第391話 みんなの為にがんばるで!
【 楓・アリス・みく 組 1日目 PM 0:23 自軍 砦内大広間 】
「キャァァァァ…!?」
「うわァァァァ!?」
ーー時を同じくして楓たちのエリアでもイベントが開始した。だがこちらではどうやら様子が違う。大広間にて殺し合いが発生したようだ。
「や、殺りやがった…!!」
「マジかよ…!?」
ーー群衆の中心に血に塗れた槍を持つ2mを超える大男がいる。その足元には4人の男が腹を貫かれ倒れている。出血量と腹に開く穴の大きさや腸が飛び出ている様から察するに絶命しているのは間違いない。
「ククク。『虚空』なんざ大した事ねぇなぁ。ただ人数が多いってだけのダセェ奴らの集まりだ。」
「て、テンメェ…!!!イキナリ突いてきやがって何言ってやがんだッ…!!!」
ーー大男を取り囲むように16人の男たちが包囲する。その顔は怒りを伴ってはいるが、同時に恐怖にも駆られている。
「テメェらが悪ィんだろ?俺様に対して命令なんざしやがるからよ。俺様に命令する奴は全員死刑。俺様が気に入らねぇって思った野郎も死刑だ。」
「何メチャクチャな事言ってんだテメェーー」
ーー男が喋っていると大男が手にしている槍を振り払い、男の首を落とす。
「口喧嘩なんざしてんじゃねぇよ。」
「テンメェ、夏目ェェ!!ブッ殺してやんぞオラァァァァァ!!!」
ーー『大蛇』の連中が夏目に襲い掛かる。15対1という多勢に無勢な状況ではあるが夏目は気にする様子はない。槍を乱暴に振り回しながら攻め来る男たちを迎え撃つ。
夏目が力任せに槍を薙ぎ払うだけで周囲360度にいる男たちを払いのけ、立ち所に戦闘不能へと誘う。その威力はたったの一撃で腹を裂き、臓物が零れ落ちる程の大ダメージ。それを数回繰り返すだけで『大蛇』の連中は全員地に這いつくばった。
夏目は地に這いつくばる男たちを一人一人確認していく。殆どがほぼ即死の状態だが、中には生きている者もいる。それを見つけると夏目は嬉しそうに裂かれている腹の中に無理矢理手を入れ内臓を全て引き摺り出す。引き摺り出された男は断末魔の叫びを上げ、全身を痙攣させる。次第に痙攣は収まり、絶命した。夏目は全員の状態を確認するまでそれを繰り返す。
その光景に嘔吐する者や失神する者もいるが多くの者は次に夏目がどのような行動に移すのか警戒をしていた。
「な…なんなんアイツ…完全に頭おかしい奴やん…」
ちょっとあの夏目って奴はアカン。どう考えても危険や。ウチらが負けるとは思わへんけどあんなんと戦って無駄に怪我したりしたら洒落にならんで。それにアリスチャンはゼーゲン持っとらんから万が一の事があるかもしれん。ウチと楓チャンでちゃんと守ったらなタロチャンに顔向けでけへん。
ウチが夏目についての対策を考えていると楓チャンがウチの肩に手を触れる。ウチが振り向くと楓チャンが目線で合図を送って来る。ここから離れろって事だ。ウチは頷き一度夏目の方を確認する。まだ他のプレイヤーに意識が向いている訳じゃない。行くなら今や。
ウチらは大広間から音も無く立ち去る。楓チャンがアリスチャンを抱えて荷物をウチが持つ形だ。
大広間から少し距離を取ったらすぐに私たちは駆け出す。
「楓チャン、どないするん?」
「ここが砦だというなら必ず屋上がある。ひとまず屋上へ向かうわ。」
ウチらは階段を見つけ一気に駆け上がる。ゼーゲンによる身体能力向上があるから常人を遥かに超えた速度だ。前回のイベントでウチはゼーゲンを手に入れたから2段階解放になっとる。1段階解放なんか比べ物にならんほど身体が軽いし強い。タロチャンのおかげや。そのタロチャンに報いる為にもこっちのチームの誰も欠けんと必ず帰る。タロチャンはみんなの事を大切に思っとる。そんならウチが絶対それを守らなあかん。それがウチの使命や。
程なくして屋上へと着く。周囲は森に囲まれた視界の悪い場所。こんな所奇襲をかけられたらアカンのとちゃうやろか。立地は相当悪いでこれ。仲間内で争ってる場合やないやろ。周辺調査して見張り立てんと一気にやられるで。
「一面森だけ…これって良くありませんよね?闇に紛れて襲撃されたら一網打尽になっちゃうような…」
楓チャンに抱えられながらアリスチャンが口を開く。ウチと同じ事を考えたんやな。やっぱりこの子も賢い。タロチャンのクランはみんな凄い人ばっかりや。
「そうやね。ウチも同じ事思ってた。本来だったらこの対策を考えなアカンのに一体何やっとんねん。」
「本当よね。とんでもない組み分けにされちゃったわ。タロウさんたちは大丈夫かしら。あの夏目って奴のクランの片割れがタロウさんたちの方にいるわけなのよ。」
「だよね…タロチャンたち大丈夫やろか…」
「あの…みくさん。楓さんが言ってるのはみくさんが思ってる事とは違うと思います。」
「ん?どゆこと?」
「夏目って人のクランの人たちがタロウさんにちょっかい出すと牡丹さんが滅茶苦茶にしちゃうから大丈夫かな、って意味です。」
「前から思ってたんやけど牡丹チャンってちょっとヤンデレ入ってる?」
