第387話 会合 伍

ーー暗黒の空間の中に円卓と7つの椅子がある。時間が経過するとともにその椅子が1つ、また1つと埋まっていく。だが全ての椅子が埋まる前にその会合が始まった。



『揃ったようだな。では始めようか。まず、アインスの欠席によりオルガニ規定条項第96条を発動する。今回の会合は序列第2位の私、ツヴァイが進行役兼調整者とさせてもらう。異論はあるか?』



ーーツヴァイが全員の動きを見るが異論は出ない。それにより会合の進行を始める。



『では最初の議題についてだが新規イベントである頭脳戦で何か気になった点などはあったか?』



ーーツヴァイが皆に問う。



『割りかしイイイベントだったんじゃねェか。ガチのバトルが苦手な野郎でも知性が高けりゃァここで勝ち残れる。ゼーゲンももらえてガチのバトルも強くなれる。平等っちゃァ平等だ。』



ーーフィーアが大きい声で他を威嚇するような口調で述べる。



『ああ、私も同意見だ。頭脳戦は今後も続けていくべきだと思う。』



ーーフンフも頭脳戦について好意的な回答を述べる。



『わかった。決を取ろう。頭脳戦の継続化に賛成なモノは挙手を。』



ーー円卓に座するモノの全てが挙手をする。



『満場一致で可決とする。では次の議題についてだが…これに関してはアインスがいないと進められないな。』


『芹澤の件か?』


『ああ。『神具グローリエ』解放の件だ。』


『ログがねェからどういう経緯で『グローリエ』を芹澤に渡すようになったか知らねェがコイツはマズいだろ。『神具』が1つのクランに2つもあンだぞ?最早平等とはいえねェ。圧倒的に田辺のクランが最強だ。蘇我や天栄、矢祭らが束になっても勝てやしねェよ。』


『そうだろうか?』


『あ?』



ーーフィーアの言葉にフンフが異を申し立てる。



『芹澤や島村といえども所詮はひよっこだ。ゼーゲンの解放度から見てもそれは明白。とても『神具』の力を引き出せるレベルでは無い。”特殊装備”と同等と見て然るべきだ。その程度なら特に問題視する事でもなかろう。』


『そう言うようにアインスの野郎に命令されたのか?』



ーーフィーアがフンフに対しピリピリとする圧を解放させながら問う。



『私は客観的に述べているだけだ。それに大体からして何が問題なのだ?田辺のクランが勝ち上がり、それがオルガニの為になるならば何も不都合は無い。』


『田辺が”8番目の席”に座してもいいッてか?』


『ああ。』


『フンフよ、テメェにはガッカリだ。田辺程度がその域に達しているとでも?ふざけんじゃねェ。芹澤と島村のサポートを受けたって奴じゃァここに届かねェよ。仮に届いたとしても芹澤と島村は”贄”に使う予定だ。器じゃねェんだよ。現実的に”8番目”に座るのは天栄か矢祭だ。それか…”あの女”だな。』


『貴様は入替戦のログを見ていたのか?田辺は”覚醒”に入りかけている。それなら資質は十分。芹澤と島村の件も”贄”に拘る必要も無い。田辺が”8番目”になるなら芹澤と島村は”贄”から外す。それだけの話だ。』


『少し冷静になりましょう。この議題は我ら5名では重すぎます。アインスはもちろんの事、ドライを入れてからでないと決められませんよ。』



ーーフィーアとフンフの言い合いにゼクスが加わり仲裁に入る。



『そうですね。ゼクスの言うとおりですよ。この話は我々で議論するだけ無駄です。』



ーーズィーペンがゼクスを支持する。

それにより緊迫した空気がどうにか散ったようだ。



『では次の議題に行こう。後任のドライについてだ。』


『『何?』』



ーーフンフとズィーペンが声を荒げるような態度でツヴァイに向き直る。



『このまま”3番目”の席を空けておくわけにはいかないだろう。よって、私が独断で後任のドライを連れて来た。紹介しよう、入り給え。』



ーーツヴァイが入室を促し、闇の中から2人の男が現れる。




********************





ーー時は少し遡る。



ーーツヴァイ、フィーア、ゼクスの3名が豪華な造りの館にいる。

3人はある一室に向け歩みを進める。

そして目当ての部屋の前まで来るとツヴァイがノックをし入室する。



『失礼する。』



ーーツヴァイを先頭に室内に3人が入り込む。彼女たちの前にいるのは椅子に座る2人の男。否、少年だ。年の頃は16、7歳。東洋人風の整った顔。だが一番の特徴は同じ顔だと言う事だ。1人は優しそうな顔立ち、もう1人はそれとは対照的に苛々したような厳しい顔つきをしている。



