第392話 ストレス

【 楓・アリス・みく 組 1日目 PM 1:02 自軍砦周辺の森林 】



ーー天使の翼を羽ばたかせた楓がみくとアリスを連れ、森へと逃走する。砦から適当な距離を取った後に着地し、周辺の警戒を行う。



「プレイヤーは当然として他の敵もいないみたいね。」


「せやね。気配はなーんも感じん。相変わらずこんな森の中でも生き物の気配だって無い。変な所だよね。」



前から気になってたけどエリアはどうやって作っているんだろう。オレヒス自体未知の力みたいなのでやってるんだから驚きはしないけど何で生き物がいないのか気になる。この植物だって生きてはいない。造花ではないけど生命の鼓動を感じんもん。



「でも虫がいない方が私は良いんだけどね。虫嫌だもん。それにこんな所にいたら虫に刺されまくって痒くて大変よ。」


「それは嫌ですね…」


「とりあえずこの辺りを私たちの基地にしよっか。この距離なら戦いが始まれば音で気づくだろうし。」


「了解!」

「はい!」


「問題は食糧よね…こんな小さいパン3つでどうしろっていうのよ。戦いが始まれば適当に狩ってお弁当が手に入るけどこう着状態が続けば結構しんどいわよ。」



あー…野草を食べさせない為に本物じゃないのかも。他の生き物がいないのも狩猟をさせない為かもしれんなぁ。



「あの、さっきから気になってたんですけど楓さんの腰についてるの何ですか?そんな着せ替えアイテムありましたっけ?」



アリスチャンが言うのでウチも楓チャンの腰を見てみる。ほんまや。大きいヒップバッグが2個ついとる。



「あれ?これって出掛ける前にタロウさんに付けさせられたやつじゃない。」


「あ、ほんまや。」



なんか知らんけどタロチャンが朝ゴソゴソやってたなぁ。



「現実世界のアイテムって持ってこれるんですか?」


「こんなの初めてよね。でも今考えればタロウさんっていつも現実世界の服を着てるわよね。こういう格好は嫌なのかしら?私は色々着せ替え出来て楽しいんだけど。」



ーー慎太郎は換装のやり方を知らないだけなのである。みくたちはもちろん、美波も牡丹もいつも換装している。でなきゃドレスっぽい服とか着られるわけがない。



「そもそも何でそのバッグタロチャンに付けさせられたん?」


「朝早くて眠かったから覚えてないのよね。何か言ってたんだけど目が開かなくて。」


「着替えとかは別のバッグに入れておいたんだから違いますよね?なら何が入ってるんだろ?」


「開けてみた方が早いわね。」



そう言って楓チャンがヒップバッグを両方前にズラす。そんでファスナーを開けると、



「えっ!?」


「な、なんやこれ!?」


「うわ!?」



中にはカロリーメイトとチョコとビーフジャーキーがぎっしりと入っている。楓チャンがもう1つのバッグを開けるとそっちにも同じ量が入っていた。



「これってタロウさんが入れてたんですよね…?」


「こうなるって思ってたって事…?有能すぎやろほんまに。」


「鎮痛剤にポケットティッシュもあるじゃない。それにボディタオルまで。あ、消毒液も。」


「ウチらが女の子やからこういうの必要って思ったから入れといたって事やん。これでホレんなってのがムリやで。」


「タロウさんは優しいですから。いつも自分の事より私たちの事を考えてくれる人です。」


「そうね。まったくあの人は。でもこれで食糧問題は解決したわ。帰ったらちゃんとお礼をしないとね。」



ほんまや。タロチャンには一生かかっても恩返ししなきゃダメ。返しきれないぐらいの恩があるもん。ウチに出来る事ならなんでもしないと。だもんちゃんと帰ってこんとダメやからねタロチャン。






********************




【 慎太郎・美波・牡丹 組 1日目 PM 3:39 自軍砦周辺 】




ーーそんなタロチャンは砦の外で穴を掘っている。クッソイライラしながら穴を掘っている。あまりにもイライラしすぎてラマーズ法で呼吸をしているぐらいだ。

慎太郎だけでなく第5班と6班の男たちが外に駆り出され堀を作る作業をやらされている。スコップで。スコップ1つで80人ぐらいの男たちだけで掘りを作るというのだ。


マジでバカじゃねぇの。何考えてんの。テメーらドカタじゃねぇの?わかんだろ普通。1日、2日で掘りなんか作れるわけねーだろ。それもこんなスコップで人力でとか。

大体からして掘りなんか作ってどうすんの?ここに籠城すんの?兵糧も無いのに?頭湧いてんじゃねぇの?しかもこれやってる今この時に敵軍攻めて来たらバカ丸出しだろ。頭使えや少しは。



「オラァ!!!キヤキヤ動けや!!!サボってんじゃねぇぞラァ!!!」



…ブッ殺してぇ。なんでこの俺がこんな野郎に使われなきゃならんの?俺は作業員じゃないんだけど?


ーー慎太郎の怒りが頂点に達しそうだな。

そしてそれを女たちは見ているだけだ。『大蛇』の連中は『女の子たちはやらなくていいよ。そっちで休んでて。こういう仕事は男の仕事だから。』とか言ってカッコつけている。女に優しくして自分たちの好感度でも上げようとしているのだろう。現に何名かの女たちは班長連中に靡き始めている。

でも当然ながら美波と牡丹はご立腹だ。大好きな慎太郎がこんな重労働をさせられていればイライラしないわけがない。特に牡丹は怒りがオーバーフローしかかっているのでいつ『大蛇』の連中全員を血祭りにあげるかわかったもんじゃない。

解放済みのゼーゲンを持っている為かなりの身体能力向上の加護を受けているから慎太郎の肉体は大して疲れてはいないがストレスが溜まりまくっている。



「全然作業が進んでねぇだろオラァ!!!テメェらやる気あんのか!?アァ!?」



ーー怒声をあげる班長たち。短気な慎太郎が一体いつまで我慢出来るのだろうか。

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