない。『皇』軍の連中も恐怖に支配され始めている。”五帝”島村牡丹の名と、その名に恥じぬ強さを目の当たりにしてこの場にいる大半のプレイヤーの心が折れかけていた。
「ビビってんじゃねえ!!!」
ーーだがそんな空気を葛西が一喝する。
「菅原の野郎はゼーゲンを持ってねぇだろ。やられて当然だ。」
ーー葛西の一言により混乱する空気が収まりを見せる。
「オイ、馬場ァ。取引しねぇか?」
「取引だ?」
「ああ。俺らとテメェらで同盟結ぶんだよ。そんでこのアマを倒す。コイツは間違いなくこっち側の『王』だ。俺らがコイツを差し出せば俺らも生き残るし、テメェらも残る。対等な取引じゃねぇか?」
「なるほどな。そんで島村をやったら俺らでヤッちまうって寸法か?」
ーー馬場が下卑た笑みを浮かべ葛西に話を振る。
「ヘッヘッヘ。わかってんじゃねぇか。コイツのクランにはコイツと同等の上玉がもう1匹いんだよ。俺らで永遠に楽しめんぞ。」
「おいおいマジかよ。このレベルがもう1人いるなんてな。こんなイイオンナ、水口杏奈しかいねぇと思ってたよ。」
「そんじゃ同盟は締結って事でイイな?」
「オウ。オイ、島村ァ。俺たち全員を相手にすると最低3日は寝れねぇぞぉ?死ぬなよぉ?フッハッハッハッハ!!」
ーー葛西と馬場が勝ち誇ったような顔をしている。だが彼らは失念しているのではないだろうか?彼らの目の前にいるのは現段階で最強と謳われる”五帝”の一角、島村牡丹なのだ。
「くだらないお喋りはもう結構ですよぉ?どのみち貴方方では私に触れる事は出来ませんので。」
「立場わからせてやるよクソアマがァァァ!!!」
ーー激昂した馬場の声に呼応して手下たちが一斉に牡丹へ襲いかかる。それにつられて『大蛇』の連中も動く。それを牡丹は特に気にする様子もなくゼーゲンを引き抜く。
そんなふざけた態度の牡丹を見て男たちは怒り狂う。怒号を撒き散らせながら各々の武器を装着し牡丹へと向かうーーが、
ーー男たちの眼前から牡丹が忽然と消える。
「遅いですねぇ。」
ーー牡丹の声が男たちの後方から聞こえるので確認しようと振りかえーーれない。
振り返ろうと身体を動かす男たちの首が次々と落ちていく。その数、101。僅か数秒で101人もの男たちの首を落としたのだ。
何よりも恐ろしいのは牡丹の呼吸が全く乱れていない事だ。これ程の運動量を行なっても涼しい顔をしている。
念の為断っておくが牡丹はフリーデンを使用していない。この程度の連中相手に牡丹はフリーデンを使う気など毛頭無い。
その信じ難い光景を目の当たりにして流石の馬場と葛西にも顔に恐怖が宿る。
「な…なんだそりゃ…」
「動きが見えなかった…俺らのゼーゲンは2段階解放してんだぞ…お前は1段階だろ…?それなのになんで…?」
「そんなに決まってるじゃないですかぁ。貴方方が弱いだけですよぉ。」
ーー牡丹がにこやかに語る。
それが葛西たちにはとても恐ろしかった。牡丹の人ならざる振る舞いに生まれて初めて本気で恐怖を感じていた。
そしてそれを拭うように葛西と馬場の側近2人が大声を上げて牡丹に襲いかかる。
「そんな雑魚どもを倒したぐれぇで得意になってんじゃねぇぞ!!!」
「ゼーゲン持ちの俺たちが本当の強さってやつを教えーー」
ーー走っている最中に2人の首が落ちる。彼らは牡丹の元に近づく事すら出来なかった。ゼーゲンを所持しているモノですらこのザマ。誠に恐ろしい強さを牡丹は見せつけている。
「ふふふふふふ。もう2人になっちゃいましたねぇ。」
ーー牡丹が一歩ずつ葛西と馬場に近づいていく。
ーー2人は恐怖で足が震え出す。
だが馬場は咆哮を上げ、自らを奮い立たせて牡丹へ駆けるが届く事は無い。即座に首を落とされて終わりだ。
ーー最後に残った葛西が全身を震わせながら口を開く。
「ままままま、待ってくれぇ!?助けてくれ!?アンタの舎弟になる!?だ、だかーー」
ーー命乞いも虚しく牡丹に首を刎ねられ葛西は沈黙した。
「申し訳ありませんが私はタロウさんのお願い以外聞かない事にしているので無駄ですねぇ。それにタロウさんを愚弄した貴方を断罪するのが目的なのに助けるわけないじゃないですかぁ。」
ーー牡丹がハイライトの無い目で葛西の骸をゴミを見るような目で見ながらそう言い放つ。
「さてと!早く戻って残りの連中を一掃しないとですねぇ。裏門に戻るより正門から狩っていった方が効率良さそう。そして『王』を始末さればタロウさんは私を褒めてくれる。彼が私を必要としてくれる。ふふふふふふふふふ。」
ーーうーん、久しぶりのヤンデレクイーンは重くて吐き気がしてくるなぁ。それにしても牡丹は強い。今の楓とやり合ったら一体どちらが強いのか個人的に興味がある。
ま、そんなこんなで大量に首を切断された骸を残して牡丹は急いで自軍砦へと向かうのであった。
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