『ああ、久しぶりだね。』


『久しぶりか?』


『久しぶりだよ。』


『そうか?』


『そうだよ。』



ーー双子が互いに声を出し合う。



『ツヴァイにフィーアにゼクスか。中身は同じだね。』



ーー優しげな顔をする少年がツヴァイたちに声をかける。



『ああ。』


『それで?僕たちに何の用?』


『ドライとして戻って来る気はあるか?』



ーーツヴァイの言葉に双子は互いに顔を見合わせる。そして少しの間の後に双子は笑い始める。



『フフフフフ、僕たちがかい?』


『フハハハハ、俺たちがか?』


『”ヴェヒター”に戻る?』


『”ヴェヒター”に戻れってか?』


『オルガニの評議員を殺した僕たちを?』


『オルガニのジジイをブチ殺した俺たちがか?』



ーー双子が腹を抱えて笑い転げる。座っていた椅子からは転げ落ち、芋虫のように地べたで蠢いている。



『ああ。私としては戻って来てもらいたいと思っている。』


『ふーん、僕たちの後任のドライはどうしたんだい?死んだ?』


『その地位を剥奪され、洋館にて幽閉されている。』


『フハハハハ!!オイオイ!!何やらかしたんだよそいつは!!”3番目”ってのは異常者が就く席なんじゃねぇか?』



ーー双子の内、鋭い目つきの少年はそれが面白いのか上機嫌だ。



『目的はなんだい?理由もなくキミが僕たちを戻そうとはしないだろう?』


『アインスに対する備えだ。奴はフンフ、ズィーペンを抱き込み、現状の過半数を取っている。これでは”ヴェヒター”が機能しなくなってしまう。』


『ふーん、アインスか。彼もそのままなんだろう?』


『ああ。』



ーー双子の内、優しげな顔をする少年が目を閉じ思案する。そして、



『条件がある。』


『何だ?』


『僕たちのリッターである天音と志乃を解放してもらおう。もちろん爵位も当時のままで。』


『わかった。いいだろう。』


『それともう1つ。僕たちがドライとして戻る事だ。』


『あァ!?何言ってんだテメェ!?』



ーーフィーアが激しく激昂する。



『黙って聞いてりゃァいい気になりやがって。剥奪されたテメェが復職するなら最下層からに決まってんだろうが!!』


『悪いけど僕たちは自分たちより弱い奴らの下の番号ではいたくない。嫌なら帰っていいよ。』


『フハハハハ!!帰れ帰れ!!雑魚に用はねぇよ!!』


『テメェら…』



ーーフィーアから禍々しいまでのオーラが溢れ出る。だがそれをツヴァイが制止する。



『やめろフィーア。ここは堪えるんだ。アインスが”ヴェヒター”を手中に収めたら私たちは失脚する。そうなれば今の地位も無いのだぞ。』


『…チッ!!!』



ーーツヴァイの説得によりフィーアがどうにか堪える。



『条件を飲もう。それでいいか?』


『交渉成立だ。』




********************




ーー闇の中から双子の少年たちが現れる。



『貴様たちは…!?相馬光!?相馬闇!?生きていたのか!?』



ーーフンフが珍しく余裕の無い口調で驚く。



『酷い言われようだね。そんな簡単に死ぬ訳ないじゃないか。』


『お前如きと一緒にすんじゃねぇよ。俺たちがあんなトコで幽閉されたぐらいで死ぬかってんだ。』



ーー光と呼ばれる少年が席に座り、闇という少年が地べたに座る。



『僕たちがドライに戻る審議は必要ないよね?過半数取れるんだからするだけ無用だよ。ツヴァイ、次回の会合までには闇の椅子も用意しておいてね。』


『わかった。』


『…なるほど。アインスのいない時を狙って駒を進めたか。流石はツヴァイ。』


『人聞きの悪い事を言わないでくれ、フンフよ。私は正当に行っただけだ。ドライが空席なのは問題だからな。』


