第386話 言葉の裏側

牡丹が泣くので仕方なくラブホに入った俺たち。心臓がバクバク言っている。おまわりに見つかったらってのもあるけど人生初のラブホに興奮している。そりゃこんな可愛い子と一緒に入ってたら興奮しない方がどうかしている。



「中はこのようになっているのですね…」


「…うん。」



入口はペンションみたいな作りで、ドアを開けるとすぐ横に精算機みたいな機械が設置されている。部屋の中は大きいベッドと大きなテレビ、ソファーとテーブル、冷蔵庫、そしてスロットマシンがある。俺が一番最初に目についたのはヘッドボードの所にあるコンドームだ。生々しい。2個置いてあるよ。足りねぇんじゃねぇの。いやいやいや。何言ったんだよ俺。使わないっつーの。



「……ラブホテルに来た事ありますか?」


「あるわけねーじゃん。あったら童貞じゃないっての。」


「ふふふ、そうですか。私とが初めてですか。」



その嬉しそうな顔をやめろ。俺の理性が保っていられなくなる。

他にも部屋があるから探索しよう。意識を逸らすんだ。

他に2つドアがあるのでその内の1つを開けてみる。浴室だ。洗面所がある。大きい鏡があるが別にいやらしさは無いな。普通のホテルみたいだ。浴室にも2つドアがあるのでその内の1つを開けてみる。トイレだ。もう1つも開けてみる。サウナだ。サウナ室だ。



「お、サウナじゃん。」


「このような設備もあるのですね。後で一緒に入りましょうか。」


「そうだね。あ…」



ーー時すでに遅し。サウナなんだから裸になるの確定ですね。もっとアンタは考えてから返事しなよ。


…仕方がない。サウナならバスタオル巻けばいい話だ。落ち着け、クールになれ。もう1つ残ってるドアを開けに行くぞ。


ーーベッドのある部屋に戻りもう1つのドアを開ける。すると、



「……。」



ーーヤバイ部屋だった。

薄暗い黒を基調とした部屋で、壁に鎖が繋がった手枷が設置されているし、三角木馬や後背位セットマシンも置いてある。


…ええぇぇ。流石にこんな趣味ねぇんだけど。ラブホってこんな感じなの?わりかしドン引きなんだけど。牡丹なんか声も出ないじゃねぇか。絶対怯えてるだろ。


ーー牡丹をチラリと見る慎太郎。でもその時に慎太郎は思った。

『あの鎖で牡丹の手を拘束すれば腋見放題だよな。』


ーーとんでもない変態である。



「これがラブホテルなのですね。」


「そうだな。」


「タロウさんも私をあそこに拘束したいですか?」


「えっ!?」



ーー心の中を見透かされたような牡丹の問いに慎太郎は大きく反応してしまう。その態度は明らかに拘束してみたい気持ちが見え見えである。



「良いですよ。あなたがしたい事を私にして。」


「しないしないしない!!はい!!この部屋禁止!!ソファー行くぞソファー!!」



ーー慎太郎は牡丹の手を引き急いでSM部屋から立ち去った。




********************




……やっべぇ、どうしよう。めちゃめちゃ意識しちゃってんだけど。注文したメシの味もわかんねーし、日中のフラワーパークや松本城の記憶なんて完全に消去されちまってるよ。とりあえずテレビでも点けよう。そうすればこの変な空気も消え去るかもしれん。お笑い番組とかやってねぇかな。



ーー慎太郎がリモコンを取りテレビを点ける。



『あっあっあっ…♡ダメ…ダメ…ダーー』



ーー慎太郎が急いで電源を切る。



えっ!?何!?何でエロビデオがかかってんの!?


ーーこういう所はアダルトチャンネルに設定してる所が多いらしいよ。



「ふ、風呂入ろうか!?汗かいてるでしょ!?準備して来るから先に入りなよ!!」



ーーパニクりまくりの慎太郎が立ち上がり風呂の準備をしようとする。だが牡丹が慎太郎の手を掴みそれを止める。



「牡丹…?」


「タロウさん、私は今日、勇気を出してここへ貴方をお誘い致しました。」



ーー決意を持った表情をする牡丹。それを見て慎太郎も冷静さを取り戻す。



「こんなはしたない真似をする私を軽蔑されるかもしれませんが、私は貴方と一緒になりたい。私と契りを交わして頂けませんか?」




ーー沈黙が続く室内。


ーー慎太郎は考えている。



…コレって早い話がヤリましょうって事だろ?どうしよう。正直ヤリたい。でもそれはなぁ…だからといって一晩中耐えられるかって言われたってそれは無理だよ。牡丹からアプローチされたら絶対無理。

でも…俺の牡丹に対する気持ちってそんなモンじゃないだろ。気持ちもハッキリしてないのにヤルなんて身体目当てじゃん。そんないい加減な気持ちで牡丹と一緒にいるわけじゃない。きちんと伝えよう。



