第395話 ヤンデレモード復活
【 慎太郎・美波・牡丹組 3日目 AM 5:19 自軍砦外森入口付近 】
ーー慎太郎が菅原に連れられ砦の外にある森の方へと連れていかれた。そこまで道のりの間、特に言葉を交わす事はない。慎太郎は必死に怒りを抑えるためにラマーズ法を駆使するだけであった。
「テメェ息荒ェんだよ!!!歩いてるだけで疲れてんじゃねぇぞアぁ!?」
「…悪いな。」
「チッ!!!まぁいいや。オラ、ここだよ!!!」
ーー森の入口手前まで来ると木の影に隠れていた男たちが姿を現わす。
「イヒヒ!」
ーー数は菅原を含めて6人。当然葛西もいる。『大蛇』の連中だ。男たちは慎太郎を見ながら下卑た笑みを浮かべている。
「菅原ァ!!よくやった、ご苦労さん。」
「アザっす!!」
…ふーん。ま、何か企んでるとは思ってたけどよ。
「オイ!!俺ァ、コイツらシキッてる『大蛇』の葛西ってモンだ。聞いた事あんだろ?」
知らねーよ。お前らも知らなければ『虚空』とかいう連中の事も知らねーよ。
「聞いてんのかテメェ!!!アアン!?」
朝からうるせーなコイツ。そんなもんでビビッたりしねーよ。
「待ってやれよ葛西。朝っぱらからこんな人気のない森に連れて来られたあげくに6人に囲まれちまってんだぞ?ビビッちまって声も出ねえだろーよ。」
「あー?ハッ!そらそーか!俺ァ優しそうだけどオメェら悪人ヅラだもんなァ!!」
ーー葛西の言葉に男たちが馬鹿笑いを始める。それを慎太郎は冷ややかな目で見ていた。
「まァ、そんなビビんなや。葛西はこう見えてそんなオッカネェ奴じゃねぇからよ。テメェの態度によっちゃぁ勘弁してもらえっかもよ?」
ーー葛西の側近と思われる男がニヤケ顔で慎太郎に詰め寄ってくる。
「態度って?」
「テメェんトコに激マブがいんだろ?アレよこせよ。」
「オメェにはもったいねぇよ。葛西さんのような漢にああいうイイオンナは相応しいんだよ。」
ーー側近と菅原が慎太郎に顔を近づけてくる。何でこの手の奴らは顔を近づけてくるんだろう。
「あ?渡すわけねぇだろ。何言ってんだテメェら。」
「「え?」」
ーー慎太郎の目つきが変わった事で側近と菅原が鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
「大人しくしてればいい気になりやがって。美波を渡せだ?ふざけるんじゃねぇ。俺の事なら別に我慢すっけど、美波と牡丹にちょっかい出そうってんなら容赦しねぇよ。」
ーー最初こそ鳩が豆鉄砲を食ったような感じになった男たちだが、次第に慎太郎の態度に怒りのボルテージが高まっていく。中でも気の短い葛西がこめかみに青筋を立てて明らかな殺意を慎太郎へ向ける。
「容赦しねぇだァ!?テメェ誰に口利いてやがんだ!?アァ!?」
「お前だよお前!!いい歳して何イキッてんだオッさん!!」
ーーふむ。完全にキレてますね。まー、慎太郎にしては我慢した方かな。慎太郎は高校に入ってから自分の実力に気づいて喧嘩が強くなった。元々強いんだけどね。度胸が無かったんだよ。それに気づいてれば小学校、中学校とあんな惨めな思いをしなくて済んだのに。
「…もういいわ。コイツ殺してあの女手に入れりゃあいい。オウ、テメェらコイツ囲めや。」
「タイマンも張れねーのかよ。情けない奴。」
「いつまでその態度でいられっか試してやるよ。」
ーー6人が慎太郎を囲み出す。だが慎太郎はそんな事を全く気にする素振りはない。全員始末する気マンマンだ。
ーー慎太郎がゼーゲンに手をかけた時だった、
「…なんだ?何の音だ?」
「あァ!?何言ってんだテメェ!!今頃ビビッたって遅ェんだよ!!」
「森からも気配を感じる。いや、それより砦の方から…」
「テメェいつまでーー」
「ーーちっと待てや。」
ーー喚き散らす菅原を葛西が制する。
「確かになんか音がすんぞ。」
「え…?」
ーーゼーゲンを手にしている者たちは身体能力向上の効果により何かを感じ取る。
そして、
ーードゴォン
ーー慎太郎たちの砦から轟音が聞こえる。何かをぶち破られたような音だ。
「か、葛西!?今の音って!?」
「…チッ。砦の正門が打ち壊された音だろうな。夜が明ける前に奇襲しやがったんだ。」
「や、ヤバいじゃないっすか!?早く俺たちも戻らないと総崩れになりますよ!?」
ーー少なくとも『大蛇』が管理している300人に対しては指揮系統が取れなくなる。戦において指揮官がいないなどあり得ない話だ。ここで300人を失えばもう収拾がつかなくなるかもしれない。一刻も早く部隊編成をする事が急務だ。
「コイツの始末は後回しだ。まずは戻って『虚空』の奴らとーー」
「ーーそんな事させねぇよ。」
ーー葛西が指示出しをするのを誰かに制止される。声がした森の方を向くと、100人ほどの軍勢が霧に包まれながら現れる。
「裏門は俺たちが攻め込む手はずになってんだ。テメェらはここで始末させてもらうぜ。」
「お、お前は!?」
ーー葛西の側近が森から現れた敵軍のリーダー格の男を見て驚愕の表情を見せる。
