第357話 美波 組 リザルト

イベントが終わり、闇に包まれた私たちはリザルト部屋へと転送された。

私は割れた頭を触ってみる。血は出ていないし、傷も無い。良かった。傷が残ってたらタロウさんに嫌われてしまうかもしれないもん。ううん、タロウさんはそんな事で嫌いになったりしないよねっ。

それを確認して瞬時に牡丹ちゃんのいた方角を見る。3人が同じ場所にいる。

私は立ち上がり、みんなの元へと駆ける。



「牡丹ちゃんっ!?大丈夫!?」


「美波さん、お騒がせ致しました。どうにか大丈夫なようです。」



私はお尻から上が露わになっている牡丹ちゃんの肌を確認する。本当だ。何事も無かったかのようにいつもの綺麗な牡丹ちゃんの肌になっている。よかった。安心した。



「はあっ…!!よかったぁ…!!」



安心した私はその場に座り込んでしまった。



「本当ね。一時はどうなるかと思ったわよ。」



楓さんもホッとしたような顔をしている。



「うっ…!ひっく…!本当に良かったです…!!」



アリスちゃんは涙を流して号泣している。それを牡丹ちゃんが頭を撫でて落ち着かせようとしている。



「もう泣かないで下さい。私は大丈夫ですから。ね?」


「は、はい…!!」



うーん、母性を感じるなぁ。

ん…?そう言えばさっき『母』とか『娘』とか言ってたよね?アリスちゃんを抱き込んでしれっと外堀を埋めようとしてるのかな?流石は牡丹ちゃんだね。油断ならない。私もアリスちゃんを抱き込んで娘だと思うようにがんばらないとっ!


ーーと、安定のポンコツぶりを見せる美波であった。



「それにしても楓さんのさっきのあれ、すごかったですねっ!」


「ウフフ、そうね。あの子たちがいなかったらみんな死んでいたと思う。本当に感謝しかないわ。」


「あれって…葵ちゃんのカノーネに似てましたよね…?」


「私もそう思ったわ。なんなのかしらね?でもグローリエは”特殊装備”らしいわよ?」


「あっ、もしかして報酬の”特殊装備”がそのグローリエなんですかっ?」


「ええ。最高のタイミングで付与してくれて助かったわ。」



凄いなぁ。二つ目の”特殊装備”かぁ。時空系アルティメットも手に入れたみたいだし、なんか楓さん強化イベントって感じだったよねっ。



「途中で意識を取り戻してから楓さんの戦いを拝見しておりましたが凄まじい強さでしたね。グローリエの強大さもそうですが、楓さん自体のプレッシャーも今までの状態を遥かに超越しているように感じました。」


「そうなのよね。何だかいつもより調子が良かったっていうか、自分じゃない感覚だったのよ。」


『貴女は”覚醒”の兆しを見せたのですヨ。』



楓さんと牡丹ちゃんが考察していると、ツヴァイが現れる。この人は本当にいつもイキナリだよねっ。



「”覚醒”…?何かしらそれは?」


『人が本来持っている眠ったチカラ。それを扱えるようになる事を”覚醒”と呼びマス。当然それを出来る人間なんて一部しかいなイ。そしてそれを出来た人間は歴史上名を残すような功績を挙げているのデス。』


「そ、そんな凄い事が出来るなんて流石は楓さんです!」



アリスちゃんの言う通りだ。楓さんはすごい人だって思っていたけど、そんな言葉じゃ言い表せない。



「なるほど。入替戦の時のタロウさんと同じという事ですね。」



牡丹ちゃんが呟く。入替戦の時…?タロウさん…?どう言う事だろう…?



『良く見ているのでスネ?』


「はい。タロウさんの事を見るのが私の楽しみですので。見逃す筈がありません。」



ーー牡丹の言葉にツヴァイを含めた場の全員の空気が微妙な雰囲気を醸し出す。



「あの時のタロウさんと同じってこと?」


「私は最後の時の楓さんしか見ておりませんのではっきりとは言えませんが、雰囲気は似ておられました。似てるといっても同じ空気が出ていた訳ではありません。同じ技を使っている様なものです。決して相性が上がった訳ではありませんので勘違いなされないで下さい。」