「牡丹、ごめん。それは出来ない。」


「…どうしてですか?」


「ケジメをつけてないのにそんな事は出来ない。」


「ケジメ…ですか?ケジメというのはつまり…あの事でしょうか?」


「ああ。アレの事になる。アレをちゃんとやらない内にそんな事は出来ない。それは牡丹に対して不誠実だし、身体目当てみたいだ。俺はそんな事は出来ない。」



ーー牡丹が少し考えるようなそぶりを見せてから口を開く。



「タロウさんのお考えとして契りを交わすならそれが済んでからという事と捉えて宜しいでしょうか?」


「うん。融通の利かない考えかもしれないが俺にはそれが済んでからじゃないと出来ない。」



ーー牡丹がまた考えるようなそぶりを見せる。そして、



「私は焦りすぎていました。貴方の気持ちを頂きたくて、形にしたくて。でも私は貴方からもう頂いているのに。欲張りですね。」


「そんな事ないよ。」



ーー慎太郎が牡丹の頭を撫でる。



「わかりました。それが終わるまでは我慢します。寧ろそれが本来の姿ですものね。」


「ありがとう。なるべく早くするからさ。」


「いえ、今はオレヒスで忙しいと思いますので焦らないで下さい。ゆっくりと決めていきましょう。」


「そう言ってもらえると助かるよ。牡丹、これからもよろしくね。」


「はい、宜しくお願い致します。」



ーーおわかりだろうか?

やけに牡丹の物分かりがいいと思わないだろうか?牡丹は決意を持って今回のお泊まりイベントに臨んだ。それなのにあっさりとし過ぎている。当然それには理由がある。

では、この会話の補完バージョンを見てみよう。




【 補完バージョン 】



「牡丹、ごめん。それは出来ない。」


「…どうしてですか?」


「ケジメをつけてないのにそんな事は出来ない。」


「ケジメ…ですか?ケジメというのはつまり…あれ【結婚】の事でしょうか?」


「ああ。アレ【みんなの中から1人を選ぶ】の事になる。アレ【みんなの中から1人を選ぶ】をちゃんとやらない内にそんな事は出来ない。それは牡丹に対して不誠実だし、身体目当てみたいだ。俺はそんな事は出来ない。」



ーー牡丹が少し考えるようなそぶりを見せてから口を開く。



「タロウさんのお考えとして契りを交わすならそれ【結婚式】が済んでからという事と捉えて宜しいでしょうか?」


「うん。融通の利かない考えかもしれないが俺にはそれ【選ぶ事】が済んでからじゃないと出来ない。」



ーー牡丹がまた考えるようなそぶりを見せる。そして、



「私は焦りすぎていました。貴方の気持ちを頂きたくて、形にしたくて。でも私は貴方からもう頂いているのに【婚約指輪を】。欲張りですね。」


「そんな事ないよ。」



ーー慎太郎が牡丹の頭を撫でる。



「わかりました。それ【結婚式】が終わるまでは我慢します。寧ろそれが本来の姿【初夜で処女を捧げる】ですものね。」


「ありがとう。なるべく早くする【みんなの中から1人を選ぶ】からさ。」


「いえ、今はオレヒスで忙しいと思いますので焦らないで下さい。ゆっくりと決めていきましょう【式の日程や新居などなどを】。」


「そう言ってもらえると助かるよ。牡丹、これからもよろしくね。【仲間として】」


「はい、宜しくお願い致します。【夫婦として】」






ーーこれがそれぞれの言葉の裏側である。

だけどこれは慎太郎が悪いね。指輪なんかあげるんだからこう思ってもおかしくない。




「ですが…せめて少しぐらいは…したい事があるのです…」



ーー牡丹が頬を染め、身体を少しくねらせながら恥ずかしそうに慎太郎におねだりをする。それを見た慎太郎はムラムラっときて今言った言葉を撤回しそうになるがどうにか堪える。



「ん?なんだ?」


「一緒に…お風呂に…入りたいです…」


「……バスタオル巻いちゃダメなやつで?」


「はい…」


「……それぐらいなら。」


「宜しいのですか!?」


「……うん。」


「洗いっこは…?」


「……薄暗くしてもいいなら。」


「は、はい…!!」



ーー慎太郎はみくとの一件があるので後ろめたい気持ちがある。その為牡丹の申し出を断る事が出来なかった。


ーーこうして慎太郎と牡丹の一泊旅行は幕を閉じるのであった。


ーー余談だが、ラブホにボディータオルは無いのでお互い素手でお互いの身体を洗いっこした。慎太郎の理性は崩壊しかけながらもどうにか堪え、耐えた。

当然寝る時は腕枕をし、イチャラブしながら寝るのであった。


ーー死ねばいいのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る