第370話 私のシーンだけおかしくない?

車に揺られること30分ぐらいで私の母校である雛鳥学園中等部へと着く。中等部に来るのなんて9年ぶりね。前回のシーンでは初等部だったし。


ーー昔を思い出しセンチメンタルな気分になる楓だが慎太郎がいない事にイライラしてる感情は一向に消えない。


あの浮気者は本当にどこに行ってるのかしら。まさか得意の不具合で私しかシーンに参加出来てないなんてオチじゃないでしょうね。それとも茨城からスタートしてるとかかしら。


色々と考えている中、車が中等部正門へと着き、運転手の松原さんが後部座席のドアを開ける。



「到着致しました。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」



私は開けられたドアから出る。ボディーガードの中西さんと吉村さんはもう外に出て周囲の警戒をしている。



「ありがとうございました。」



私は3人にお礼を言い、正門を潜る。まず初めに目にとまるのは大きな噴水だ。その噴水から枝分かれするように各施設に続く道がある。ここは中等部のみがある専用地だ。中等部校舎以外に体育館、カフェ、各種競技場、宿泊施設や娯楽施設まである。物凄くお金がかかってる場所よね。

背後から続々と生徒たちが自家用車で登校して来る音が聞こえる。自分ではあまり言いたくないけど雛鳥学園は超お嬢様学校だ。入学するのに学力や資産だけだはなく家柄も問われる。そんなお嬢様たちなのだから運転手付きの自家用車で登校するのは当たり前なのだ。私はそういうのは好きじゃないけどね。

私はそれを乾いた目で見つめていると見慣れた黒塗りの車から降りて来る少女がいる。未央だ。私は嬉しくなり一目散に来た道を駆け戻る。



「未央お嬢様、お気を付けて。」


「もーっ!お嬢様はやめてって言ってるじゃん!」


「私にとっては未央お嬢様はお嬢様ですのでそうお呼びするのが適切かと。」


「山じいは融通きかないよね!?」


「未央!!」



お付きの山縣さんと言い合いをしている未央に私が声をかける。



「お!楓おは!」


「おはようございます、楓様。」



私に気付いた未央と山縣さんが挨拶をする。



「おはようございます、山縣さん。おはよう、未央。」


「ちょっと聞いてよ楓!山じいは酷いんだよ!私の言う事聞いてくれないの!」


「言う事を聞くだけが私の業務ではございませんので。」


「ウフフ、相変わらず仲が良いのね。」



彼女は花山院未央。幼稚舎からの付き合いである私の親友だ。未央はとても気さくで明るい性格。それに家柄によって態度を変えたりしない人だ。雛鳥学園はお嬢様学校ではあるが、当然格というものが存在する。家柄によって学校内の序列が形成されるのだ。花山院家は非常に格式高い家柄だが学校内カースト下位の生徒たちにも差別する事無く振舞っている。未央は私の自慢だ。



「未央お嬢様。そろそろ始業のお時間です。早く行かれた方がよろしいかと。また遅刻されたら次は旦那様に報告させて頂きます。」


「ぐぬぬぬ…すぐに父様を持ち出すのは山じいの悪いトコだよ…!!」


「未央お嬢様の素行の悪さを正すのも私の業務でございます。」


「はいはいはい!行ってきます!行こっ、楓!!」



未央が頬を膨らませながら私の手を引き校舎へと向かう。私は山縣さんに会釈をし、その場を後にする。



「山じいには本当に困ったもんだよ!」


「山縣さんは未央の事を大切に思っているから言っているのよ。」


「それはわかってるんだけどね。でもお嬢様って言われるのは私は好きじゃないからさ。」


「気持ちはわかるけど立場があるのよ。それは理解してあげないと。」


「はーい。なんだか楓機嫌良さげだね?なんかあった?」


「未央に会えたからかな。」


「楓は私の事大好きだもんねー。」



私たちは笑い合う。本当に幸せな時間。このままの状態で私がここにいられるなら未央をあんな目に合わせたりしないのに。絶対歴史を変えてみせる。私が必ず。




********************




教室に着いた私と未央は自席に着く。私たちはちょうど隣同士の席だ。私のクラスは2年A組。2年の生徒は全部で200名。各クラス20名ずつ配置されるので全10クラスだ。この学校は学力によってクラス分けされる。学力が高い順にAからJまでのカテゴリーに分けられ、それに一切の家柄補正はされない。完全実力制だ。ま、クラス内には家柄によるカースト制が敷かれてはいるけど。



「ホームルーム始まってるのに先生来ないね?」



未央が私に話しかけてくる。確かにそうだ。この学校は時間の縛りが非常に厳しいので遅れる事なんて殆どありえない。何かあったのだろうか。あの浮気者も依然として現れないし。まさか女子になって参戦したりしないわよね。女体化したタロウさんなんてイヤよ。私は女の子が好きなわけじゃないんだから。


ーー美波と百合ってる感じになってる事に対して自覚はないのだろうか。



「臨時の職員会議でもやってるのかしらね。」



とりあえずはこの時間を使ってシーンクリアについて考えよう。タロウさんの行方も探らなきゃいけないけど今一番考えないといけないのはシーンのクリア条件よ。『勝利を掴め』というのが何の事を指しているのか調べないといけない。期日がわからない以上はこの後すぐにその対象シーンが出て来る事だってありえる。失敗したらどうなるかわからない以上は情報収集に重点を置かないと。それにタロウさんならきっと大丈夫。だって私が認めた唯一の男性なんだから。



ーーガララッ



ーー楓が窓の外を見ながら思案していると教室の扉が開く。すると教室内がどよめき始める。



「えっ!?」


「キャー!?」


「誰々!?」



ーー教室内に女子の黄色い声が響き渡る。



「おっ!凄いカッコ良いお兄さんがいますな!楓ねーさんはどう思いますかい?」


「ん…?私は興味無いわ…」


「相変わらずクールだねぇ。」



未央が私に話を振って来るけど男の事なんてどうでもいいわ。私はタロウさんにしか興味無いし。



「はい!!静かにしなさい!!」



担任の緑川先生が教室内のざわめきを制止する。なんだかしらないけどやたらうるさいものね。どうせ若い教師でも来て興奮してるんでしょ。所詮は中学生よね。



「まったく。節操がありませんよ。雛鳥学園の生徒でしたら清く美しくありなさい。」



ーー担任にたしなめられ、小娘たちがおとなしくなる。



「では紹介致します。諸事情により到着が遅れていました我がA組の副担任の先生です。」


「初めまして。副担任の田辺慎太郎です。」


「ええっ!?」



ーー外を見ていた楓が凄い勢いで首を教卓へと向け、反射的に立ち上がる。クールな楓が凄く大きい声を出す事でクラス中の人間が一斉に楓をガン見する。


ーー役者は揃い、本当の意味で楓のシーン攻略戦が始まる。

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