ーー安定の重さを放つ牡丹であった。



「…なんかちょっと引っかかる言い方だけどまあいいわ。確かにあの時のタロウさんは妙な強さだったわよね。それと同じ事が私にも出来てたって言うの?」



楓さんがツヴァイに問う。



『そうデス。兆しではありますガネ。』



なんだか話についていかれないなぁ。入替戦に参加した事がないからよくわからない。はぁ…早くタロウさんをひと嗅ぎしたいなぁ。



ーー美波も安定のクンカーっぷりだった。



「だからあの変態を圧倒する事が出来たのね。普通に考えてもおかしいもの。スキルを使えない私が”特殊装備”だけで圧倒出来るはず無い。恐らくはあの変態のゼーゲンは最終解放でしょ?」


『仰る通りデス。ですが一つ訂正がございまス。セリザワサマの『グローリエ』は”特殊装備”ではありまセン。『神具』デス。』


「『神具』?」


『”特殊装備”を超えたモノだと思って頂ければよろしいカト。シマムラサマが持つ『フリーデン』も『神具』デス。』


「そうなのですか?でも合点がいきました。攻撃系の”特殊装備”だとしても『フリーデン』は余りにも強力すぎる。別物というのならば納得です。」


「なるほどね。それじゃあグローリエがあったからこそ勝てたのね。」


『いエ。”覚醒”の兆しがあった事が前提デス。それと『グローリエ』があった事で圧倒出来タ。そういう事デス。だから勘違いをなされないで下さイ。『グローリエ』を次に使用したトキ、今回のようには使えまセン。硬ド、威リョク、それら全てが今回を遥かに下回っていますノデ。』


「肝に銘じておくわ。」



うーん、やっぱり話がわからないなぁ。早くタロウさんをクンスカしたいなぁ。



『最後ニ、『神具』を手にしたセリザワサマには”爵位が与えられマス。』


「なにそれ?」



まだ話続くのかなぁ。早く戻ってタロウさんを直嗅ぎしたいのに。もう美波の充電は空ですよっ。



『簡単に話すのなら貴女の強化デスヨ。爵位を持つものには”サイドスキル”を授けられる事となってオリマス。タナベサマやシマムラサマにも授けておりマス。』


「そうなの?」



楓さんが牡丹ちゃんに問う。



「はい。お知らせしておりませんでしたが、私とタロウさんには爵位が与えられ、”サイドスキル”なるものを得ました。ですが、私たちはまだ発動出来ません。」


「え?どうして?」


「どうやら”サイドスキル”は瀕死に陥らないと発動しないようなのです。」


「瀕死…どうしてさっき牡丹ちゃんのその”サイドスキル”は発動しなかったのかしら…?」


『今回のイベントデ、シマムラサマは瀕死よりも危険な状態になったタメ、発動しなかったのだと思いマス。』


「なるほど。」


『最下層の爵位になりますガ、フライヘルの爵位を御与えシマス。”サイドスキル”に関しては完全ランダムで発動致しますのでよろしくお願い致しまス。』


「わかったわ。」



本当に楓さん強化イベントって感じだったなぁ。私もがんばらないとっ。でもまずはタロウさん成分の補給だよねっ。



『それでは御機嫌よウ。』



私たちの視界が暗くなり、イベントが終了していく。タロウさんのいない私の長い1日が終わりを迎える。




ーー





ーー


























『で、どうだった?』



ーーツヴァイが仮面を外し、その可憐な顔が露わになる。



「想像以上だったわ。」



ーーサーシャが美波たちの消えた場所から現れる。



「芹澤の”覚醒”は私たちの予想を上回っていると思う。私やリリと同等になる可能性が高いわ。」


『へー、やるじゃん楓ちゃん。ダテに桃矢を半殺しにはしなかったって事ね。』


「でもあまりにも出来すぎよ。島村の『フリーデン』、芹澤の『グローリエ』、『神具』を2つも田辺慎太郎のクランに渡してるのよ。それもアインスがそれを渡すなんておかしいわ。」


『『7つ』ある『神具』の内、『双剣』と『兵器』がタロウたちの手にある…私たちに特がありすぎよね…』


「私たちの計画は順調だとは思う。だけどアインスの計画も順調なのかもしれない。どちらが上をいっているかはわからないわ。アインスを調査するべきだと思う。」


『そうだね。サーシャに任せていい?』


「もちろんよ。」


『ありがとう。』


「じゃあ私は早速向かうわ。リリと葵によろしくね。」


『気をつけてね。』



ーーサーシャがツヴァイに微笑み、空間から離脱する。



『…場合によっては計画を前倒す事も考えないとね。そろそろタロウに会う頃かな。フフ。』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る