第368話 楓のシーン攻略戦

もはや見慣れたマイページ。私は今、彼とそこにいる。これから私の過去へと向かわなければならないのに彼と2人きりという状況に嬉しくなってしまう自分がいる。私はキュヴェを片手に彼を見る。すると、



「ちょっと楓さん。何やってんですか。」



私はドキッとする。彼を見ると同時に彼も私と目が合う。これでドキッとしないはずがない。私は少し照れた感じの表情で彼の問いに答える。



「何がですか?」


「何がじゃないですよ。その手に持ってるのなんですか?」


「キュヴェですけど?」


「ですけど?じゃないですよ。それどうするつもりですか?」


「ちょっとだけ、クイー、しようかと。」


「可愛く言ってもダメですよ。何言ってんですか。今からシーン行くんですよ。」



私は彼の問いに首を少し傾ける。彼の言ってる事が理解出来ない。



「そんな顔してもダメです。」


「え?飲んじゃダメって事ですか?」


「当たり前ですよね!?」


「酷いです!訴えます!!」


「はいはいはい。帰ったらまた一緒に飲んであげますから。それで我慢して下さい。」



…そう言えばいいと思ってるんだから。はぁ。惚れた弱みってやつよね。


ーー楓もだんだんキャラ壊れて来たな。



「…しょうがないな。」


「よしよし。」



そう言いながら彼は私の頭を撫でる。私ってこんなにチョロかったのね。



「さてと。それじゃ楓さんのシーンに乗り込みますか。楓さんって何回シーン行ったんですか?」


「まだ1回だけです。前回の時は星1つのシーンでしたので特に苦労はありませんでした。」


「出来れば星が少ないシーンだといいですよね。」


「そうですね。アリスちゃんの時みたいな星が多いシーンだとリスクがありますものね。」



美波ちゃんとアリスちゃんの時はタロウさんは同級生で幼馴染、更には家に居候という設定で参戦していたという。それなら私もその設定になる可能性が高い。

でも私は小学生、中学生ともに雛鳥学園に通っていた。雛鳥学園は幼稚舎から高等部まで女子校になっているからその設定は難しい。クラスメートという設定は弾かれるのかな。私の家に居候か…悪くないわね。



「それじゃ準備はいいですか?行きますよ?」


「はい、大丈夫ですよ。」



私たちはシーン部屋の扉を開く。そこに広がるのは宇宙のような幻想的な空間だ。こんなロマンティックな場所に彼と2人きりだと胸の高鳴りが大きくなる。

…とまあ、私はこんなに彼に想いを寄せているのだがこの浮気者は明日から牡丹ちゃんと一泊二日でよろしくやるつもりだ。この浮気者め。このシーンで彼との距離を詰めて浮気をしないように調教しておかないと。この浮気者は言い寄られると簡単に流される傾向があるからな。


ーーふむ。よくわかっていらっしゃる。


私たちは扉の前へと移動し、掛けられているプレートを確認する。




【 勝利を掴め ☆☆ 】




「お!星が2個ですね!」


「ウフフ、そこまで厳しくなさそうで良かったですね。」



油断は禁物だけどこれならタロウさんと少しぐらいイチャイチャしても大丈夫かな。



「でもこの『勝利を掴め』って何なんですかね?負けた時でもあるんですか?楓さんっていつも勝ってるイメージあるからちょっと想像出来ない。」


「私だっていつも勝てる事ばかりじゃありませんよ。勉強では負けた事無いですけどそれ以外では結構あります。」


「へー。そんな時の楓さん見てみたい。」


「はいはい。こうして考えてても仕方がありませんからもう行っちゃいましょうか。」


「そうですね。楓さんのサポート出来るようにがんばりますよ。」


「ウフフ、任せましたからね。」



ウフフ、なんか良い雰囲気。これで私の過去に行けば誰の邪魔も入らない。タロウさんの家付近なら昔の牡丹ちゃんでも邪魔して来そうな匂いがするけど、東京にはどう頑張っても6、7歳の幼女には来る事は無理。既成事実を作るチャンスね。


ーーうん。牡丹なら幼女の時でも慎太郎が絡むとヤバい気するよね。


私は扉を開け、シーンへと挑む。




ーー



ーー



ーー



ーー




「ん…朝…?」



カーテンから溢れる太陽の光に顔を照らされ目を覚ます。ベッドから身体を起こし辺りを見渡す。私の部屋だ。以前にシーンに挑んだ時以来だから3ヶ月ぶりか。



ーーコンコン



部屋の扉を叩く音が聞こえる。



「どうぞ。」



ーーガチャリ



私の許可を得た事でドアのノブが回り扉が開く。入って来たのは実家の使用人をしている門脇さんだ。



「おはようございます、楓お嬢様。」


「おはようございます、門脇さん。」


「朝食の準備が整いました。」


「わかりました。すぐに向かいます。」



私の返事を確認し、門脇さんは会釈をして部屋から出て行く。さて。身鏡を見る限りでは中学生の時の私だと思う。2年生かな?この時に何か私の転機があったのだろうか。あらゆる角度から情報を得るようにしないと。でも先ずはタロウさんとの合流ね。もう私の家にいるのかしら。食堂に行けば何かわかるはず。



「確か美波ちゃんとアリスちゃんの時はお父様かお母様の友人の子って設定なのよね。それなら私もきっと同じはず。よし。頑張るわよ私。」



ーー楓のシーン攻略戦が始まる。




【 勝利を掴め ☆☆ 】





********************



お世話になります。かつしげです。更新頻度を戻しますのでよろしくお願い致します。

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