「千葉の大型クラン『皇』の『残虐の皇帝』馬場秋広!?」
…だからなんなんだよそれ。もうヤンキー路線いいって。基本的にイライラしてんだからそのノリやめてくれ。
「テメェら『大蛇』か。大男じゃねぇってトコを見っと夏目じゃねぇな。テメェが葛西か。」
「オウ、俺が葛西だ。よかったな、夏目がいたらテメェ、もう死んでんぞ。」
「この俺が田舎のカッペ野郎にやられっかよ。こんな雑魚どもしかいねぇって事はこりゃ楽勝だな。」
「あ?」
「そっちの優男のニイちゃんをシメようとしてたんだろ?テェ事はお前がそっちでデカイ顔してられるってワケだ。テメェ如きがな。」
「ナメてんのかテメェ!!!アァ!?」
「こっちにはヤベェ奴がまだいんだぜ?トップの奴なら神奈川の『幻影』のアタマ、葛城修斗。静岡の『荒くれ者』のアタマ、後藤広宣。2番手だが群馬の『死神』の土屋明弘。新潟の『極』の郡司信男。コイツらがこっちにはいんだ。」
「そ…そんな…」
「そんなヤベェ連中が…」
もうそのノリいいって。知らねーよそんな奴ら。
「ま、そういうこった。俺たちも立場があっからよ。テメェら殺して裏門から攻め込んでチェックメイトだ。テメェらの『王』が誰だかしらねーがこのメンツより上なわけがねぇ。俺らが行く前に殺られちまってるかもしんねーな。ハハッ。」
「クッ…チキショウ…」
ーーもう付き合いきれないし、何より美波と牡丹が心配だからさっさとコイツら始末して砦に戻ろうと慎太郎はゼーゲンに手をかける。だが、
「タロウさん。砦に戻って下さい。」
「うおっ…!?牡丹!?」
ーー音も無く気配も無く背後にいる牡丹に慎太郎は心の底から驚く。
「1人残して来た美波さんが心配です。美波さん程の方なら簡単に負けたりはしないと思いますが多勢に無勢ならわかりません。ここは私に任せて下さい。すぐに追いつきますので。」
「…わかった。牡丹に任せていいか?」
「ふふふふふ。大丈夫ですよぉ。」
「すまん。」
ーー慎太郎は牡丹の返答と同時に駆ける。いろいろとツッコミどころのある状況ではあるが時は一刻を争う。今は細かい事は気にせず牡丹に託した。
「オイ、テメェ!!!何逃げてやがんだ!?」
ーー駆ける慎太郎を見て葛西が怒声を浴びせるが慎太郎は振り返る事なく砦へと向かった。
「あの野郎…」
「フハハハハハ!!女残して逃げやがったぜ!!オイ葛西!!テメェんトコの奴は情けない野郎だな!!」
「チッ…!!オイ、女!!ここは俺たちとテメェでやるしかねぇ!!逃げんじゃねぇぞ?わかったーー」
「ーーふふふふふ。何を勘違いしているんですかぁ?」
「あ?」
ーー異様な雰囲気を醸し出す牡丹を葛西が見る。
「私がここに残ったのはあなた方と協力する為じゃないですよぉ。」
「何言ってんだこの女。頭いかれてんのか?あ?」
「よくもまぁあそこまでタロウさんを愚弄してくれましたよねぇ?あなた方のような蛆虫にも劣る下等種族に彼が虐げられているのを見る度に私の胸は焼かれるような気分でした。タロウさんは心が広いので耐えておられましたが私はもう無理ですねぇ。だからここで全員始末してしまおうと思ったんです。都合良く敵軍の方々が来て頂けたのでタロウさんへの言い訳も立ちます。好都合ですねぇ。ふふふふふ。」
ーーフードを被っていても牡丹から危険な匂いが漏れ出てるし。
「なんだなんだァ?仲間割れかぁ?いいねぇ。オイ、ネエちゃん!なんなら助太刀してやろうか?」
ーー馬場がニヤけながら牡丹に声をかける。
「必要ありませんねぇ。そもそもあなた方も全員始末致しますので。私は今回のイベントで最優秀プレイヤーに選ばれ”特殊装備”を手にしないといけないんですよぉ。このままでは楓さんに差をつけられてしまいますからねぇ。」
「何言ってんだかわからねぇが生意気なネエちゃんだな。テメェ如きが俺たちに勝てると思ってんのか?」
「ふふふふふ。あなた方程度に私が勝てない筈がありません。」
ーー牡丹の物言いに馬場の表情が変わっていく。
「…女如きにナメられっとはな。オイ、女が『大蛇』の連中と交戦したら横からブチのめすぞ。」
「ヘッ、馬場は悪ィ奴だな。」
ーー牡丹に対して菅原が威圧しながら近寄って来る。
「テメェ!!こっちが大人しくしてりゃあいい気になっーー」
ーー菅原の首が落とされる。
「それは私の台詞ですよぉ。よくもタロウさんを無能者みたいに言ってくれましたよねぇ。無能なのはあなたですよぉ。ふふふふふ。」
ーーゼーゲンを振るった事で牡丹のフードがとれ、その美しい顔が露わになる。
…ハイライトの無い目も露わになる。久しぶりのヤンデレモードだ。
「てっ、テメェ…!?島村牡丹じゃねぇか…!?」
「”五帝”がなんでここに…!?」
ーー『大蛇』、敵軍『皇』隊の面々が牡丹を認識し戦慄を覚え震え上がる。
「本当は時間をかけて断罪したいですが私も砦側に参戦して敵将の首を取らないといけませんからねぇ。直ぐに終わらせてあげますよぉ。ふふふふふふふふふ。」
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