第388話 リリの想い

牡丹との一泊旅行を終えて家に帰って来た日の深夜、俺はリリに呼び出され、いつもの待ち合わせ場所へと急ぐ。田舎の町なのでこの時間に人はいない。その為俺が駆ける度にタッタッタッという音が無音の町に響き渡る。

湿度が高く蒸し暑い夏の夜。俺の身体はすでに汗でビショビショだ。でもそんな事は御構い無しにひたすら走る。

そしていつもの公園に到着する寸前、公園内にリリの姿を確認する。リリを見つけた俺は胸が熱くなる感覚を確かに感じた。



「リリ!!」



俺が彼女を呼ぶと彼女もそれに気付く。

俺はリリとの距離を一気に詰める。



「フフフ、なんでタロウはいつも汗びっしょりなの〜?」


「あ…ごめん…汗臭いよな…」



しまった…何の考えも無しにこのクソ暑いのに全力で走っちまったよ…汗臭くて堪んないよな…


だがそんな事を思っている俺をよそにリリが俺に抱きついてくる。



「臭くないよ。ちょっとベタベタするけど。」


「…ごめん。」


「謝りすぎ。別に嫌じゃないし。嫌ならこうしたりしないよ。」


「…おう。」


「そんなにリリちゃんに会いたかった?」


「会いたかった。」


「そっか。」


「おう。」


「リリちゃん愛されてるな〜。」



軽口を聞くように話すリリ。だが俺の身体に彼女の心臓の鼓動が早くなっている音が聞こえている。



「あれから何事も無い?」


「大丈夫だよ。」


「本当か?」


「うん。アインスには会いに行ったけど黙ってるって言ってた。だから…大丈夫だと思う。」


「…何かあったら絶対に言ってくれ。”何があっても俺がキミを守るから。もうあの時のようにはしない。今度こそ必ずキミを守る。”」


「…うん。”もう離れたくない。今度こそアナタと一緒に生きていきたい。”」


「…あれ?今なんて言ってた?なんか頭がボーッとして記憶が飛んでんだけど。」


「…リリちゃんもなんだけど。もしかしてタロウ、リリちゃんに一服盛った?いや〜ん!変な所に連れ込まれてチョメチョメな事されちゃう〜!!」


「しねーよ!!」



全くリリは昔からこうだから参る。



「さてと、そんじゃ修行しようか。」


「切り替え早いなおい。」



俺たちはラウムからゼーゲンを取り出し切り返しを行う。

小一時間ほどリリから稽古を受け、俺たちはベンチに座った。



「暑っちぃ…汗だくだくなんだけど…」


「タロウはまだまだだね〜。リリちゃんなんか全然汗かいてないよ〜?」



見てみるが全然汗をかいていない。俺は着ているシャツ全部が汗を吸ってビショビショなのに。パンツまでぐっしょりだよ。風呂入りてぇ。



「これが目に見えてわかる俺とリリの差かぁ…」


「そんなに落ち込まなくてもちゃんとタロウは成長してるよ。現に呼吸がだいぶ読めてきめるじゃん。」


「そうか?あんまりわかってない気がするけど。」


「ん〜…それじゃ確かめますか。」


「えっ?ちょっーー!?」



リリが強引に俺の頭を掴んで引き寄せる。当然近づくリリの唇。俺は抗う事を許されず、リリとキスを行う。当たり前のように舌が俺の口内に侵入する。意志の弱い俺はリリの舌を受け入れ、自分の舌と絡ませあい、リリを感じる。

それが数分続いた後にどちらからでもなく唇を離す。



「どう?前より感じる?」


「その言い方。まあ…前よりもリリを感じるのは確かだな。」


「成長してる証だよ。」


「師匠にお褒め頂き光栄です。てかリリの服湿っちゃったじゃん。こんな汗だくの身体にくっつくから。」


「別に気にしないよ。」


「そっか。」


「うん。」



そう言ってリリが俺に抱きつく。



「リリ?」


「…次のイベントは気をつけて。次のイベントは多くの人が死ぬ。タロウだってわからない。他のクランメンバーだって。」


「死ぬってどういう事だ?オレヒスの中でって意味?」


「タロウはまだわかってないんだね。オレヒスで死んだら現実世界でも死ぬよ。これはゲームではないから。」


「…やっぱりそうか。そうじゃないかとは思ってたんだよな。」


「でも気にする事はないよ。殺さなきゃこっちが殺される。正当防衛だから。」


「大丈夫。ある程度は割り切ってるから。それで次のイベントで多くの人が死ぬってのは?」


「私に通達があった内容は新イベントだという事と、その概要。1つのエリアに2000人が集められて1000人と1000人に分けられる。それを互いに殺し合うって内容。クランは半分に分けられるからタロウたちは3人と3人に分けられて違うエリアでそれぞれ生き残らないといけない。」


「規模が凄いな。バディイベントに似たような感じなわけか。」


「勝利条件とかはまだ決まってないみたいだけど私が知っているのはスキルは無し、ラウムの使用も無しって事は知ってる。」


「キツイなそれ。それっていつやるの?」


「明日。」


「そっか。」


「タロウ、死なないで。」


「もちろん。死ぬつもりなんかないよ。」


「組み分けは運だけど、タロウと牡丹ちゃんが離れたら多分クランの誰かは死んじゃう。タロウと牡丹ちゃんの『神具』が生命線だから。当然楓ちゃんもバラけないとダメ。タロウと牡丹ちゃん、楓ちゃんが組みになったら反対の組みは全員死ぬ。」


「そこは祈るしかないな。」


「でも…タロウだけは私が守るから…どんな事をしてでも。」


「ありがとう。でもリリは無理しないでな?自分の身は自分で守るから。リリは自分を優先に考えてくれ。」


「…うん。わかった。じゃあそろそろ戻らないと。」


「おう。ありがとうな、リリ。」


「ど〜いたしまして。」



俺たちは抱き合う手を離し、そのままリリは立ち上がる。



「またね、タロウ。」


「またね、リリ。」



俺はリリと別れ、公園を出る。

明日やるイベントがヤバいってのはよくわかった。だけど俺は美波も楓さんもアリスも牡丹もみくも失う事は絶対しない。必ず誰1人欠ける事なくここに戻って来る。














「私が絶対あなたを守るから。”また”この命を失う事になったとしても」

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