『フン、そういう事にしておいてやる。ならばもう解散だろう?先に失礼させてもらう。』


『あ、待ってもらえるかな?』



ーーフンフが席を立とうとするのを新たなドライである相馬光が止める。



『次のイベントについてやってみたい事があるんだ。あの部屋で幽閉されていると退屈でね。いろんなイベントを考えちゃったよ。』


『次のイベントはバディイベントに決まっている。』



ーーフンフが不愉快そうな物言いで光の言葉を却下する。



『なら明日にでもゲリライベントでやればいいよ。それが俺'sヒストリーのウリでもあるんだから。あ、キミが却下しても多数決で可決されるから無駄だけど。』


『…勝手にしろ。失礼する。』



ーーフンフが空間から離脱する。それを見たズィーベンもそれに追従する。



『フハハハハ!!オイ、光!!テメェが煽るからシャーナがキレちまってんじゃねぇか!!』


『煽ったつもりはなかったんだけどね。ま、いいや。ツヴァイ。』


『何だ?』


『そういう事だけど明日始めてもいいかな?』


『間に合うのか?』


『大丈夫だよ。内容はキミたちに伝えた通り。報酬はゼーゲン。”両サイド”の最優秀プレイヤーには”特殊装備”を進呈って事で。』


『わかった。そのイベントに関してだけはお前たちの仕切りで任せるとする。以上。』



ーーツヴァイの終了宣言によりツヴァイ、ドライが空間から姿を消す。



『フィーア?どうした?』



ーー離脱しようとしていたゼクスがフィーアに声をかける。いつもいち早く離脱するフィーアが残る事に違和感を感じたのだろう。



『相馬の野郎もツヴァイもアインスも気に入らねェが俺は芹澤が一番気に入らねェ。』


『芹澤?島村と2人ではなくてか?』


『あァ。芹澤に『グローリエ』をやったのはアインスだ。』


『それだから気に入らないと?ならば島村とて同じではないか?』


『俺ァな、ハナっから芹澤の”闘神”入りは反対だった。それをアインスとツヴァイが無理矢理捻じ込みやがったんだ。』


『いや、それは実績だから仕方ないでしょう。特に不正が働いているとは私は思わないが。』


『そんなモンが理由じゃねェよ。なァ、カルディナ。』



ーーフィーアの呼びかけに闇の中から金色の綺麗な髪色をした整った美しい顔の女性が現れる。ただ顔が綺麗なだけでは無い、品格や風格も兼ね備えた凛々しい女性だ。



「ジェラルド、声が大きいわ。貴方はもう少し品性を身に付けなさい。」


『チッ、テメェはいつもうるせェな。』



ーーフィーアがカルディナに窘められるがいつものような不機嫌な感じは見受けられない。2人には相応の絆があるようだ。



『ラントグラーフの爵位を与えられし貴方のリッターが芹澤と何かあるのですか?』


「ゼクス様、彼女と私は知り合いなのです。」


『知り合い?』


「ええ。」


『だから気に喰わねェんだよ。俺ァ自分のリッターは全員家族だと思ってる。当然だ。”あの戦いを生き残り、勝ち上がった”ンだからなァ。』


「別に目くじらを立てる程の事では無いわよ。」


『あァ?俺はテメェの為を思ってーー』

「ーーはいはい。」



ーーまたフィーアがカルディナに窘められる。



「でもそろそろ一度彼女には挨拶をしておくわ。この新しいイベントなら会いやすいだろうし。」


『殺ッちまっても構わねェぞ。』


「そんな事はしないわ。今わね。」


『フィーア、貴方が何を考えているかは私には関係無い。だが、オルガニの教義に反する事だけはしないで下さいよ。』


『わァってるよ。』



ーーその言葉を最後に3名が姿を消す。



ーーそれぞれの思惑が重なる中、慎太郎たちはただ前へと進むしかない。

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