第358話 慎太郎・みく 組 リザルト

俺の視界に映っているのは何も無い真っ暗な空間。リザルト部屋だ。内から焦りが込み上げる。



「ぐっ…!!しまった…!!ざけんな…!!あの野郎を野放しにする事なんかできねえんだよッ…!!!」



俺はどうにかさっきいた場所へ戻ろうと周囲を捜索する。何があってもアイツだけは殺さないとダメだ。でなきゃリリが大変な事になっちまう。考えろ、考えるんだ。


俺が焦りながらこの空間から出る方法を探っているとみくが俺の身体に触れてくる。



「どないしたん…?」



ーー慎太郎はみくへと振り返る。

みくは心配しているような顔で慎太郎を見ている。



「さっきの場所へ戻る。ミリアルドを殺さないとダメだ。」


「えっ…?戻るって…ここリザルト部屋やん…そんなん無理だよ…?」


「戻らなきゃダメだ。でなきゃ…このゼーゲンを俺に貸してくれた人に迷惑がかかる…だから絶対に戻ってアイツを殺さないと…ダメだ。」



ーー慎太郎の最後の言葉にみくはゾッとした。明確な殺意を表した事は今まで一度も無い慎太郎がそれを口にし、且つ、目や雰囲気からも本気でミリアルドを殺す空気感が慎太郎から出ている事により、みくは少し怖くなったのだ。

だが、みくは慎太郎を止めようと身体に抱きつく。慎太郎を止めないといけない、そう思った。



「タロチャン…ウチ、そんなタロチャンはイヤや…そりゃあ、オレヒスでは散々相手を殺してる。ゲームの中の事かもしれんけど現実世界で殺された相手がどうなってるかはわからん。もしかしたらホンマに死んどるかもしれん。それでもやらなかったらこっちがやられてしまう。だから戦うしかない。それはわかってる。でも…タロチャンは好んで相手を殺そうとはしてない。出来れば殺さずに済ませたいって思ってる。そんなタロチャンが剥き出しの殺意を向けるんはウチはイヤや…」



ーー慎太郎の背中にみくの体温が伝わる。

それによって慎太郎は少し冷静になった。なったにはなったが慎太郎の気持ちに変化は無い。ミリアルドは殺す。それは絶対だ。慎太郎にとってリリは何よりも大事であり大切。自分の事より、他の何よりも大事で大切だ。リリを守る為なら悪魔にでも魂を売る。そう思ってーー


…何だろう、この感情は。何か変だ。怒りによっておかしくなっているのだろうか。

少し冷静になろう。みくを怯えさせてどうするんだよ。それにこの空間から出る事なんて出来ないはずだ。まずはとっととリザルトを終わらせてリリと連絡を取るしか無い。ミリアルドの事は後回しだ。


ーー慎太郎は手を後ろに回し、みくの背中をさする。



「ごめんな、みく。怖がらせちゃったみたいだな。」



ーーみくが首を横に振る。



「タロチャンの事が怖いわけない。ただ…タロチャンがなんだか遠くに行っちゃいそうで…それが怖かったの…」


「ありがとうな、みく。もうそんな事言ったりしないよ。」


「ホンマに…?」


「ああ。」



ーーそう言って慎太郎はみくを抱き締める。


だがそれは嘘だ。


慎太郎はリリだけではなく、みくにも、美波にも、楓にも、アリスにも、牡丹にも、何かが起こるなら躊躇いなくその障害を取り除くつもりだ。



ーーしかし、今回に限ってはその心配は取り除かれる事となる。


この男によって。



『心配されなくても大丈夫ですヨ。ミリアルドには手出しはさせまセン。』



ーー慎太郎とみくが声の方へと振り返る。



「ツヴァイ…チャン…?」


「いや、アレはアインスだな。」



ーー被っている仮面こそ”ヴェヒター”は全て同じだが、アインスだけは大剣を所持している為、それで判別がつく。アインスと接触した事がある者なら全てわかる事だ。



『御名答デス。流石はタナベシンタロウサマ。』


「その剣で判別つくだろ。それより…今言った事は本当か?」



ーー慎太郎が剣呑な雰囲気でアインスに問う。



『えエ。誓いましょウ。ワタシの魂に誓って貴方の持つ”ゼーゲン”の所持者に手出しはしまセン。この件については不問と板しまス。』



ーーアインスが変声期を使うのをやめる。



『これは”ヴェヒター”の長として、俺と田辺慎太郎との盟約だ。』



ーー慎太郎とみくは驚く。

アインスが変声期を外した事により、性別が明らかになった事。そして相手が人間だということに驚いた。



「お前…人間だったのか…?」


『フッ、機械かナニかだと思っていたのかな?俺は人間だよ、紛れも無く。』



ーー続いてアインスは仮面を外し、その素顔を慎太郎とみくに晒す。

やや長めの銀髪で、端正な顔立ち。西洋人である事は間違いない。

だが、当然ながら普通の人間では無い。戦う訳では無いのに凄まじい程のプレッシャーがアインスから溢れている。それにより呼吸をする事も苦しく自ずと息があがってしまいそうであった。



『おっと、これは失礼。極限まで気を抑えよう。』



ーーアインスがそう言うと、重苦しい程のプレッシャーが解かれ、慎太郎とみくが圧から解放される。



「どういうつもりだ…?」



ーー慎太郎が最大級に警戒をしながらアインスの様子を探る。



『俺の誠意を見せたのさ。顔の見えない相手の約束など信じられないだろう?腹を割ってキミと話をしたかったのさ。』


「腹を割ってねぇ…本当の意味で腹を割られちまいそうな気もすんだけどよ…」


『そんな事はしないさ。何よりキミは勘違いをしている。俺はキミの、キミたちの味方さ。』


「味方…?」


『そうさ。キミがツヴァイに何を言われたのかは知らん。だが予測はつく。大方、俺がキミたちの敵だとか言われたのだろう。だがな、奴はキミたちを利用しようとしているのではないか?冷静に考えろ。俺がキミたちを危険な目に合わせた事はあるか?寧ろ、助力をしてやったつもりだがな。』



