第372話 参加競技決め

6限目、ロングホームルームの時間だ。朝のショートホームルームの時に言われた通りクラスマッチの参加種目について話し合われている。副担任なので当然タロウさんもいる。私はジーッと彼を見る。私の視線に気づいたのか彼が私の方を見る。あ、すぐに目逸らした。浮気者め。後でお仕置きだ。



「なんか熱っぽい目で見てるねぇ。」



隣の席の未央が話しかけてくる。しっかり見られていたのだろうか。なんか恥ずかしい。



「何を?」



私は惚けたような態度で未央の言葉を躱す。職業柄こういうのには慣れているから大丈夫よ。



「楓の親戚のカッコいいお兄さん。」


「私は黒板を見ていただけよ?」


「何も書いてないのにぃー?」


「消し残しが無いか見ていたのよ。」


「ふぅーん。」


「何よ?」


「楓のあんな顔なんて見た事ないからさぁー。」



……手強いわね。ていうかどんな顔してたのかしら。


ーー慎太郎見てニコニコしてたよ。



「気のせいよ。」


「楓を弄るのはこれぐらいにしといてあげるかぁー。ねぇねぇ、楓はどっちの種目に参加する?」


「弄るって…。」



まったく未央には困ったものね。

さてと。クラスマッチか。あんまり気乗りしないわね。種目は野球とサッカー。どちらも私は得意では無い。何より興味が無い。剣道以外のスポーツにあまり関心無いからな。



「どうしようかな。未央は野球でしょ?」



未央は野球部に所属している。ウチの野球部は結構強い。女子校だから当然女子しかいないのだが、都大会で準優勝する程だ。雛鳥学園は学力だけでなく各種スポーツも名門である。私の所属する剣道部も全国で優勝しているし、サッカー部も都大会優勝をしている。まさに文武両道を掲げている学校なのだ。



「得意な種目に出るのがクラスの為になるからねぇ。私は野球にするよ。楓も野球にすれば?」



あ、思い出した。過去でも私は未央に誘われて野球にしたんだった。でも素人が活躍できる程甘くなくて3回戦ぐらいで負けたのよね。

……勝利を掴め、ってこれの事言ってるのかしら?それだと大変よ。だってメンバーは確か…



「そろそろメンバーを決めましょう。自薦、他薦は問いません。皆さんで決めて下さい。」



ーー担任から進行を促される。それによって活発に動く者がどの学校のクラスにも必ずいる。



「それじゃ、私はサッカー行くよ。サッカー部なんだならそれがベストでしょ。」



ーー楓のクラスメートの1人である藤堂麻里奈だ。彼女は続け様に場を仕切り始める。



「私たちA組はスポーツでも負けちゃダメよ。ならば動きの多いサッカーに運動神経良い人を入れるべきだと私は思うんだけどみんなはどう思う?」



確かこの女…藤堂麻里奈だったかしら。家柄でマウントを取る典型的な嫌な女だったのは覚えてるわ。この女が均等割りなんてしないで運動出来る子だけサッカーに持ってっちゃったのよね。



「私も賛成でーす。」


「私もー。」



ーークラスメートたちは続々と藤堂支持を表明する。当然快く思って支持したわけでは無い。A組トップ3の名家である『花山院家』、『芹澤家』、『藤堂家』。A組トップとは言ったが、学校内における最高名家五家、通称『雛鳥五摂家』の跡取となる彼女たちには基本的に他の生徒たちは意見を言えない。楓と未央は学校内における身分制度に不満がある為横柄な態度など取ったりはしないが、他の三家は違う。この雛鳥学園の女王として振舞っているのだ。



「なら決まりね。貴女から貴女までは私たちと同じサッカー。それ以外は野球という事でよろしいかしら、花山院さん、芹澤さん。」



藤堂麻里奈が私と未央を鋭い目で見る。敵対心剥き出しね。私と未央が邪魔だってアピール凄いんだけど。



「んー、別にいいよー?野球部は私しかAにいないしね。楓も他のみんなもいいでしょ?」


「わ、私は花山院様や芹澤様と同じ競技が出来るのでしたら光栄です…!」


「私もです…!」



他の7人のクラスメートたちがおどおどしながらも安堵したような表情で未央に返事をしている。そりゃあ藤堂さんみたいな女と一緒の競技はやりたくないわよね。何より未央は優しいもの。私だって未央と一緒にいたい。


ーーやはり楓はこの頃から百合百合しい兆しがあったんだね。



「私もそれで良いわよ。」



私と未央の許可を得た藤堂さんは満足そうな顔をする。



「ではそう言う事で。他のクラスは当然だけど、3年生にも勝って私たち2学年A組の凄さを証明しましょう。」



あー…思い出した。私たちは負けたけどこの女たちは優勝したんだった。ドヤ顔して私と未央に勝ち誇った顔してたの思い出したわ。



「よーし!ウチらも必ず勝つよー!ファイトA組ー!!」


「は、はい!!」



未央も負けじと野球チームを鼓舞する。他の7人もそれにつられて声を出す。一見すればムードが高まって青春してるように見えるけど私はそんな事言っていられない。

コレ…かなりマズいわね…星3ってかなり難しいじゃない。私の記憶上では3回戦で3年の野球部と経験者の混合チームと当たってボロ負けしたのよね。未央以外素人なんだから当たり前だけど今回は当たり前なんて言ってられない。特訓しようにもクラスマッチは来週。一週間で簡単に上手くなれるのだろうか。そもそもコーチなんていないじゃない。未央に教わる?あ、ダメよそれわ。クラスマッチの練習を体育の時にやったけど未央は教えるのが異常に下手なのよ。『ガーっと来た球をカキーンと打ち返す。カキーンと来た球をパシッと取ってシュッと投げる。』みたいな感じでしか教えられなかった。

うーん…困ったわね…



ーー楓の読み通りこのシーンのクリア条件はクラスマッチでの優勝だ。だがそれは決して平坦なものではない。普通の公立中なら可能性があっただろうが、ここは超名門の雛鳥学園。家柄や学力だけでなく、各種スポーツでも功績を収めている文武両道の学校だ。その中で野球未経験者8人も集まっている素人集団で優勝をするのがどれ程困難な事だろうかは容易に想像出来る。


ーーシーンが本格的に楓に対し牙を剥き始める。

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