第371話 私の設定最高ね
「…ちょっ、どしたの楓?席座りなって。」
ーー未央が楓の袖をグイグイ引きながらなだめようとする。周りの級友たちは普段見せない楓のテンションに驚いて凝視している。
「芹澤さん、どうしましたか?席に座りなさい。」
ーー楓は担任の一言によりようやく自分を取り戻す。それと同時に次第に恥ずかしさが込み上げて来た。
「す、すみません…」
私は席に着く。想定外の事態に我を忘れてしまったわ。恥ずかしい。
「その驚き方を見ると貴女も知らなかったようですね。」
「はい…?」
何を言っているのかしら。意味がわからないのだけれど。
「田辺先生は我がクラスの芹澤さんの親戚にあたる方だそうです。」
「えーっ!?」
「そうなの!?」
「美形だもんねー。」
教室内が再び騒がしくなる。彼女たちが騒いでなかったらまた大声出す所だったわよ。何よその設定。美波ちゃんたちと全然違うじゃない。絶対私の反応見て面白がってるわよね。
「へーっ。楓の親戚にあんなカッコいいお兄さんいたんだね。」
「え、ええ。」
とにかく今はこの設定に合わせるしかないわ。変な態度をとってみんなに怪しまれても困るものね。
「ショートホームルームの時間が来てしまいましたね。田辺先生には英語を担当して頂きます。それと、ロングホームルームの時にクラスマッチの出場種目についてのメンバー決めを行います。以上。それでは授業に備えて下さい。」
担任とタロウさんが出て行く。あの浮気者私の事全然見てなかったんだけど。なんか…イラっとするわね。
********************
昼休み、私はタロウさんを連れて人目のつかない理科準備室へやって来た。きちんと経緯を聞かないと。話はそれからよ。
ーー冷静に振る舞う楓だが、慎太郎が自分を無視した事に結構ご立腹なのであった。
「…で?どういう事ですか?」
ーー鈍い慎太郎だが楓が若干怒ってるのを察知し、様子を伺う。
「なんか楓さん怒ってます…?」
「…別に。」
「怒ってるじゃないですか…俺、なんかしました?」
「…自分の胸に聞いてみればいいんじゃないですか?」
「ええ…」
ーースネると楓は結構面倒くさいのだ。
「すみません…わからないです…機嫌なおして下さいよ…」
「…朝のキスは?」
「えっ!?」
「ふーん、約束破るんだ。」
「いや…ここではマズいじゃないですか…」
「あっそ。ならもういいです。」
ーーめんどくさいモードの楓が不機嫌極まりない感じで理科準備室から出ようとする。それを慎太郎が制止する。
「待って!待って下さいよ…わかりましたよ…」
「……。」
ーー不機嫌モードの楓を抱き寄せ濃厚なキスをする。34のオッさんがJC2年に。コレ通報案件じゃん。
「…機嫌なおりました?」
「…抱き締めが足りないんじゃないかな?」
ーーいつもの楓ならそこまでワガママは言わないが、楓は今は14歳なのである。だから結構ワガママなのである。
それでも慎太郎は甘いから楓の要求を無言で受け入れキツく抱擁する。それによって楓はニマニマして満足するのであった。
「…どう?」
「ま、こんなもんかな。許します。」
「…ありがとう。何で怒ってたんですか?」
「私の事無視したから。」
「あー…教室での事ですか?それは気を遣っただけじゃないですか。」
「ふーん。」
「まだ怒ってます…?」
「後で色々してもらうから許します。」
「色々って何!?」
ーーシーン中である事を忘れてんじゃないのアンタら。危機感ないよね?
「それで、どういう事ですか?タロウさんが私の親戚で雛鳥学園の教師という設定はどこから?」
「これです。」
タロウさんが私にカードを差し出す。私はそれを手に取り確認する。
【 田辺慎太郎の役割は芹澤楓の親戚として、雛鳥学園の教師を担って頂きます。 】
「近くの公園で寝て起きたらスーツのポケットにそれが入ってたんです。」
「私はてっきり美波ちゃんたちと同じで私の家から同級生としてスタートするのかと思ってました。」
「雛鳥学園は女子校だから無理だったんですね。でもこの方が俺はいいと思います。」
ーー慎太郎の言葉に楓がちょっとムッとする。私と一緒に学園生活を送りたくないのかよ、と思ったからである。
「どうしてですか?」
「子供の身体じゃ出切る事も限られるし、体力にも差が出る。だけど俺が大人なら楓さんを守ってあげられる。だからですよ。」
ーーキリッとした顔で慎太郎がそう言うので楓は滅茶苦茶嬉しくなり、ニマニマする顔を堪えるのに必死だった。数秒前まで不機嫌になりかけてたのにチョロい女である。
「そろそろ昼休みも終わりですね。また後で話しましょうか。」
「後って、タロウさんは今日からドコに寝泊まりするんです?」
「あ…財布無いんですよね…どうしよう…」
「私の実家に来て下さい。」
「え?いや…それは…仮にも教師と生徒ですよ?かなりマズいんじゃ…」
「親戚設定なんだからおかしい事ないですよ。それとも野宿したいんですか?お風呂に入れませんよ?」
「それは嫌です。」
「なら選択肢はありませんね。」
「まあ…いっか。」
ーーいいわけねーだろ。本当にお前はだらしが無い奴だな。
「仕事は何時までですか?」
「今日は部活が無いらしいんで18時までですね。」
「それじゃあ時間になったら迎えに来ます。」
「あー、それじゃ近くにコンビニあります?そこを待ち合わせ場所にしましょう。」
「正門まで来ますよ。」
「え?誰かに見つかりますよね?ダメじゃないですか?」
「なんでですか?私たちは親戚なんですから何もおかしくありませんよ。寧ろコンビニで待ち合わせる方が不自然です。」
「そう言われればそうかも。」
ーーお前さ、楓にいいように誘導されてない?
「じゃ、時間になったら来ますね♪」
「わかりました。」
「それじゃ、先に戻ります。また後で♪」
「了解です。」
ーー楓がめっちゃご機嫌で理科準備室から出て行く。慎太郎と一緒に実家で暮らせる事にご満悦である。それに、楓がお気に入りの漫画である『教師と生徒のイケナイ恋』の設定に似ている事で胸がドキドキのワクワクになっていたので嬉しくて堪らなかった。
「…学校終わったらシャワー浴びとこ。」
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