ーーその言葉に慎太郎はある程度の納得はした。

現に自分と牡丹に『フライハイト』と『フリーデン』を渡している。

だがそれだけで信用に値するとは簡単に思う事は出来ない。



『まあ、顔を晒したぐらいで信用なんて出来ないとは思う。だが、これは俺の真意だ。俺はキミたちの敵では無い。キミたちの真の敵はツヴァイたちさ。』


「ツヴァイ、たち?」


『ああ。ツヴァイ、サーシャ、葵、リリ。これらがキミたちの真の敵だ。良いように利用しようと言葉巧みに唆していると思うが、最終的に田辺慎太郎以外の殆どの者を殺すつもりだ。』


「は!?」

「えっ!?」



ーー慎太郎とみくはアインスの言葉に驚き慄く。当然だ。そんな事を聞かせられれば驚かない訳が無い。

特に慎太郎はリリの名前が出た事で動揺を隠せない。



『誤解が無いように訂正しよう。リリはその計画に心を痛め、悩んでいる。』



ーーアインスの言葉に慎太郎は大きく反応する。



『リリはキミたちの誰も殺したく無い。それだけ優しい女性なのだよ。彼女だけは。しかし、ツヴァイとサーシャ、葵に弱みを握られているのだ。』


「弱み…?」


『そうさ。だから逆らえない。』



ーーアインスが慎太郎に近づき、みくに聞こえないよう耳元で囁く。



『だからキミを鍛えている事を内緒にしているのだよ。キミが皆を守れるように。ツヴァイたちの毒牙から逃れられるように。』


「…その話は本当なんだろうな?」


『もちろんさ。だがリリはそれを言えない。ツヴァイとの盟約があるからな。キミがリリを救ってやるんだ。』



ーー慎太郎は心を大きく揺さぶられている。

アインスの言う事は筋が通っている。否定しようとする点が無い。だからこそ悩んでしまう。



『それだけじゃ無い、キミが綿谷みく、相葉美波、芹澤楓、結城アリス、島村牡丹を守ってあげなければならない。』



ーー慎太郎はアインスを見る。



『俺を殺せばキミの大事な仲間は殺される。選択を間違えるな。田辺慎太郎。』


「俺は…」



ーー慎太郎は悩む。

そんな慎太郎にアインスは優しく声をかける。



『そんなにすぐ答えを出す必要は無い。じっくりと考えろ。俺とツヴァイ、どちらが真実を言ってるか。』


「……」


『これだけは言っておく。俺もリリを救ってやりたい。リリを脅しているツヴァイたちが許せないのだ。』



ーー慎太郎の心は殆どアインスに傾いていた。真実がどうかはわからない。だが、自分が大切としている者たちを守れるなら、そう思っていた。



『そろそろお開きとしようか。報酬を受け取り給え。』



ーーアインスが黒い箱を慎太郎とみくに差し出す。



「これは…?」


『報酬のゼーゲンだよ。そう言う約束だろう?これで田辺慎太郎は1段階解放。綿谷みくは2段階解放だな。』


「えっ?ウチはこの前の入替戦で負けたから没収ちゃうの?」


『あの時はなんだかんだで有耶無耶になってしまったからな。俺の力で無効としておいた。』


「ホンマ!?あんがとー!!」


『どういたしまして。それではーー』

「ーーあ、ちょっと待ってくれ!!」



ーーアインスがリザルトの終了を宣言しようとするのを慎太郎が静止する。



『どうした?』


「いや、ちょっとだけいい?みく、ちょっと。」


「え?」



ーー慎太郎がみくの手を引いてアインスから距離を取る。



「どしたん?」


「一応確認だけどさ、わかってるよね?」


「何が?」


「…ここであった事はみんなには内緒ってのだよ。」


「あー!ウチらが全裸で一緒のベッドで寝たりとか、一緒にお風呂に入って身体洗ったり、浴槽の中でギューしたりとか、お互い裸の時にタロチャンのタロチャンをウチのお腹辺りに押し当てて元気一杯になってたりした事とか?」


「それ本当にやめてね!?牡丹かノートゥングにバレたら確実に俺死ぬからさ!?」


「どーしよっかなー。」



ーーここでみくが意地悪そうな顔で慎太郎を見る。



「ちょ!?約束したろ!?」


「ウチは約束なんてしてへんよ?」



ーーそう。みくは約束はしていない。これは慎太郎のミスだ。



「待て待て待て!!!ダメだって!?な、みく。みくちゃん?みく様!!」


「内緒にして欲しいん?」


「はい。お願いします。」


「ならウチのお願い聞いてくれたらええよ。」


「…お願いって?」


「1日1回ウチの事をギューしてチューしてくれれば言わない。」


「…わかった。それもみんなには内緒な?」


「ええの?えへへー!ならウチは約束するー!」



ーー慎太郎は思った。

すでに牡丹と楓と1日2回キスをしてんだから、1回でいいなら楽なもんだ。そんな呑気な事を思っていた。




『話は終わったか?』



ーーアインスが慎太郎とみくに話しかける。



「おう。」

「大丈夫やでー!」



ーー慎太郎とみくはお互いに満足したようでホクホクの表情だ。



『また会おう。』



アインスの宣言により闇に包まれる。


こうして俺とみくのイベントは終了した。





























『全ては俺の予定通りだ。決着の時はそう遠くない。ツヴァイよ、面白いものを見せてやろう。ククク。』

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