第359話 安定の牡丹

ーーまたいつもの声がする。



ーーそうだよ。



ーー誰だっけ…?



ーー酷いな。



ーーいつ会ったの?



ーーいつでも会ってるよ。



ーー昔から?



ーーそうだね。



ーー名前は?



ーー思い出してよ。



ーーわからない。



ーーそろそろだよ。



ーーそうなの?



ーーうん。その時は近いから。



ーーその時…?てか、うるせぇな。







「楓さんっ!!ズルいですよっ!!早くどいて下さいっ!!」


「そうや!!イベント中はウチがタロチャンのお世話をしとったんやから今だってお世話するのが筋ってもんや!!楓チャン、はよどいて!!」


「嫌よ。拒否するわ。あなたたちがボケっとしてたのが悪いんでしょ。」



…またいつものパターンですか。

楓さんが俺の左側に抱きついて足まで絡めて完全にホールドしている。それを美波とみくが激しく抗議している。そんでアリスは安定の右側だ。

あれ?牡丹はどうした?あ、ちび助にトマトジュース飲ませてる。珍しいな…いつもならヤンデレモード入って危険な匂いを撒き散らしてんのに。なんか余裕の風格みたいなもんが出てるぞ…?なんかあったのか…?



ーーお前が指輪あげたからだよ。本当に大変な事になるからな?覚悟しとけよ?



ま、牡丹がおとなしいならそれに越した事はない。とりあえずはスルーしよう。



「…ふーん。楓チャンがそーゆー態度で来るならウチにも考えがあるで。」


「なによ?」



みくと楓さんが険悪な雰囲気を出している。こんなくだらない事でケンカなんかやめてくれよ。



「楓チャンがタロチャンに内緒で設置してる冷蔵庫の事タロチャンにバラそ。」


「ちょっ…!?なんで知ってるのよ!?」



え、何それ。このダメープル反省してねぇじゃん。完全禁酒だなこれ。



「昨日お掃除してたらクローゼットの中に小型発電機と一緒にあるのを発見したの。」



小型発電機って何!?コードでバレるから発電機用意したって事!?とんでもねぇなダメープル!?



「ま、待ってよ…!!それだけは…!!それだけは…やめて…」



楓さんがみくにめっちゃ懇願してる。ドSの楓さんが屈してる姿ってさ…唆るよね。めちゃくちゃにしてやりたくなるよね。

あ、やべ…牡丹がいる時に他の子でエロい事考えちゃダメだったんだ。ヤバい……あれ?ちび助の身体を撫でてるぞ?俺に攻撃して来ないぞ?あれー?牡丹に一体何があったんだ?



ーーだからお前が指輪あげたからだよ。本当に覚悟しとけよ?



まあいいか。牡丹も丸くなったんだな。うんうん。そんならこっちの展開を見てみよう。

懇願してる楓さんに対してみくが優しい顔をしながら口を開く。


「ウチは親友の楓チャンを売るようなマネはしとうない。ウチは楓チャンとずっと仲良うしたいもん。」


「み、みくちゃん…!!」



何この茶番。



「楓チャン、そこをウチに譲ってくれるよね?」


「…しょうがないわね。親友なら譲るわよ。」



そう言いながら楓さんが立ち上がる。ま、茶番くさいけど、ケンカ始めないだけいいか。後で冷蔵庫は鎖でぐるぐる巻きにしとこう。



「そんじゃ、さっそくタロチャンにくっついてスリスリしよかな。えへへ〜。」



みくがしゃがんで俺にくっつこうとする。

だが、



「ちょっと待ったっ!!ズルいよ、みくちゃんっ!!」



美波から激しい待ったがかかる。



「え?なんで?」


「みくちゃんはずっとタロウさんと一緒だったじゃないっ!!私はもう充電切れなんだよっ!?」


「楓チャンから譲ってもらったんやからズルくないと思うんやけど。」


「ダメよっ!!楓さんもみくちゃんもズルいっ!!」



子供のケンカじゃねぇかよ。



「…ふーん。美波チャンだってズルしとるやん。」


「私はしてないわよっ?」



またケンカ始まりそうな雰囲気ですやん。もうこのクランダメダメじゃねぇか。牡丹とアリス連れて独立するかな。



「タロチャンのタンクトップを新品のと取り替えてジップロックしてる事タロチャンにバラそ。」


「ちょっ…!?なんで知ってるのよっ!?」



えええぇぇぇぇ…ドン引きなんですけど…やっぱり俺のタンクトップ盗んでる犯人美波ですやん。しかも新品と交換って。なんか生地が新しい感じするとは思ってたけどさ。



「昨日の朝に現場を目撃したんやもん。美波チャン、女の子がしちゃいけない顔しながらやってたよ?」



もう美波とどうやって絡んでいいかわからねぇんだけど。



「ま、待ってっ…!?それだけは…それだけは言わないで下さいっ…なんでも…しますからっ…」



うわ、エロ。言い方がエロいんだよ美波は。美波とエロい事してぇぇぇぇ。

……ホント、なんで牡丹は何もして来ないんだ?逆に怖いんだけど。



ーーだからお前が指輪あげたからだっての。覚悟しとけよ?大災害起こるからな?



懇願してる美波に対してみくが優しい顔をしながら口を開く。


「ウチは親友の美波チャンを売るようなマネはしとうない。ウチは美波チャンとずっと仲良うしたいもん。」


「み、みくちゃんっ…!!」



だから何なのこの茶番。



「美波チャン、そこをウチに譲ってくれるよね?」


「…しょうがないなっ。親友なら譲るよっ。」



そう言いながら美波が立ち上がる。ま、茶番くさいけど、ケンカ始めないだけいいか。後で俺のタンクトップは回収して、美波には洗濯禁止令の延長だな。



「そんじゃ、さっそくタロチャンにくっついてスリスリしよかな。えへへ〜。」



みくがしゃがんで俺にくっつこうとする。

だが、




ーーガシッ




「え?」



今まで傍観していた牡丹がみくの肩を掴む。



「みくちゃん、タロウさんはお疲れです。いい加減しつこいんじゃないでしょうか?」



牡丹は穏やかな顔で普通の台詞を言っている。だけどなんとも言えない凄まじいプレッシャーをみくにかける。それによりみくが顔を青くして、ただただ牡丹を無言で見つめるしか出来ない。



「私はこのままタロウさんを寝床までお連れ致しますがみくちゃんは理解してくれますよね?」


「あ、はい。大丈夫です。」


「楓さんも美波さんも宜しいですよね?」


「あ、はい。大丈夫です。」

「あ、はいっ。大丈夫ですっ。」


「ふふふ。では失礼しますね。」



牡丹が俺の肩を取り、ご機嫌で寝室まで向かって行く。当然牡丹の力では俺を担ぐのは無理なので俺が上手い事バランスを取ってサポートする。それを4人は乾いた目で見つめていたのを俺は忘れない。牡丹はやっぱり安定の牡丹だった。

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