「ちょっとじゃないわよ。タロウさんが絡むとあの子は人格変わるから気をつけなさい。」
…うわぁ。やっぱりそうやったんか。そうかなーとは思ってたんだよね。そういえばタロチャン家に初めて転送された時ハサミで刺されそうになったよね。
えええぇぇぇ…コレあれやん。ウチがタロチャンのお嫁さんになったら牡丹チャンに殺されるやつやん。
「ま、タロウさんの所は牡丹ちゃんと美波ちゃんがいるから大丈夫でしょ。3人ともゼーゲン持ってるし、『神具』と”特殊装備”もあるし。」
「そうですね!」
「私たちは私たちの心配をしましょう。じゃ、オーダー言うわよ。みくちゃんはアリスちゃんの護衛ね。どんな時でも必ず離れないで側にいないとダメよ?アリスちゃんはゼーゲンが無いんだから普通の小学生でしか無い。一撃喰らっただけで良くて重傷、悪ければ死亡よ。みくちゃんにアリスちゃんは任せたからね。」
「まっかせといて!!ウチがアリスチャンをちゃんと守るから!!アリスチャン、ウチから離れんといてね?」
「はい!お願いします!」
「アリスちゃんのオーダーはみくちゃんから絶対離れない事。それと魔法は絶体絶命の状況にならない限りは使っちゃダメ。ある程度はアリスちゃんの判断で良いけど、合計で2回しか使えないなら極力温存しなきゃダメ。」
「わかりました!」
「そして私は前に出てガンガン敵を蹴散らすわ。役割がハッキリしていてかなりわかりやすいでしょ?ウフフ。」
楓チャンの実力ってどれぐらいなんやろ?楓チャンと牡丹チャンと蘇我クンは”闘神”の中でも別格なのは知ってる。”五帝”っていうオレヒスのトッププレイヤーの5人に選定されているぐらいだもんね。入替戦と時に戦いは見とるけど相手が弱すぎるから全然参考にならなかったもんなぁ。でもあれだけ強いタロチャンが”五帝”に選ばれてないんやから楓チャンと牡丹チャンはもっと強いんだよね?
ーーみくは慎太郎のカッコいいトコしか見てないからなぁ。みくを助けた時は”覚醒”の兆しが出ていたからだし、頭脳戦の時はリリのゼーゲンを手にしていたからだし。いつもは結構ダメダメだよ?
ウチも頑張らんとアカン。ウチかて”元闘神”や。決して弱いわけやない。もっと強くなってみんなの助けにならなくちゃ。
ーーこの子良い子だよね。他の面子は欲に駆られた浅ましい事をいつも思ってるけど、みくちゃんは違うもんね。普通にこの子好感持てるわ。
…足音が聞こえる。下から上がって来るもんがおる。
「楓チャン。」
「ええ。」
「どうしたんですか?」
「下から誰か来る。アリスチャン、ウチから離れたらアカンよ。」
「は、はい!」
ウチたちは警戒を強める。普通に考えれば下から来る奴は1人しかおらん。
「何逃げてんだテメェら?」
夏目だ。身体中に返り血を浴びている様はさながらホラー映画の殺人鬼みたいや。
「逃げる?なんであなた如きから逃げなくちゃいけないのかしら?」
楓チャン結構キッツイなぁ。なんかみんなの色んな面が見れるから新鮮やなぁ。
「お前ら、芹澤楓と綿谷みくじゃねぇか。”闘神”がいやがるとはな。映像で見るより遥かにイイ女だな。」
「ウフフ、ありがとう。それじゃそのまま下に戻ってもらえるかしら?私たちは私たちだけで勝手にやるからそっちはそっちで勝手にやってくれる?」
「そいつは無理な相談だな。俺は1番じゃねぇと気が済まねぇんだよ。俺様の胸に『紋』はねぇ。つー事はお前らのどっちかに『紋』があるわけだ。お前らブチのめせば俺が1番って事だ。」
「あなた何を考えているの?少なくとも私たちは同じ軍なのよ?それをさっきから身勝手な理由で人員を減らし、私たちにまで噛み付く。正気の沙汰じゃないわね。」
「別にテメェらは殺したりしねぇよ。俺様は女好きだからな。俺様の女にしてやる。テメェらは信じられねぇぐらいの上玉だ。特に俺様好みなのは綿谷みく、テメェだ。テメェは俺様の妻にしてやるよ。」
「ウフフ、みくちゃん、ご指名よ。」
「ちょっと楓チャン…笑えないんやけど…ウチって変な男にばっかり好かれとるやん…」
うぅ…三間坂といい笠原といいなんでウチは変な男にばっかり好かれるんやろ。…ん?でもタロチャンはウチの事好きゆーてくれたよね?だから考えるゆーてくれたんやもんね?ならいっか。タロチャンがウチの事好きならそれでいーや。
「オラ、そろそろ行くぜ。突かねぇように気ィつけっけど用心しとけよ。風穴を開いても治してやれねぇからなぁ。」
夏目が手にしている槍を構える。その神々しいフォルムを見る限りゼーゲンなのは間違い無い。
「悪いけどあなたに構うつもりは無いわ。」
ーー楓が”エンゲル”を発動させみくとアリスを抱え、上空へと羽ばたく。
「なんだそりゃあ…!?テメェ!!降りて来い!!!」
「こんなくだらない事をしてないで敵軍に対して備えるべきよ。戦いが始まれば参戦するわ。自分が何をすべきか精々考える事ね。」
ーー楓は2人を抱えたまま凄まじい速度で砦を離脱し森へと消えて行った。
「チッ…!!!芹澤の野郎…覚えとけ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます